一目見て、広い家だと思った。いや、最初は屋敷とか邸宅って言葉しか出てこなかったし。ましてや、ここが神童の家だって簡単に理解することなんかできなかった。
「…………。」
いざ中に案内されたのはいいが、俺をここまで連れてきた本人は自分の部屋のピアノに真っ先に飛びついてしまい。仕方なく、俺は向かいのソファーに腰を下ろした。
やがて聞こえくるピアノの旋律。タイトルは知らないけれど、どこか聞き覚えのある耳さわりのいい音。けれど、それくらいで機嫌を直してやるほど俺もお人好しじゃない。
誰だって、家に招かれたと思ったら家の主は自分に関心がないといったように違うことばかりしていたら、それはがっかりするだろう。それが恋人同士、ならなおさら。
(自分から誘っておいて)
せっかく二人きりなのに、と自分でも驚くような乙女思考に、はあとため息をついた。
確かに二人きりは嬉しい。特に神童から、あの泣き虫でヘタレの神童自ら誘ってくれた時は本当に、こっちが泣いてしまうかと思うほど嬉しかった。俺に言うのに相当勇気が必要だったんだろうなって。告白された時以来、そんな頼もしい神童が見れたと思ったのに。
けれど現実はそう甘くなかった。
(いや、いきなりおしゃべりになられても困るけど)
こうして黙ったまま放置される方がよっぽど困る。ピアノなんていつでも弾けるだろうに。
わざわざ俺を招いといて、やることじゃないだろ。そんなことでいらいらしてる自分にも耐えられなくなって、唯一のもてなしらしいオレンジジュースを喉に一気に流し込んだ。そして、勢い良くグラスをお盆に叩きつけて、立ち上がる。
「俺、帰るから」
一言、そう言って踵を返した。やがて飽き飽きしていたピアノの旋律が止まって、
「……う、お」
後ろから思いきり抱き締められていた。これは少し予想外。止めにくるとは思ったけれどまさか抱き締められるとは。
「剣城、ごめん……」
神童のか細い声を背中で受ける。
「俺、剣城が本当に家に来てくれたのが嬉しくて。だけど何したらいいか分かんなくて、つい照れ隠しにピアノ……」
ああ、やっぱり神童は神童だなと安心したのかがっかりしたのか。
「で、でも! 剣城のこと好きだから!」
「……っ!」
ずるい。あまりにも唐突すぎる。そんな言葉、告白以来言ってくれなかったのに。途端に、熱を帯びる頬。
そんなタイミング悪く、体をくるりと神童の方へと向かされた。
「剣、城?」
「……っ、見んなよ……馬鹿」
お前の一挙一動でこんなに動揺するなんて。ほんと、どうしてくれるの。
乙女は奪われることを待ち望んでいました
「俺より小さいくせに抱き締めてんじゃねぇ」
「それは関係ないだろ。頬、赤いよ……」
「……っ! うるさい……」
title:確かに恋だった
初拓京です。百合百合してて可愛いです。神童もやる時はやる子だと信じてます!
11.09.18