alone


あの人は行ってしまった。俺を置いて、一人で行ってしまった。未だにそう考えるだけで胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

いつも疑問に思っていた。内申のためだと言いながらも、サッカーをする姿はとても楽しそうで。内申なんてサッカー部に入ってさえいればどうにかなるものなのに。どうしてそんなに一生懸命にボールを追っているのか。すました顔をしながらも一軍で汗を流しながら練習に参加して。

だから思った。内申のためだけじゃない。この人は本当にサッカーが好きなんだなって。素直じゃないだけなんだなって。そう理解すると目が離せなくなった。一緒にグラウンドを走り回るのが楽しくなって、プレーを褒められると嬉しくてもっと頑張ろうかななんて、俺らしくもないことを考えた。少しでもあの人に近付きたくて。

俺はどこかであの人に親近感じみたものを感じていたんだ。物事を一歩引いた目線で見ていたり、少しひねくれた性格もそうだし。でも、あの人のサッカーは俺のと違って何か輝きを持っていた。似ていると思っていたのにそれは全然俺にはなくて。だから憧れていた。あの人に近付ければ俺もそんなサッカーができるかもしれないと。


もう名札が取られてしまったロッカーの前に立つ。


「……南沢さん…。」

今、雷門中サッカー部はフィフスセクターに逆らって試合に勝ち進んでいるんですよ。

好きにサッカーができるのは嬉しい。けれど、グラウンドにはもうあの人の姿はない。


「俺、あなたのサッカーが見たかったです。」

何にも縛られず自由にサッカーをするあなたが見たかったです。好きだったサッカーなんでしょ。


「戻ってきて下さいよ……。」

あの人のサッカーが輝いて見えたのはきっと、あの人のことが好きだったから。今更そう思う。あの人のサッカーを見るのが好きだった。あの人とサッカーをするのが好きだった。あの人のためのサッカーをしたかった。


「本当、馬鹿みたい……」

もう何がいいのか分からない。サッカーが大好きだったあの人からサッカーを奪い取って。それでいて本当のサッカーを取り戻そうとしていて。


「俺はどうすればいいんですか……」

落ち込む俺をいつもみたいに小突いて、そんなに考えこむなよと声をかけてくれるあの人はもういない。


「寂しい、ですよ……」

そんな俺の呟きは一人、広すぎる部室に静かに消えていった。


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剣城受けじゃありませんがせっかく書いたので!南沢先輩についての倉間くんの独白のつもりです。倉南というか倉→南というか……。倉間くん寂しいよね!って感じです。


2011.08.27


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