交わした約束



「グリーン様」

そう言ってグリーンの元に駆けてきた少女は驚愕した
彼の姿は服が所々が切れ、血が滲んでいる、満身創痍の姿
国の中でその実力は1番だと認められている彼にとってはありえない姿だ

「お怪我されているんですか!!!早く治療しないと!!!」

「落ち着けイエロー」

慌ててグリーンの腕に手を添えようとするイエローを静かに制する
心配そうに見上げる少女に少し柔らかめに微笑んだ

「もう治っている」

血がついているところを拭ってみればそこには傷1つない綺麗な肌が現れた
あいつが、と言葉を漏らせばイエローは少し目を見開いてすぐに緩んだような笑みを浮かべた

「もしも怪我をしていたとしても、すぐに治る。むやみに力を使うな」

「……はい、ごめんなさい」

反省したように俯くイエローの頭に手のひらを乗せて軽く撫でる

「また、あちらに行ってきたんですね」

「……あぁ」

あちら、というのは異種族の者達が住んでいる土地だ
自分達にとっては、立ち入りを禁じている

「あの人は、どうでしたか」

「変わりはない、元気にやってるようだった」

「そうですか」

普段、人間達はあちら側を干渉することはない
危険分子として、蔑むことはあっても、こんな心配をすることは普通ないのだ
だが、この少女は違う
グリーンの言葉に小さく息を吐いて安心するように微笑んだ

「ボク、酷いですね。グリーン様に傷ついて欲しくないのに、あちらに行かないでと言えないんですから」

あちら側に行くことは死と等しい、ましてや一国の王が行くとなれば反対するものしかいないだろう
そのため、グリーンは誰にも告げず、いつも抜け出すようにあちらに行くのだ
この事を知っているのは本当に僅か、ほとんどがやはり反対している
唯一、この少女をのぞいて

「お前は、行きたくても行けない、だろ?」

「はい、あの人との約束だから」

瞳を閉じて思い出すのは幼い自分に優しく微笑みかける赤い瞳の美しい少年

イエローは二つの種族の間から生まれたハーフだ
そのため、人間にはない癒しの力を備えている、不完全のため連発すれば体力の消耗が激しいらしい
しかしそのせいか普通の人間より成長は遅く、彼女は今年で齢が16になるだが、一見して姿は10ほどの少女だ

ハーフとして生まれた彼女は、最初のうちはあちら側に暮らしていた
父親は知らない。母親もいつの間にか会えなくなった
その理由は幼かった少女では理解できなかったが、もしかしたら、裏切り者として始末されてしまったと今なら思う

二つの血が混ざった少女は、回りの者から批判的な目で見られた
誰も近づかず、ただ一人孤独に生きていたのだ
そんな少女が生きていけたのは一人の存在のお陰だ
そう、黒髪を靡かせた赤い瞳の彼だ
いつも優しく笑いかけ、彼女のことを気にかけてくれた
そして、イエローが9歳になった頃彼は言った

『君をこれ以上ここに生きさせるのは、君の幸せを踏みにじってしまう。君はここから出て人間達の世界で暮らすんだ』

頭を撫でる手は優しいのに、正面にいる彼は、酷く悲しそうな顔をしていた
最初はこの人も嫌になって自分を捨てるんだと思った、だけどそんな顔を見てすぐにわかった、本当に自分を思ってくれているんだと

『ここにはたまに馬鹿な人間が来るんだ、命知らずで、でも優しい。アイツだったらきっと君を守ってくれる』

『こんな苦しい時代にしてしまってごめんなさい。君を苦しめてしまって、本当にごめんなさい』

震える腕で強く抱き締められた
顔は見れなかったけど、きっと彼はすごく辛い顔をしているだろう

『君はこれから人間の女の子として生きるんだ。だから、もうこちら側に干渉してはいけない。オレ達にとって人間は敵でしかない』

『君を敵として見たくない、だけどここでは君は幸せになれない、だから』

『君たちにとっては、ひい祖父さんやもっと昔の人達がやったことだけど、オレ達にとってはつい最近なようなことなんだ、憎しみはまだ消えてない』

『君はあちら側に行って、そしてこちら側にはもう絶対に来てはいけない、その時は、本当に君を敵として見なければならない』

そして最後に、苦しめてゴメン、と小さく呟かれた
頬に暖かいものが落ちてきた、泣いている彼を慰める言葉を彼女は持っていない


「生まれてきたことを、すごく後悔しました。守ってくれたあの人を傷つけてしまった」

悲しそうに俯くイエローの言葉を黙って聞くことしかできなかった
でも、と顔を上げた彼女の顔には迷いがなく強い意思を含んでいた

「今のボクは、強く生きたいと思ってます、あの人が言ってくれたんです」


『生まれてきてくれてありがとう』


「だからボク、今を楽しんで今度あの人に会えたときに言いたいんです『ありがとうございました』って」

そして、ボクにはもう1つ、あの人と約束があるから

それを聞く前に彼女はグリーンの前を駆けていった
振り向く際に満面の笑みを向けて

「どうか、いつか皆が笑える世界を作ってください!」

その為に自分も全力を尽くしたい
自分に生きる世界を与えてくれて、優しくしてくれた彼が本当の笑顔になってくれるなら




『いつか、君がオレ達を繋ぐ架け橋になって欲しい』

あの約束を果たすために







完全に異種族パロにハマってきた
なんか長い、SSじゃない、短編レベル(汗)
いつか長編書きたいなぁ……なんて、今の奴進んだら考えます←


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