「…さみぃ……」

そんな呟きが思わず練習中に零れた。夏と変わらないユニフォーム姿での自主練。外気に晒された腕と足は冷たくなっていき、みるみるやる気が削がれていく。


「よっ、剣城。」

「……はあ。」

そんな俺を見て、にやにやと近付いてくる人物にもうんざりしたような視線を送った。


「磯崎……お前、元気そうだな。」

「子どもは風の子だからな。そういう京介くんは寒そうだな?」

「そりゃ寒いだろ……」

グラウンドにも冷たい風が吹き込み、今にも凍えそうなほど。寒そうに両腕で自分の身体を抱いた俺の横で、意地悪く笑っている磯崎めがけてボールを蹴った。そのボールは俺の狙い通りに磯崎の上半身へと吸い込まれていく。ぽん、と軽く当たっただけだというのにぎゃあぎゃあと騒ぎ出す磯崎。


「いっ、た! 何しやがる!」

「痛くはないだろ。お前が元気でむかつくから。」

「はあ……なんだそれ。」

「……お前、本当に寒くないのか?」

「べつに。これくらいで寒かったら、雪降った時の練習どうすんだよ。」

「雪降ったら練習は室内だろ。」

「まあそうだけどさあ……」

そしてしばらく腕を組み考える素振りをしていた磯崎が突然、思いついたというように目を輝かせて、


「ほらよ。」

こちらに両手を広げてきた。


「………なに?」

「あっためてやる。」

「どうやって?」

「俺の胸に飛び込んでこい!」

「ふざけんな!」

寒い手を今度はズボンのポケットに突っ込み背中を向けた。こんなやつに構ってられない。そう思い、再び足元のボールを蹴り前に進もうとすると、後ろから伸びてきた手に腕を掴まれた。


「う、おっ…。」

バランスを崩し後ろに倒れ込む。けれど俺の背中に冷たいグラウンドの感触はなく、代わりに柔らかな温かい温度があった。


「危ないだろ!」

首だけそちらに向けて抗議の声を上げた。


「ごめんごめん。でも温かいだろ?」

「……だから何だよ。」

「だから……。」

そう言いながら俺の身体を元に戻し、立たせる磯崎。そしてぎゅっと痛いほどに手を握ってきた。


「冬でも俺がいれば練習できるだろ?」

「……っ!」

そう言った磯崎の顔はなぜかほのかに赤くなっていて。やっぱり、お前も寒かったんじゃないか。けれど、それ以上に自分の顔にも熱が集まっていくのが分かった。握られた手が異様に熱い。


「……いてぇよ…」

「あっ…わりぃ…」

そう言って離れていく手。その温かさが少し名残惜しくも感じられた。それからしばらく、二人の間にはなんともいえない空気が流れていたが、やがてぴぃーという笛の音が聞こえてきた。


「……やっと外の練習終わりか。」

「じゃあ早いとこ中入って準備運動しようぜ。ペア組んでやるから。」

「組んでやる? もらう、の間違いだろ。」

歩きながら再び握られる手。やはり磯崎の手はこんな寒い外なのに温かいままだった。


「お前の手、冷たすぎ。やっぱり俺のは温かいだろ?」

「幼児体温なだけだろ。」

「はあ? …失礼なやつだな。」

そう楽しそうに笑う手をゆるく握り返した。



(寒くても、君の隣はなぜだかあったかい)





初雪が降るまでに




「…あいつらはくっつくと思う? ねぇ、ミツル。」

「無理じゃないかなあ…」

「だよねぇ……磯崎ヘタレだし、剣城鈍感だし。」

「それより光良、俺たちも中入ろう。」

「……寒いもんな。」


─────────────


好き合ってるのに気付かないシード養成時代磯京。主に京介が。磯崎くん報われなくて可愛いです(*´д`*)磯京にしては珍しくいちゃつかせてみました。


11.11.16


- ナノ -