foolishness
手首を掴み強引に組み敷いた身体はあまりにも頼りなく、抵抗はしてくるものの、たいした力ではなかった。
「……ごめん。」
そう言って、剣城のワイシャツのボタンに指を掛ける。さらけ出された素肌は透けるように白くて、思わず息を呑んだ。
「……っ…やめ、ろ…」
しっとりとした素肌に手を這わせると、そんな弱々しい抗議が上がった。俺を押し返そうとする腕には力が入っておらず、抵抗を諦めたそれは悔しそうに床に投げ出される。そんな動作一つ一つに胸を痛める自分にも腹が立った。
「……ごめん。」
……知っている。知っているから。お前が選んだのが俺じゃないってことくらい。俺のわがままに剣城を巻き込んでしまっている。そこにあるのは淡い恋心でもなく、激しい愛でもなく単なる醜い感情だけ。分かっている。分かっているけれど。行為を途中でやめるほどの勇気なんて持ち合わせていなかった。
「…あっ…ん、や…ぁ…」
強引で乱暴な行為の中で得られる快楽。そんな浅はかなものに溺れてしまう。それに価値がないのは分かりきっているけれど抗えない。
「…つ、るぎ…っ…」
好きなんだ。諦めきれない。そんな伝えられない気持ちたちが溢れ出しそうになる。それを言葉にしてはだめだという理性が寸での所で留めてくれる。
「…んっ…ふ、や…っ…」
「……つる、ぎっ…つ、るぎっ…!」
無理矢理押し入った剣城の中は溶けそうなほどに熱くて、なぜだか泣きそうになった。そんな細い身体を無様に揺さぶる俺。未だに剣城は顔の上の腕をどけてくれない。それにまた、意味もなく胸が痛んだ。本当はもう、胸なんか痛める必要はない。だって元から可能性はゼロなんだから。
「……いそ、…っ…ざ…き…」
その剣城がふいに俺の名前を呼んだ。
「……ん、っ…なに…?…」
そのことが予想外すぎて、一瞬頭が真っ白になる。腕の隙間からちらりと見えた剣城の顔は泣きながら歪んでいて、ひどく辛そうな顔をしていたように思えた。
「……もう…っ…やめ、て…」
「……っ…」
「…お前の、こと…嫌いになりたくない。」
その言葉で全ての動作が止まる。
「……ごめん。」
「……ちが、う…っ」
「……でも、」
「…謝ら、ないっ、で…」
嫌いになりたくない。
「…いそざきは、こんなやつじゃない…っ…」
「…えっ……」
その言葉が胸に刺さった。そう言われて初めて気付いた。俺のやっていることがどんなに理不尽か。この行為は俺が思うよりもずっと、剣城を傷つけている。
「……ごめん。」
「……そんな言葉、っ……聞きたくな、い…」
たぶんそれは、謝っても謝りきれない心の傷。
最初から、好きになってもらおうなんて考えてはいなかったけれど。俺の行為は剣城の信頼を失って当然の行為。なのに剣城は嫌いになりたくない、と言ってくれていて。
「……っ…す、き…だよ…」
ああ、俺はその優しさに惹かれたんだ。目から零れる涙と共に、口から滑り落ちる言葉。剣城は信じてくれていたのに俺はそれに浅ましい行為でしか返せなかった。剣城の気持ちを裏切っていたのは俺の方だったんだ。そう思うと罪悪感と後ろめたさに苛まれた。
「……泣くんじゃねぇよ…」
そう言って頭に置かれた剣城の手が温かくて、子どもみたいに泣きじゃくる。縋りたかったのは他でもないこの、剣城の手だった。
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何がしたかったか分からなくなって中途半端に終わる磯京。葛藤が書きたかったけど途中でわけ分かんなくなりました(´・ω・`)
11.11.26