#雨の日の帝國図書館企画




ガチャンッ

「あっ」
「あっ」
「あっ」

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」



外は昼にも関わらず薄暗く、ザアザア、土砂降りの滴が窓を叩く音がする。
頭を抱える秋声の前に正座で並ぶ、子規と司書と啄木の三人。素直に項垂れる子規はまだ良いだろう、司書は正座で痺れる脚に悶絶し、啄木は「なんで俺まで」とふてくされていた。

「雨だからと言って、館内でキャッチボールをする人がどこにいるの!司書さんも、仕事ほっぽり出してこんなことして!素直に体力トレーニングと仕事だけしていてくれないかなぁ!?」
「「だって飽きて」」
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

だよね〜!と顔を見合わせてにこにこ笑う子規と司書のコンビに秋声は地団駄を踏んだ。どうしていつもこうなんだ。頭を抱えていた手で顔を覆う。割れた窓から吹き込む雨と修理費を思えば秋声の顔面も濡れてしまいそうだった。

「石川くんも石川くんだよ!どうして彼らを止めないのッ!もう!」
「だって一緒にやったら小遣いくれるって」
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

そうだよそういう人だったよ。良識を求めた僕が悪かったのだ。
秋声は最早立っている気力も沸かず、袴の裾が汚れるのも構わずに膝をついてリアルorzのポーズで嘆く。言葉もない。
秋声が見ていないことをいいことに、司書は「痺れた〜」と言って脚を崩し、隣の啄木に脚をつつかれ、キャッキャとじゃれている。聞こえているからね。全ッ部、聞こえているからね。
むなしい。どうしようもなくむなしい。

そうこうしている内に、他の者たちが一時処置の為の板やなんやを持ってきてくれた。近場の司書室にいた秋声と作之助が第一発見者で、秋声がお叱りを担当している間に作之助が呼んできてくれたのだ。

「ああッ!大丈夫ですか秋声サン…」
「オダサクくん…ありがとうね…」

駆け付けたオダサクに背を支えられて秋声がよろよろと体を起こす。最古参と言う名の生贄はこうして日夜、トンデモな文豪と並ぶトンデモな司書の世話に明け暮れているのだ。
ひしっと己らの境遇に涙を飲んで抱き合うふたりを尻目に、手際よく露伴が割れた窓の測定をし、高村や吉川らが手際よく板を使って窓を塞いでいく。

「とりあえず修理屋に連絡をしておこう。この雨だから直ぐには出来ないだろうが、準備くらいはしてくれるだろう」
「板張りの床でよかったな。モップ一拭きで済む」
「ガラスに気をつけてくれよ。怪我した奴はいるか?」

修理の段取り、掃除の手配、更には怪我の心配と、と自分の手ではないテキパキとした対応に感動して泣きそうな最古参ふたり。そう、これが常識というやつだ。
窓を塞ぐ板以外もうすっかりいつも通りになった廊下の先からぱたぱたと足音がする。

「正岡!なにをやっているのです貴方という人は!」

息を切らせてやってきたのは夏目であった。慌てて来たのだろう、手にはかじりかけの饅頭が握られていたがそれよりも叱咤が優先らしく、しょぼんとする正岡に向かい合うように正座をしてこんこんと説教をしてくれている。
なんと有り難いことであろうか。

「君も君だぞ、石川くん」
「森先生…」
「阿呆に合わせて阿呆になるなぞ…このことは北原くんに報告させて頂く。全く、甘くし過ぎたか。君の借金問題も含めてな」
「!? そんな、後生な…!」

往々にしてバイトの提供をしている森も、取り立て含め、もう少し厳しくしておけばよかったとの後悔に額を押さえて溜め息を吐く。
そんな彼らの悶着も一通り済めば、保護者がそれぞれ彼らの横で改めて頭を下げさせられる。

「すまんな、徳田。次からは気を付ける」
「……わぁ……次もあるんだぁ……」

しゅんとした正岡の言葉にひくりと秋声は顔を引きつらせた。横で夏目と森、ステレオで叱咤の声が飛ぶ。
正岡に悪気はないのだ、悪気は……。単に天然なだけである。あの、裏表のない笑顔で救われている部分はあれど、時にこうして牙を剥く。ぺこぺこと頭を下げて去る保護者と問題児を手を振って見送ると、徳田と織田は、ギギギ、と鈍い動きで振り返る。無理矢理作った笑顔は勿論相手を安心させるものではない──窓外に走った雷光が、正しく彼らの内心を如実に表していた。

「さてと、」
「覚悟はエエか?」

「「司・書・さ・ん?」」






180603

その日、一番の絶叫が響き渡ったという。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -