すやすやと寝息を立てる姿は白竜から聞いていた話よりもずいぶんと年相応に幼くて、気持ち良さそうな彼を起こすのは少し気の毒だと思った。


「……ぐっすりだなあ…」


どうしようかと考えて、結局静かに隣に腰を下ろす。大きな木の下には適度な風が通り、下の芝生もふわふわしてるし確かに寝るには丁度いい場所だった。そういえば島にいた時はこうして木の下に座り込んで空を一日中眺めていたこともあったな。そう思いながら隣の顔を覗き込むと同時に半分ほど開かれた目と気怠げに動く唇が見えた。


「……お前……」

「おはよう。」

「……白竜はどうしたんだ? 一緒に来てただろ。」

「んー、白竜なら今外のグラウンドで天馬達と試合してる。」

「じゃあお前は何でここに?」

「勝手に試合抜けてきた。」

「ほんと勝手だな…。」

寝起きの目をこすりながら微かに笑う剣城が意外で、思わず本当のことが口をついて出る。


「本当は君と話したかったんだ。だから試合抜けて探しにきた。」

「はあ……」

「試合始まる前から剣城剣城って白竜がうるさかったから探しに来てあげたってのもあるけどね。」

そう言うと途端にうんざりした顔になる剣城。あーあ白竜かわいそう。表情の豊かな剣城の顔色を窺いながら続ける。


「……剣城って、結構笑うんだね。」

「……は?」

「いや、僕が聞いてたのは鋭いナイフのように一匹狼で……な感じの話だったから。」

「そんな時もあったっちゃ、あった……かな?」

「ふーん……。」

その時に比べたら幾分か柔らかくなった、ってことなのかな。島に来た時も聞いていた以上にサッカーが上手くて驚いたけれど、何より仲間たちに向ける彼の優しい顔に釘付けになった。

と、そこでふと思い付き、まだ意識が覚醒しきらない剣城の身体を正面からふわりと抱きしめた。


「…っ…おい。何して……」

「…ちょっと……このまま。」

僕の行動に声を上げながらもきちんと受け止めてくれる腕。抱きしめた剣城の身体は寝起きのせいかとても温かく思えた。彼の胸に耳を当てるとその中心で懸命に脈を打つ心臓。服越しでもはっきりと感じる。


「……ねぇ、剣城。」

「……なんだよ。」

「……心ってね、こんなにあったかいんだよ。」

「……はあ…」

「この頃知ったんだ。……一人じゃこんなこと、気付かなかったかもね。」

「……そうだな。」

鼓動を早める彼の心臓。心地良いその音は僕の鼓動も早くする。まるで二つの心臓が繋がってるみたいに交互に音が聞こえる。


「俺だってこの頃知ったんだ。」

「……うん。」

「あいつらが教えてくれた。」

「僕もそうだった。」

そして体勢を立て直しもう一度剣城を正面からきつく抱き締めた。さっきよりも近い心臓の音に頭がくらくらする。


「やっぱり……君、興味深い。」

「こちらこそ、シュウとはもう少し話をしたいと思ったよ。」

「じゃあ最初は友達から! よろしくね、剣城。」

「……なんだそれ…」

そう言いながら背中に手を回してくる彼にまた心臓が跳ねる音がした。剣城にもこの音が聞こえてしまっているのだろうか。そう思うと何だかもどかしかった。


「あ、そろそろ試合に戻らないと。」

「もう終わってるだろ。」

「次の試合から一緒に出ればいい。」

「……はいはい。」

それまではしばらくこのままでいたいと思った。いつか彼の音だけではなく、心の中まで知ってみたいなと、剣城に顔が見えないのをいいことにくすりと一人笑った。彼の鼓動もまた僕のと似て、早めの音を刻んでいた。



至近距離の心臓





title:hmr



シュウ京マイナーですが好きです!言葉がなくとも二人は分かり合えそう。他のCPより精神面で少し大人なCPだと思います。


12.03.19






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