「ほんっと、気に食わない。」
そんな言葉と共に振り下ろされる拳。目の前の人物の頬は元が白い分、赤く腫れているのが際立って見えた。その頬にまた拳があたる乾いた音。これを聞くのは何回目だったけなと呑気に考えた。
「……何、なんだよ…」
それでもなお睨み付けてくる瞳。まだそんな反論までできるなんて。
「何って?」
「何で、こんなこと……」
「決まってるじゃん。」
楽しいから。いつもいつも天馬や周りの人間に合わせなきゃなんないのってほんとしんどいんだから。
「俺が……松風や他の奴らに、このことを言わないとでも……?」
「うん、言わないよ。」
君はそんなこと言わない。言うわけがない。だって本当はすごく優しい人だもん。それが遠くから見ているだけでも分かったから。
「……でも、それでも言うっていうなら……」
そう言いながらコンクリートに座り込んだ剣城の胸倉を掴んでこちらに引っ張り上げる。
「……ん、ふ!」
そしてその無防備な唇に強引に自分のそれを重ねた。一瞬の触れ合い。離れ際にガリっと相手の唇を噛むと血の味が口内に広がった。目の前を見ると予想通り目を見開いた剣城の顔があった。
「……っ! 狩屋、お前……」
「口止めだよ?」
こちらを睨んでくる剣城ににこりと笑顔で返す。そしてしばらく無言の睨み合い。
「……お前のこと、嫌いじゃないから。」
その沈黙を破ったのは気恥ずかしげに視線を逸らしながら放った剣城の言葉だった。
「……は?」
「だから、普通に部活だけやってくれ。」
「………ほんと、むかつく。」
……違う。違うんだよ。そういうことじゃない。
自分でもよく分からないけど。俺がいつもいらいらしてむかついているのは天馬とか騒がしいサッカー部の連中にじゃなくて、その輪の中にいる剣城をただ見ているだけで何もできない俺になんだ。それがなぜだか認めてしまえたら楽なのに。できないから、そのもやもやを剣城本人にぶつけて。ほんと大人げないな。
「………分かんねぇんだよ…」
「……ん?」
「ごめん。」
しゃがみこんで撫でた剣城の頬は滑らかで、赤く腫れているのが目に痛かった。
「べつに、大丈夫だから。」
そう健気に不器用に笑う剣城。それにますます罪悪感と後ろめたさと、あのもやもやを感じて。俺は俯いたままそこから動くことができなかった。
たった二文字が言えない
(そんな言葉、知らない)
title:発光
殺伐としたマサ京。狩屋は悪になりきれない感じがいいです!
11.10.30