狩屋は目の前の光景に戸惑っていた。どうしよう。もう少しで練習も始まるし呼びに来たはいいものの、目の前の人物の真剣そうな眼差しに気後れしてしまう。彼の邪魔はしたくはないが今日の練習は試合形式で、彼は試合の中心というかチームになくてはならない存在。キャプテンや霧野先輩をはじめとした先輩たち、練習が始まるのを今か今かと待っている天馬くんや信助くんにも彼を連れてくるように頼まれている。このままじゃみんな練習ができなくなってしまう。そんな責任感からか、決心したように一つ深呼吸をして、狩屋はいつもの笑顔を崩さないまま声をかけた。


「……剣城くん、何やってるの?」

階段に座り込みしきりに手の中のものを扱い続ける剣城になんとか話しかける。すると意外にあっさりと剣城の視線は狩屋に注がれ、きょとんとした顔で首を傾げた。


「何って……見りゃ分かるだろ?」

「どれどれ……え…?」

ぱっと開かれた手のひらには一輪の小さな花。その可愛らしい花びらはもう三枚ほどしかくっついておらず、視線を剣城の足元にやるとそれと同じ色の小さな花びらが何枚も落ちていた。


「花占いだけど……」

「…えーと、何を占ってたの?」

「いろいろ。この頃覚えたんだ、良かったら狩屋も占って…」

「いや……遠慮しとくよ…そ、それより練習始まるから!」

「ああ、そうだった。」

そう言って立ち上がった剣城にようやく安堵のため息をついた。


「……次は、何…?」

しかし安心したのもつかの間、剣城は立ち上がったその足で今度は手に持っていた花を地中に埋め始めた。


「花占いに使わせてもらったから。また埋めたら花が咲くだろ?」


そう言って屈託のない笑みを浮かべる剣城。その笑顔に思わず顔の筋肉が強張る。


「……そう、だね…。」

それをやり終えて満足したのかやっとグラウンドに向かった剣城の後ろ姿を見て、狩屋は身体の力が抜けていくのを感じた。


「……どうしたんだ…俺…」

そして胸に手を置くと、どくどくと早めの脈を打つ心臓。眩暈がしそうだった。


「…可愛いとか、ないだろ……ははっ…」

乾いた笑みとともに吐き出されるのは信じがたいもの。


「…もっと先に何か感じないといけないんだけどなあ……」

ただでさえツッコミ所しかないのに。なんで花占いなんだ、花を埋めたって花は咲かないよとか。けれど一番滑稽なのはやはり可愛いと一瞬でも思ってしまった自分だった。


「俺だけでもまともな人じゃなきゃ倉間先輩が泣いちまうよなあ…」

左胸を抑えていた手をどかして深呼吸を一つつき、狩屋は今感じたことをなかったことにしようと思った。ただでさえ変なやつばかりの部なんだから。自分までおかしくなってしまったら大変。そう一段落つけてグラウンドに向かった。






「……狩屋、見てたよ俺。」

「うおお! てて天馬くん、いつからそこにいたの……」

「あの木のかげにずっと。ねぇ…さっき、どきって音がしたの気のせいかなあ?」

「……?」

「狩屋の左胸から聞こえた気がするんだけど。」

「……え…といいますと…?」

「剣城の可愛いらしい笑顔の後! 確かに剣城が微笑むなんて珍しいからきゅんとする気持ちも分かるけど狩屋までそうなるなんて……」

「いや……天馬くん落ちついて…」

「俺の恋路を邪魔するのは霧野先輩だけで充分! といってもあの人無自覚だけど。」

「はあ……もう練習行こうよ。」

「ああー! そうやってごまかさないでよ!」

「ごっごまかしてなんて……!」



02.13



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