・書く予定のない台詞や一節を書くというタグのやつ
・Twitterに垂れ流した10個+書き忘れた1個。多少加筆してたりしてなかったり。





1、庶民派無頼

「いいかい、話せばわかる…そうだろ?」

徳田は言った。けれども真っ直ぐに向けられた銃口はぶれることなくじりと後退る彼を追って動く。

「僕にはまだ…やらなくてはならないことがあるんだよ…!」
「そんなモン知らねぇな」
「すまんなぁ、秋声サン。これもオシゴトなんで」

そう言って笑う坂口と織田、背には壁。最早絶体絶命であるが、しかし素直に言葉に従うつもりはない。
隙を見て徳田は飛び出した。

「アッ逃げた!」
「こんなことに構ってる暇はないんだ!」

小柄な身体は上手く物陰を渡る──本人的にはきっと不服なことだろうが。

「秋声サン、堪忍してや!」

言いながらも織田の顔は笑ってる。どんなに上手く逃げられたとしても出口はひとつだ。袋の鼠の背に引かれる引き金。

銃口から勢いよく水が噴き出した。



「ああ、もう。びっちゃびちゃじゃないか!」

連射された水鉄砲は背のみならず頭や手足に袴まで遠慮なしに濡らしていた。

「君も分かるだろう、月末の苦しみを…!」

どうしても月末にはやることが増える。それを思えば今から手をつけていた方がいい。
しかし修羅場の相棒の裏切りに秋声はギリギリと歯噛みした。

「わかっとりますけど。こないに暑くちゃ根を詰めるだけ無駄ですやん。ちょっとは休んで、頭の温度下げんくちゃ」
「ぐ…」

確かに効率は悪かった自覚はある。

「でも、」
「でももすもももあるかっつーの。そら、シラカバがかき氷作ってるらしいからアンタを連れてこいって司書からの依頼なんだ。さっさと行くぞ」

それとも運ばれたいか?と手をわきわきして距離を詰める坂口に徳田は「ヒッ」と小さく声を上げた。

「い、いけばいいんだろ。行くよ。だから寄らないでくれないかい」
「チッつまんねぇな〜!」

体格の良い坂口ならば徳田くらい余裕で抱き上げるだろうことは想像に容易い。

「こんなに濡れているんだから、君が濡れてしまうだろ」
「…………」
「しゅーせーさんそゆとこあるぅ〜」

着替えなくちゃなぁとびしゃびしゃに濡れた服を見ながら徳田は言う。坂口は無言で上を向き、織田はケッケッケと笑う。

「えーい」
「ちょ、なにしてるんだい君たち」

ぴゅーと坂口の頭に織田が遠慮なしに水を射つ。あっという間に水は頭どころか服までびしゃびしゃになった。

「あーあ、濡れちまったなぁ。濡れちまったから、別に濡れたモン触るのも気にならねぇなぁ?」
「……え、ちょ、え?」

再度じりじりと距離を詰める坂口に、徳田は顔をひきつらせる。

「行ってまえ安吾〜!」
「おうよ!」
「ウワッやめ、やめ、うわあああ!」

のんきな織田の掛け声に軽く応えた坂口と、絹を裂くような悲痛な叫び。
──徳田は坂口にすっかり抱き上げられていた。

「くそ、くそ〜〜〜〜!」
「ケッケッケ。安吾、そのまま食堂へレッツゴー!」
「織田くん君、覚えておいてよ!」

そう徳田は負け惜しむも、きっと大したことはしないだろう。寧ろ構ってもらえるだけ、織田としては嬉しい話だ。しかもこれから共にかき氷を食べるのだから最高である。
余談であるが、水鉄砲で床や壁に撒き散らした水は帰った頃には完全に蒸発して乾いていた。





