その先には何があるの


「あっ……。」

その姿を見た瞬間、動きが止まった。いつもは開いていない屋上のフェンスに指をひっかけ、フェンス越しに外を眺める背中がどことなく寂しげで、何ともいえない感情がこみあげてくる。


「つ、剣城も来てたんだ……」

少し外の空気を吸いたいな、なんて考えて、開いていないのを覚悟の上で屋上に来てみると、案外あっさりと屋上の重いドアは錆びた音を立てながら開いた。無駄に広い屋上に足を踏み入れる。すると、俺より前に来ていた先客の姿が目に入った。

剣城は目でちらりとこちらを一瞥しただけでまた視線を外の方へと戻してしまう。そんな態度を見るとやはり気まずい。気まずいと感じているのは俺だけかもしれないけど。だって、数日前に俺は剣城に告白してフラれてるんだから。今となってはその時つい衝動的な行動をとってしまったと反省はしているけど、やっぱり気がつくと剣城を目で追っている自分がいて。そして屋上のドア近くで固まる俺。しばらくの沈黙。


「……か、風が気持ちいい、ね!」

「…………。」

勇気を出して話してかけてみるけど、全然会話が続く様子はない。何度繰り返しても気まずい空気はそのままで。もうだめだと思い、もう帰ろうと踵を返そうとした時。ふと、剣城の肩が少し揺れたのを見た気がした。


「………!」

足を止めて見てみると、確かに細くて頼りない背中が小刻みに震えていて。


「剣城!」

大股で近付いて、ぐいと肩を掴みこちらを向かせる。


「っ、なん、だよ……!」

そう言いながらこちらを睨みつけてくる剣城の目には少し涙が溜まっていた。涙が流れないようにと堪えていたのだろう。こんな屋上で。一人で。そう思うともう、いてもたってもいられなくなって。


「何で一人で泣くの……!」

剣城の体を強く強く抱き締めていた。そしてああ、と納得した。なんであの時、剣城に告白したのか。俺は剣城を支えたかったんだ。一人で立っているには不安定で強がりなこの体を。あの時も剣城は唇を噛み締めて、何かを一人で抱え込んでいた。俺には関係ないのかもしれないけれど気が済まなかったんだ。だから。


「俺じゃ剣城を支えられない……?」

「……松風には、関係ない」

「剣城!」

剣城の顔の横のフェンスに手をつき、追い込むような形になる。


「俺、見てられない。剣城がつらそうにしてるとこ。」

「っ……何言って、」

そう反論しようとする口を自分のそれで塞いだ。噛みつくようなキスをして唇を離す。目の前の剣城を見ると、涙目で荒い息をしていて。それを見た自分の息が上がっているのも分かって。



一気に溢れ出した感情はもうおさえられない。






その先には何があるの



(それはこれまで抱いたことのない感情で)


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ちょっと踏み込んだ天京です。これ以上書く勇気が出るといいです、ね……。


11.08.23


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