アナグラにつくないなや医務室に連れていかれ、ベッドへ無造作に投げられる
『っ……傷口が開きます…』
現に先程巻かれた包帯に新しい血が滲み出していた
「わざと開いたんだ…それよりとっとと脱げ」
『……まさかの濡れ場ですか?いくら視聴者様が望んでいようと僕は男「傷の手当だ殺すぞ」まあ、そうだと思いました』
軽く冗談で言ってみれば先程のイリーニチナさんに近い鬼の形相で睨みつけられたので、微笑み返す
その間にもソーマは着々と消毒液をトレイ出し、ガーゼに染み込ませていた
「……相変わらずの“笑顔”だな」
『…?これがもともとの顔ですが…?』
何故か苛立った面持ちで見られてしまい、どこか居心地の悪さを感じた
……なんだろう…とても眠い
フッと目を閉じれば近くに感じる気配
「こんの………アホ!!」
『っ?!』
傷口への鈍い痛みと消毒液の臭い、ソーマの物でない声に驚き目を開けば目の前に、今にも血管を切らしそうな顔で僕の傷口にガーゼを押し付けるリンドウとそっぽを向いたソーマが居た
何故ここにリンドウが…?
「……リンドウに頼まれた」
ぶっきらぼうに答えるソーマ
頼まれた?何を?
「お前はアホか!……ソーマから聞いた。シールドも構えずにアリサとアラガミの間に入ったらしいな」
『だってあのままじゃイリーニチナさんが』
「だって、じゃない……まあ百歩譲ってそれは多めに見てやるとしても、だ。リンクエイドを断ったらしいな」
え、立てましたし
『ぅぐ……』
言おうとした瞬間、グリグリとガーゼを押し付けられる。染みこまされたらしい消毒液が染みて、電気の様な衝撃が全身を駆け巡る
「…傷の治りが速いのは分かるが、それと命を無駄にする事は違うだろう…」
途端に宥める様に変わった声に変わる
「もう少し、自分を守れ…他人を守るのも分かるが、死んだら意味はねぇからな?」
『……ですが…ひっ』
またグリグリと押し付けられれば言葉が詰まってしまう
消毒液の臭いは苦手だ
「返事は?」
『……これは誘導尋問ですか?』
「へーんーじーはー?」
『……分かりました』
誘導尋問だ、れっきとした
「聞いたな、ソーマ」
突然振られた話しに眉を潜めながらも頷くソーマ
「よーし、じゃあソーマ、こいつが死に急がない様見張れー。これは命令だからな」
『「はぁ?!」』
僕とソーマさんが声を同時に上げ驚く
「命令だからなー?」
リンドウはニコニコとしているが、その裏には否定を許さないような物を感じた
「…失礼します」
そんなおり、病室に響く声
『……イリーニチナさん?』
どこか影を含むような、苦々しい表情をしたイリーニチナさんが現れた
「……この度は、私の不注意でこんな傷を負わせてしまい、申し訳ありませんでした」
どこか押し付けるような、棒読みに近い口調で言われてしまい、どうして良いものかと悩めばリンドウが言葉を紡ぐ
「んまぁー、今回はこの馬鹿が悪いから、アリサは悪くはない…って言いたいが、少し不注意もあっただろうから、気をつけろよ?……それとレオ」
『……はい?』
「よそよそしいだろ、イリーニチナさんって」
突っ込む所はそこでしたか
「……アリサ」
ぽつりとイリーニチナさんが口を開く
「…アリサと呼んでください。イリーニチナだと、長いですし落ち着けません」
『はぁ……分かりました、アリサさん』
呼んだ瞬間、隣で吹き出すような音が聞こえた
……リンドウが腹を抱えて笑っていた
「お前はホントに他人行儀だなあ……クククっ」
「……さん付けじゃなくていいです」
馬鹿笑いを続けるリンドウを一瞥してアリサさんを見遣れば何処か不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた
『……なら…アリサ、でいいんですか?』
「…今回は私も悪かったとは思いますけど、あんな自分の命を危険に曝すような事はしないでください!迷惑です」
一言で言われてしまったので返す言葉も無く黙っていれば、おもいっきり睨みつけられる
「……レオっも、あの黄色も馬鹿です、ドン引きです…!失礼します!!」
そう言うと、部屋を飛び出してしまった
黄色って…コウタのことだろうか。十中八九そうだ
イリーニチナさ…アリサは、何故か僕の名前を呟く瞬間、言葉に詰まるような仕種を見せたが、そんなに呼びづらい名前だろうか
「……おぉおー、お熱いねぇ」
馬鹿にしたような声に振り返ればリンドウはタバコを口にくえていた
『リンドウ、ここは禁煙……?』
クラリと眩む視界に移るソーマ
珍しく焦っているのか、顔を青くしていた
……なんで?
「おいリンドウ!あんまりにも強く押し付けるからまたレオから血が…!」
「……げっ?!」
……成る程。だからこんなにクラクラするのか
そして僕の意識は暗闇へと溶けていった
A pain cannot be shared.
(…馬鹿が!!)
(わりーわりー、ハハハ…)
(…早く医者を呼んでこい!)
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