sadly


隣を見ると、確かに彼女はそこにいて。でもその目は私を見ようとはしない。もっとずっと遠い先の、あの人を見つめている。

振り返って。私を見て。なんて言わない。だって二人とも、叶わない恋をしている。その辛さは私もよく知っているから。きっと彼女にも、後ろを振り返る余裕なんてないのだろう。

ふと、彼女があの人から目線を外した。そして私を視界に捉え、ため息をひとつ。


「……ばか、よね……」

そう言いながら笑う彼女はひどく悲しい顔をしていて。


「いつも目で追って、気になって……」

どうせ、叶わないくせに。

最後にそう付け加える彼女。


「そ、そんなこと……ない!」

その言葉に無意識に反論していた。


「……無駄じゃないもの…」

叶わなくったって、その気持ちは大切なもので。

だって私も。

そう思わず出そうになった言葉を寸でのところで止めた。


「……ふふっ、」

花の蕾が風に誘われて綻んだかのように彼女は笑う。

さっきまでの悲しそうな笑顔とは比べものにならないほど、綺麗な表情だった。


「そうやって言ってくれるの、あなただけだものね。」

「……私は、何があっても味方だから、ね?」


そう決めたのは、いつの頃だっただろうか。

初めて見た彼女は、一人しゃがみこんだ私に傘を傾けてくれた、優しくてとても勇気のある人だった。どうしたの、とあの柔らかな声で尋ねられ泣きそうになったのを覚えている。

そして、いつしか彼女の気持ちを知った。しかしそれは私に向けられたものではなく。想い人への気持ちを綴る彼女はひどく弱々しく儚い存在に思えてしまう。あの日私を救ってくれた頼もしい彼女は、恋というものの前では単なる夢見る乙女であった。

守りたい。次第にそう思うようになってきていた。彼女自身も、彼女の大切にしている想いも。だから、私が口を出す隙なんてない。そんなこと分かっているけれど。


「……いつも、ありがとう。」

そう言って、私の両手を包み込む彼女の温かい手。


「……どういたしまして。」


その滑らかな手の感触に、今更期待なんてしないけれど、どうしようもなく胸の奥底にしまい込んだものが疼くのです。




sadly


(悲しいことに、想いを諦めきれるほど私は強くはないのです。)


─────────────


相互ありがとうございます!


11.11.07


- ナノ -