少し薬臭い保健室。霧野は剣城を抱えたまま堂々と入っていく。


「じゃあ、ベッドに座っておいてくれ。」

剣城をベッドに座らせると自分も近くの椅子に座りふうと息を吐いた。そして薄暗い室内を見渡す。保健医は留守のようで二人以外の人影は見当たらない。照りつけるような日差しの外とは違いカーテンをそよがせる程度の風が入る室内。涼むのには最適だった。


「…あの……ありがとうございます。」

すると恥ずかしそうにベッドシーツを握りしめながら剣城が口を開いた。


「…いや、大したことないよ。」

霧野はそれに笑顔で答える。笑顔の隙間から零れる白い歯が何とも爽やかだった。


「……どうして、」

やがて少し間を置いた後、剣城が再び呟くように口を開いた。


「…どうして抱き起こしてくれたんですか?」

あれ位転んだだけじゃどうってことないのに。


「ん? ……どうしてかね…」

その質問に天井を仰ぎ、考え込む仕草をしながら霧野はぽつりぽつりと言葉を綴る。


「だって……足痛めてたかもしれないだろ? 剣城が足痛めたら…って、そう思ったら身体が動いたんだ。」

それだけのことなんだけど。


「……っ…」

そう言いながら首を傾げる目の前の人物を見た途端、剣城は自分の頬が熱くなっていくのを感じた。


「……剣城、顔赤いけど…熱でもあるのか?」

霧野はそう言い剣城の額へと手を運ぶ。ぴたりと手を当てた額からは大した熱を感じなかった。


「……っ、熱ないです、からっ!」

しかし厚意としてやったのに、剣城に素早く手を振り払われてしまった。


「……ならいいけど…」

「……っ大丈夫で、す…」


剣城が横をふいっと向いてしまい、しばらく二人の間に沈黙が流れる。


「…………。」

一度上がった頬の熱は全くといっていいほど下がる気配がない。これも全部先輩のせいだと決めつけて唇を噛み締める。


(平然とした顔でかっこいいこと言いやがって)


そんな剣城を見て、霧野はますます首を傾げる。そんな横を向かれてしまうようなことをした覚えはない。


(そんないちいち俺の行動に反応しなくても)


やがて、どちらからか分からないため息が聞こえた。


(ほんと、おかしいやつだな)


二人が同時にそう思ったのを、本人たちが知る由もなかった。


02.13



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