2、自然弓

「おいおい、なんだそのひっつき虫」

昼下がりの談話室。親友の金髪男の背に見慣れた黒髪の男が蝉のように抱きついている。

「お、独歩いいところに!」

顔を上げた田山はちょいと国木田を手招いた。誘われるがままに寄った彼の手を取る。

「トイレ我慢してたんだ、少しの間秋声を頼むな」
「は?」

言うが早いか立ち上がった田山はするりと上手に徳田の腕を外すと国木田の手を引いて位置を取り替えてしまった。

「は?」

もう一度言ったものの田山の背はもう扉の向こうで、一体どれだけ切羽詰まっていたのだろう。

「…おーい、徳田?」

気を取り直して背に張り付き万力が如く脇を締め上げる男に声をかける。呼び掛けに応えはない。

「どうした?誰かと喧嘩でもしたか?」
「………」
「織田か?尾崎か?それとも泉か?」

適当に名前を挙げれば、ぴくと無意識の反応が返る。

「そーかそーか。泉な。どうした?またなんか言われたのか?」
「……違う」

ようやく返ってきた反応。肩口で頭を振るものだから髪が首を擽って痒い。

「わざとじゃないけど、鏡花の手袋汚しちゃって」
「あー」
「ちゃんと謝ろうと思ったのに、鏡花ったら、わーわー文句を言うから、謝るに謝れなくなっちゃって、」
「あー…」

もしかして謝れないまま口喧嘩に発展したのか?と聞けば、こくり、肩口で頭が動いた。

「いつもやってないか、それ」
「いつもじゃ、……いつも、ではない、よ…………」

反射的に否定しかけて、しかし声はふわふわと揺れた。素直に認めようとはしないが自覚はあるらしい。
こと一門に関係すると徳田の知能指数は著しく下がる。やっていることは小学生の喧嘩だ。
察するに謝れなかったことを思い悩んで田山の背に張り付いていたのだろう。やっぱりやっていることは小学生レベルだ。どうせ、田山の慰めも素直に受け入れられずうじうじしていたのだろう。

「難儀だなぁ、アンタらは」

国木田は然程徳田と仲良しという訳ではなかったが、この図書館に転生して以後、最古参としての指導や、数少ない弓であったり田山を縁にして仲を深めた。
どうにも憎めずどうにもおかしいこの友人のことを違わず気に入っている。苦笑してぽんぽんと腹の前に組んだ手を叩いてやった。

「ただいまー!」
「お、花袋。おかえり」

声に振り返ると、親友の背後に見知ったふたりを見付けた。眉を下げどこか不安げな泉と、うちの子可愛いと顔に書いたその師の姿。

「呼び行ってたのか?」
「偶然そこで会っただけだぜ」

うっそり笑った田山に、きっとその偶然に確信はあっただろうと国木田は察する。つまりは必然だ。
まぁ、いつものパターンなのだから国木田にだって予測は出来ていたが。
徳田の腕をほどいて立ち上がる。
国木田を追って顔を上げた徳田は来客の姿に「あ」と小さく漏らした。

「鏡花…」
「秋声…」

互いに名を呼び合うふたり。
とりあえずもう大丈夫だろうと、田山は国木田を見た。

「それで、なんか用だったか?」
「うんにゃ。用は済んだ」

国木田のよくわからない返答に田山は首を傾げる。そんな親友に、国木田はニッと口角を吊り上げた。

「暇だったからさ、なんか楽しいことはないかと思って」





3、潜書

ひとり涼しい顔の男に「よくもまぁそれだけ回避できるものだな」と石川は呆れたように言った。徳田はきょとんと首を傾げた。

「なにが?」
「見てみろよ、アンタだけ墨浴びてねぇぜ」
「まぁ、僕は遠距離武器だし」
「バカ言うな。アンタがその弓を打撃武器にしてんのは幾度と見たぜ」

乱戦になれば遠も近も変わらない。同じく飛び道具である銃使いの石川とて今は墨にまみれている。
同じ弓である田山たちとて、ままに墨は浴びているというのに。何故かこの男は綺麗なままだ。

