休みの日。けれども学校の敷地内には活気ある声が溢れ、部活動に勤しむ生徒が多く見られた。その中で、声も一段と威勢がよく校門近くのグラウンド内を思いっきり走り回って練習試合をするサッカー部の姿があった。


「剣城ー! パスいくよー」

軽快な動きでディフェンスをかわしながら天馬がボールを剣城へと運ぶ。そのままスムーズにパスが通りボールは剣城の足元。走る速度をあげボールを蹴りながらシュートの体勢に入る姿はしなやかで神聖な雰囲気を纏ってさえもいる。そして剣城がゆっくりと足を上げた。


「……え、っ……」

しかしボールは蹴られないまま。代わりに足を滑らせ後ろに緩やかに傾いていく身体。


「…っ、剣城?!」

天馬の焦った声色もそれには間に合わない。剣城が次に起こるであろう衝撃に目を閉じた時。


ふわりと優しい感触が背中に当たった。感じると思っていたグラウンドの固く冷たい地面ではなく、包み込むような温度。

その感触に驚き、恐る恐る目を開いた剣城の目の前にいたのは爽やかに汗を滴らせ眩しいほどに笑顔の霧野先輩だった。


「……剣城、大丈夫か?」

ちょうど剣城の肩と膝裏に腕を入れ、お姫さまだっこのような状態で霧野は続ける。それを聞く剣城の目はどことなく輝いていて、自分を救ってくれた王子様を見るようにきらきらとしていた。無意識に胸の前で指を組まれた手にも力が入っていた。


「…だ、大丈夫です…っ…」

「でも、足を滑らせただろう? 一応保健室に連れて行くから。」

そう言ってそのまま立ち上がる霧野。剣城の体勢はお姫さまだっこのまま。けれど本人に嫌がる様子はなく、気にせず霧野は神童に一言告げ、男らしく剣城を抱きかかえたままグラウンドを後にしてしまった。


そんな二人の、王子様とお姫さまなファンシーな世界に取り残さた人々。霧野と剣城がグラウンドを出た後もしばらく黙って立ち尽くしていたが、やがてため息混じりの声が聞こえた。


「……なんであんな男前なんだ…」

「……なんであんな乙女なんだ…」

ツッコミ役の倉間と狩屋の声だった。確かに剣城は足を滑らせて捻ったかもしれないから歩かせないようにするのは分かる。けれどなぜ霧野はお姫さまだっこで悠々と保健室まで運ぶのだろう。そしてそれに文句も言わずましてや嬉しそうな態度の剣城。その呆れるような一部始終を見て、普通の神経を持っている倉間と狩屋はそう思わずにはいられなかった。

すると、ぽんと狩屋の肩に手が置かれた。


「狩屋、俺も分かるよ。」

「……天馬くん…」

「……だっておかしいよね。剣城は俺とそうなるはずなのになんで霧野先輩が…」

ぶつぶつと呟きながら肩に置いた手に力を込める天馬を見て、狩屋はこの部にまともなやつなんていなかったな、と改めて深いため息をついた。



02.13



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -