『……』

「……」

『………』

「………」

何時かのデジャヴだろうか?空白が重たいのだ

『あの…』

「…先日は、助けていただきありがとうございました」

『…へ?』

先日、先日、先日………あ

『もしかしてあの化け猫の事…』

そういえば、あの時化け猫から彼女をかばった形になっていたのだ

それに特別な意味があったわけじゃないし、あれがコウタでも助けていた

ソーマは…そんな失態は犯さないのであろうが

「これ…一応、お礼です。…勘違い、しないでくださいね」

そう言い勢いよく突き出されたのは、かわいいピンクの袋でラッピングされた…

…された…これは、一体…?

「見よう見まねでノルンのデータに乗っていた“トリュフ”というものを作ったんです…いらないなら、捨ててください」

…とりゅふ…確か、チョコレートに生クリームを混ぜて固めた一種の甘味だった気がする

僕もノルンで見たことがあるのだが…映像で見たやつより、少し…かなり形がいびつである

『せっかくなんで、いただきます』

そう告げてラッピングをほどけば鼻孔をくすぐるカカオの香り

僕自身料理が好きで甘味もよく作っていたが、手作りチョコレートを食べるのは初めてだ

軍隊の時ではよく板チョコがおやつとして配られていた

栄養補給にも打ってつけで、糖分が頭をはっきりと動かしてくれるらしい

彼女のは周りにココアパウダーがまぶされている

「……」

ただただ彼女は僕が食そうとしている姿を見ていた

…さすがに食べづらいんですが

トリュフを一つつまみ、口に頬る

なめらかに溶けていくのだが、所々ざらつきが感じられた

しかし、程よい甘味に姿形、触感は塗りつぶされ良いところだけを感じた

『…おいしいです』

本心を伝え微笑めば、彼女は思いっきり僕を睨みつけた

「…なんで、そんなニコニコできるんですか?!こんな不格好で触感の悪いものを食べて、なんでそんな風に笑えるんですか!!」

…不格好で、触感がざらついていることは気づいていたのか

「こんなチョコ、不味いって言って捨ててくれたなら貴方を最低と罵って完全に嫌いになれたのに、何なんですか…こんな風にとげとげしいことしか言えなくて可愛げもない私に、どうしてそんな優しいことを言うんですか…?」

睨みつけながらいう彼女の言葉は終わりに向かうにつれだんだんと小さくなっていっていた

……僕を嫌いになりたいのだろうか?

ただ僕は嘘を付いたつもりはない

『確かに、このトリュフは少しざらついてて形も歪ですが…』

「ならなんで…!」

怒鳴ろうとする彼女を制するようにトリュフを口にもう一個含む

『味は、一級品のように美味しいんです』

そういって微笑めば、フリーズしてしまったアリサ

『多分、チョコレートを湯煎で溶かしているときにお湯が入っちゃったんでしょうね、ざらつきの正体はきっとそれです。形が歪なのは、生クリームが多くて軟らかすぎたんでしょう…』

そして、また一個食べる

『でも、味はすごく美味しいんです…アリサも一つ食べなおしてみてはいかがですか?』

そう言って一つ手渡せば、勢いよく口に放り込んでは無言で食べていた

そんな彼女が不意に口を開いた

「……どん引きです」

『…え?』

そういえばすっと立ち上がる

「こんなのが、お、美味しいだなんて…味覚馬鹿です、どん引きです!…失礼します!!」

カツカツとドアに歩み寄れば開く途中の扉に額を打ち付けてしまう

『だ、だいじょう「平気です!…ほっといてください…!」…はぁ……』

そう言い残し行ってしまったアリサ

『……なんか、まずいことをいったのでしょうか…?』






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