再び廻りだす



僕達の一族は昔……といっても僕たちにとってはつい最近のようなことだが
もう1つの一族である人間に支配されていた
何年も何十年も、僕達に自由なんてなかった

だけど、最後は本当にあっけなかった
その時代の人間は道具に頼りすぎていた、それさえ失えば所詮力のない人間が僕達に勝てるわけがないんだ
僕は未だに、何故人間に支配されていたのか理解に苦しむ
ただ、その場の流れに飲まされていた気がする、いつでも逆らうことは可能だったんじゃないだろうか

今じゃ僕達は完全に二つに別れてしまった
昔は優勢にあった僕達だったが近年では人間達も技術を発達させ五分五分だ

まぁ、そんなの関係ない
むしろ僕は二つの種族のいざこざに興味はない
だって人間は醜いから、欲望に忠実で、さらに求める。やり方が汚い
そんなの全然美しくない
そんな美しくないものに僕は関わりたくない

ハッキリ言って、自分達の種族も僕はいいように思ってない
憎しみや怒りでドロドロしてて、それも美しくない
まぁ、あの人が望むなら僕も全力を尽くすよ
あの人は誰よりも純粋で、美しい。僕らの絶対的存在だからね
そんな僕はここにいるのも行き詰まることがある
だから決まっていくところがある
僕らの国を出て、しかし人間側の国に入らない。ちょうど境のところ
相手のところに近いため危険だと言われているが、逆に言えば何も触れていない一番汚れを知らない場所だ
僕らはそこを『マサラ』と読んでいる

ここは静かで心が清められていくようだ
だから僕にとって一番好きな場所だ

僕は草原の上に大の字で寝転がる
本来絶対にやらないことだけどここでは特別だ

本当に落ち着く
誰もいなくて

「なんばしとっと?」

いないはずなんだ

直ぐに上体を起こして声がする方を見る
そちらには茶色の髪をした美しい海のような色の瞳を持った少女がこちらを見つめている

「君は?」

「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るものったい」

なんだ、このなまり全開のしゃべり方
田舎者のオーラしか出してない
だが少女の言っていることもあながち間違っていない

「僕はルビー」

「あたしはサファイアったい」

満足したように自分も名乗る少女は僕のとなりに腰をかける突然で動揺した、この子には警戒心というものがないのだろうか

「ところでルビーはこんなところで何しとったっと?」

初めて会ったと言うのに彼女はズケズケとプライベートに入ってこようとした
それが気にくわないで黙っていると彼女が先に喋り出す

「アタシは、ちょっと逃げてきたんよ。アタシの年齢くらいばなると色々教わらなきゃいけないことたくさんあってね」

難しいことは苦手ったい。と笑ってしゃべる彼女の隣で冷めていく自分がいた
なるほど、彼女は人間か……と

「アタシの父ちゃんは学者で、将来はアタシも父ちゃんの後を継がなきゃいけないけん、たくさん勉強しなきゃいけないったい」

ん〜、と背伸びをしたと思ったら先程の僕のように大の字になって倒れ込んだ
彼女もまた将来は口のために知恵を使い、それと同時に僕達の敵として対立するのか
こんな子供のときからいつか来る戦争のために自由を奪われるのは他人事でも可哀想だと思った

人間は嫌いなはずなのに、何故か僕は彼女の前だと素直に言葉が紡ぎ出せた

「僕も逃げてきたんだよ。なんだかそこが息苦しくてね」

彼女は、そっか、とだけ呟いてそれ以上追及してこなかった
それが、とても楽で居心地がよかった

「君はどうしてここに?危ないってくらい聞いてるだろ?」

僕らにとって人間は憎むべき敵である、人間にとって僕らは危険分子
これはどちらにおいても常識の知識だろう
ここに来ることも、普通だったら禁止されていることだ

「ここは一番綺麗な場所だけん、アタシはここが好きばい。それにアタシ、異種族の人たちのこと嫌いになれないんよ」

その言葉につい目を見開いてしまった
空耳ではない、確かに彼女はそういった

「アタシ、田舎から来たんやけど、異種族の人達に故郷を壊されちゃった。最初は許せなかったけど、あの人達も同じだったんだなって思って」

「同じ?」

「うん、だってあの人達はすごく苦しんだばい。今でもアタシ達のことが許せないくらいに。そこまでしたのはアタシ達人間ったい」

ねっ?と聞かれても、僕はどう答えればいいかわからなかった

「アタシも許せなかったけど、あの人も同じくらい許せなかったって思うと、どちらとも種族は違っても同じ生きてるものなんだなぁって」

だから嫌いになれない
同じ世界に生まれた生き物なんだから、と
彼女は悟ったような純粋な笑顔を浮かべた「それに、否定したらあの人を否定してしまう」

「あの人?」

「ううん、なんでもないったい」

不思議に思って彼女の方を見てみたら、自分の方をじっと見ていて少し緊張した
どうしたの?と聞けば、目、と答えられた
目がどうしたのだろうか

「アンタの目、とても綺麗、キラキラして」

そう言ってふわりと笑った

あぁ、人間なんて嫌いなのに
人間なんて醜いものなのに

「君も綺麗だよ」

どうして彼女はこんなに清らかなんだろう
初めてあったはずなのに、とても居心地が良いんだ

「ねぇ、ルビー。ルビーはいつもここにいる?」

「たまにだったらね、ここも危険だからたまにしか来れないよ」

「また会える?」

その答えに少し迷った
僕達は敵同士で、こんなところでは本当は会ってはいけないけど

「きっと」

なんとなく、言ってみたくなった

そっかと言って彼女は立ち上がり駆けていった

「またね、ルビー!」

その答えは

「またね、サファイア」


この出会いで、僕とサファイアの歯車が『再び』回り出した、ということは
僕達はまだ知らない








紅藍書いてて楽しい
いつか駆け落ちしそうなノリ
少しだけスペの設定に近づけようとした、マサラが出せた、満足
やっぱり長い
短編レベル


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