座るために駆け寄ったベンチの傍に見慣れた背中を見つけて狩屋はなんとはなしに声をかけた。


「あれ、剣城も今休憩中?」

するとその背中は予想通り狩屋の方を振り向いた瞬間、こちらが見て取れるほどに表情を曇らせる。


「そんな顔しなくてもいいじゃん。」

「…うるせぇのが来たなと思って。」

剣城の口ぶりに慣れているのか、狩屋はお構いなしに隣にしゃがみこむ。座った芝生の上はくすぐったいようでいて肌をユニフォーム越しに撫でる草の感触が心地良い。単に冷たくて固いベンチとは大違いだなと、口には出さないが一人考えた。

狩屋にはこの頃分かってきたことがあった。目の前で無愛想な仏頂面で座っている剣城は実はとても話の分かるやつだということだ。いつの頃か、さっきのように何となく話しかけたことがあった。無視されるのを覚悟の上だったが予想外に剣城はきちんとこちらの話を聞いてくれてそれ相応の相槌も返してくれた。それ以来、剣城と狩屋はこうして幾分か話をする仲になっていた。


「練習どう? きつい?」

「べつに。」

「やっぱりシード様はレベルが違うんだねー。」

「お前は? 自主練のメニューきちんとこなしてるか?」

「んー、まあね。結構息きついけど。」

ぽつりぽつりと交わされる会話。その間しばらくの沈黙が続く時もあるが、それは居づらい沈黙ではなくむしろ落ち着く沈黙だと剣城は思う。最初は捉えどころがなく人を馬鹿にしたようで気に食わないやつだと思っていた。けれど打ち解けてしまえば、悪戯で子供っぽい所は変わらないが今ではただ素直になれないだけなんだと分かる。


「ねー、練習終わったらどっか行かない?」

「どっかって?」

「ご飯食べたり、剣城の行きたい所とか。」

「んー……ない、な。」

「ええー…じゃあ俺の買い物付き合って!」

「はあ?……まったく、」

仕方がないな、と剣城の口から了承の言葉が出た瞬間心の中でガッツポーズをする。以前から剣城とどこか行ってみたいと思っていた。剣城がどんな感じで買い物をするのか、見当もつかない。だから興味があった。何より、剣城とそんな友達みたいなことがしてみたかった。話すようになったからと言って、普段のクラスは違うし、登下校だって一緒にしているわけではないし。


「……なんかさー、」

剣城と話してると気が楽だよ。

そう言って横を見るときょとんとした顔の剣城と目が合った。


「……なに?」

「いや……お前がそんなこと言うの珍しいなと思って。」

「俺だって本音言いたい時もあるの。」

だからもっと剣城と友達になりたい。剣城のいろんなことを知りたいし、俺のことも知ってほしい。


「そんなこと、他の人には思ったことないんだけどね。」

「……厄介なやつに気に入られたもんだ。」

「……ひどい。」

「まあ、」

ふと立ち上がった剣城に背中を叩かれる。


「俺もそう思うよ。」

「……ふふっ、面白い。」

「な、なにがだよ…。」

「剣城がそんな素直なこと言うの。」

「俺だって本音言いたい時もあるの。」

「あっ俺の台詞取らないでよ!」

立ち上がった剣城に腕を伸ばすと、案外あっさりと腕を掴んで立ち上がらせてくれた。そして服に付いた草をはらう。


「ひねくれ者同士、お似合いなんじゃない? 俺たち。」

「はあ……そんなこと言ってないで練習するぞ。」

「はーい、分かりましたー。」

そう言って走り出した剣城の背中を追う。早く練習が終わればいいのに。けれど剣城とどこに行こうかと考えるだけで心なしか走る足がいつもより軽かった。



不本意ながら、気が合ってしまった僕たち





title:発光



いつもとは書き方を変えてみました。京介くんのことが気になっている狩屋くん。その狩屋くんをいいやつだと思ってる京介くん。


11.12.17






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