風に流されて散ってゆく桜の花びら。薄い桃色のそれは通り過ぎる人の波によって躊躇なく踏まれていく。視界に映るサラリーマンのグループが、声をあげて笑い、頬を緩ませアルコールを口へと流し込んでいく。俺にはそれが滑稽に見えて仕方がなかった。

さて、花見、とは花を見るからそう呼ばれる筈なのだが、目の前に広がる風情のかけらもないこれはいったい何なのだろう。しかし、俺にとってそれはもう考える事を止めた問題であり、今はどうでもいい。つまり、花見というものはそれだけ自分の中で価値を持たなくなっていた。

それでもあえて結論付けるなら、目の前に広がる風情のかけらもないこれ、それこそが、花見、なのだろう。


「どう、場所とれた?」

背中に、聞き慣れた低く、だけど明るい(性格がにじみ出てるんだ)声を受け、振り返りながら言葉を発する。

「全然。無理だ、無理」

「そっかあ、残念。こっちは大収穫だったんだけど」

何のことかと思い見ると、友人の両手にはビニール袋が握られていて、中には、瓶と缶と紙パックの酒という酒。「重くてさ、ズレた眼鏡も直せない」肩を竦め、疲れたように、しかし満足気に友人は笑った。

酔っ払ったサラリーマンを横目に酔っ払った友人を見るのか、と思うと少々気が重くもあるのだが、これも花見なのだ、と割り切ることにした。






2010/12/10 17:23





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