*レオside



サクヤさんとの、初任務

いつもなら、絶対、声くらいかけることは出来たはず

なのに何故か今日は凄く焦っていた

何かの衝動に駆られる様にしてアラガミを切り刻んでいた

サクヤさんの声も、敵の断末魔も、雨の音も血に濡れていく感覚も、なにもかも感じなかった

ただ、苦しかった

殺したかった

斬りたかった

サクヤさんは気にしないでと笑っていた

でもその笑顔は、声は、目は、何もかもが恐怖を塗り固めるための行為

アノ悪夢のせいだ

―――何もかも…

任務を終えて、エントランスに戻る

ざわつくエントランス

……それもそうだろう。血塗られた人間が帰ってくれば、ざわつきもする

「レオさん?!だ、大丈夫ですか!?」

『えぇ、平気ですよ?とくに怪我も……ッ…?』

心配そうに尋ねて来るヒバリさんを安心させるためにも笑顔で答えようとしたら、途端に痛みだす自分の腕

「えっ……レオさん?!う、腕……!」

言われて右腕を見てみれば見事にえぐられた傷とぽっかりと穴を残した刺し傷

『……ありゃ…?……あー…多分コクーンメイデンにやられました』

サクヤさんは気付かなかったみたいだけど…まあ、それもそうだよな

放心してたし…

「はっ、早く救護室に!救護班も手配しますからね!」

『ははっ……大袈裟ですよヒバリさん。こんなもの、ほっておけば治りますから、平気です』



























「筋繊維断裂及び崩壊……ってとこかなあ」

「これの何処が平気なんですか?!」

呑気に笑いながら説明するペイラー榊さんに、泣きそうな顔で怒号を上げるヒバリさん

「うっわあ派手にやったなー…」

「ごめんなさい、私が居たにもかからわず……」

呆れ顔で覗き込むリンドウに、申し訳なさそうなサクヤさん

「フン……ざまぁねぇな…」

すました顔で壁に寄り掛かるソーマさ………ってなんでソーマさんがここに?

『皆さん、すいませんでした…でも、平気ですよ?こんなこと、軍人時代にはざらでしたから』

正直、軍人時代の方がもっと酷かった

人間は、神という存在に魅入られた人間は死を恐れず戦場に立つ

故に加減などあるはずもない

『それにこんな怪我……半日で治りますよ』

「いくら君がオラクル細胞とのシンクロ率が高いからとはいえ、流石にリハビリが必要なレベルだよ、これは」

そういって笑うペイラー榊さんの目は笑っていなかった

なにか警告を促すような瞳

そんな瞳をよそに僕は右腕に巻かれた包帯を引きちぎるようにして外す

「……おや…?傷が……塞がっている…」

包帯を外した所あるのはほぼ塞がった傷口

「そん、…な…見たときは確実に腕を貫通して…!」

『…実は昨日も怪我をしていたんですよ?オウガテイルの針がサックリとお腹に刺さっていました。でも今日普通に任務を受けられた……それぐらい治癒力は高いんですよ』

そう、まるで化け物の様に

「ふむ……これは研究のしがいがありそうじゃないか!…では、失礼するよ」

そう言って部屋を出ていくペイラー榊さん

「まったく榊博士ったら……あれ、無線…?………あ、ハイ、ツバキさん?す、すいません今行きます……!ごめんなさい、何だかトラブルが起きたみたいなので戻ります!あと、リンドウさんとサクヤさんにも出撃要請が出ています。レオさん、傷の治りが早いのは分かりましたけど、無理はしないで下さいね!」

「……そうね、彼女の言った通りだわ。無理せずゆっくり休んで頂戴?」

「そういうこった。まあ、ガキはゆっくりおねんねしとブッ…!」

心配そうに出ていくヒバリさんにサクヤさん。リンドウには手元の本を投げつけた

……残ったのはソーマさんだけだ

ぼすりとベッドに体を埋める。目を閉じたが、ぐずぐずに崩した包帯を巻き直さなければならない事を思い出し目を開けた

『……』

「……」

先程まで壁に寄り掛かっていたはずのソーマさんが何故かベッドの横に立っていた

『あ、えーと……ソーマさ「包帯」……はい…?』

「右腕を貸せ、包帯を巻き直してやる」

『…結構です』

そう一言言って端を口にくわえ腕に巻き付けていく

………上手く巻けない

『んむ……』

そんなことをしていたらバッと包帯を奪われ、右腕を持って行かれた

……治りは早いけど、少しは痛むんですよ

「……」

『……』

「……」

『……』

……空白が、重い

「……もう少し」

『はい?』

「お前はもう少し、人を頼れ」

……貴方に言われたくない気がする

この2日間ぐらいだけど、ソーマさんが誰かと任務に出た所を、誰かと話している所を見たことがない

リンドウさんやサクヤさん、それにいつぞやの先輩さんだって誰かと関わり、誰かと頼りあっていたというのに

――ここまで詳しく知っているのは人間観察が趣味だからであり、決してストーカーではない

―貴方に言われたくない―

この一言は、何故か口から出なかった

それはソーマさんが、あまりに影を含む目をしていたから

『……はい』

素直に、従ってみた

そんなこんな、包帯が巻き終わった

……綺麗に巻けていて、少し悔しい

『ありがとう、ございます』

僕はいつも通り微笑んだ

「……どうしてお前は、笑うんだ」

『――はい?』

そうだ

そういえば最初も似たような事を言われた

―なんで無理に笑ってんだ―

―じゃあなんでお前は意味のない笑顔を作るんだよ!―

『そんなにも、僕の笑みは貴方を不快にさせますか?』

「ああ」

……即答…

そうか、そんなにも不快なのか



僕はいつもの微笑みを消した

残ったのは、きっと無惨な真顔

真実のみを映し出す瞳

一瞬ソーマさんが驚いたように見えた

『……約束…いえ、契りです』

淡々と言葉を呟く、否、吐く

『これは自分自身への戒め。笑う事が、自分への罰』

一度目を瞑り、もう一度開け

――いつもの自分に戻る

『これが、僕の“無理”な、“意味のない”微笑みの理由です』

微笑んで見せればバツが悪そうに舌打ちをして立ち上がり、ドアに近付く

「……寝ろ。ゴッドイーターが減ったら、面倒だ」

一言吐き捨てる様に呟き、部屋を出て行った

―――寝ろ

その一言がまるで魔法の様に、途端に重くなる瞼

閉じる寸前に綺麗に包帯の巻かれた右腕を天井の照明へと手を伸ばす

届くはずもなく、睡魔の支配と同時に、ポトリとベッドに沈んだ






Extend a hand to tomorrow when it will not be visible.






(…あんな表情…)
((すぅ………))
(…憎しみも、何もかも、無かった)




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