「なんか秘訣でもあんの?」
「秘訣、秘訣ね──敢えて言うなら洗濯が面倒なことかな」
「は?」

真剣に考えている表情とは裏腹に、徳田は頓珍漢なことを返す。間の抜けた石川の声に、徳田はにっこりと笑って返した。

「だってさ、汚いじゃないか。墨。落ちないんだよね」

だから浴びないの。
そう言った徳田に石川は目を丸くした。

「つまり」

口元がひくつくのは許して貰いたい。

「洗濯が面倒だから返り血まで避けているのか」

なんだよそれ、と呆れてしまう。
徳田はそんな石川に不思議そうに首を傾げた。

「そんなに難しいことじゃないよ。よく見てれば、攻撃部位と深さとかで墨の噴き出し方とか分かるからね」
「いや分かるかよ」

普通に難しいっての。石川はドン引いた。
自然弓の観察眼ってこええな……。





4、食堂

人さえいなければお気に入りの席というものがある。南──ではなく、東の窓際の席だ。窓から見える風景は明るく穏やかだが席には直射が入らないので居心地がよい。

「…あ、」

しかし今日は先客がいた。
いつもは被っているフードを下ろして、長めの後ろ髪を一本に束ねた男、多喜二だ。
相変わらず膨大な量の食事をとっている。邪魔かな、と思い別所を探すのに一瞬遅くなった歩みに気付いたのかパッと青年の顔が上がった。

「しうふぇいふぁん」
「飲み込んでから話しなよ」

呆れて言えば彼はごくりと飲み込み水を一口。

「秋声さん、こんにちは」
「うん。こんにちは、多喜二くん」

礼儀正しい青年にほろりと笑みが溢れた。

「お疲れ様です。休憩ですか?」
「うん。君は…」
「はい、おやつです」
「そっか、おやつか…」

遅めの昼食かと思ったがどうやらおやつらしい。そっかおやつにカツカレーとてんぷらうどんなのか。他にもからあげとかある──若者ってすごいな。

「あの。良ければ一緒に座りませんか?」
「おや、いいのかい?」
「はい。ここ、景色がいいですよ。窓からの直射はないから過ごしやすいんです」

多喜二が微笑んで言ったその言葉──それは、正に秋声が思っていたことと一緒であった。

「ふふっ」
「?」

くすくすと笑う秋声に多喜二は首を傾げる。お邪魔します、と言って座った秋声は、小さく、ほんの小さく声を潜めて言う。

「僕もね、ここから見る景色が好きなんだ」

おんなじだね、と徳田は笑った。



5、年下に弱い

「お願い秋声さん〜!」
「ええやないですか〜こんなに頼んではるし」
「ダメ。流し素麺は許可しないよ。ろくでもないことをしでかす心当たりが多すぎる」

助手として仲間から上がる持ち込み企画の精査も担う秋声は頑として首を振らない。あんな青いのとかそんな黒いのとか、例の調味料の赤いのとか、と挙げればきりがない。
うるうると涙を浮かべる宮沢と新美に勿論良心は痛め付けられるのに、秋声の中で可愛い孫ランキングに挙がる織田も彼らの味方をするのだから厳しい声の割にしょんと眉は下がって葛藤は伺えた。

「…でも、まぁ。司書さんも好きそうな行事だし、どうしてもというなら直談判してみればいいさ」

僕は責任取らないけどね、と秋声は呟く。彼の許可を得られない時の裏技で最終奥義だ。

「! ありがとう秋声さん!」

喜色に顔を輝かせた宮沢たちに、ほっと秋声の頬も緩んだ──が。

「紅葉さんも喜ぶよ!」

礼に続けられた名前に、穏やかであった秋声の表情は凍り付いた。

「は?!あの人の企画?!無理無理無理絶対駄目許可しない!」

先の穏やかさとは別に慌て出した秋声はぶんぶんと首を振る。

「だめだよ南吉。紅葉さんの名前出さないようにって言われてたじゃないか」
「うー、ごめんね」

しょんと南吉は肩を落としたが、そんなふたりの会話により秋声の怒りはぶち上がる。

「計画的犯行か。全くあの人は!」

つまりは秋声が拒絶することを見越してふたりを寄越した訳だ。なんという姑息。
言いながらぴゅーっと部屋を出ていってしまった秋声の背を呆気に見送り、残った三人は顔を見合わせた。

「秋声さんってああいうところあるよね」
「あるある」

宮沢の言葉に織田は笑って頷いた。

「ま、それはええけど。計画、あんのお人が絡まず、悪戯もナシならワシからおっしょはんに話通しといたるけど、どないする?」
「ええー!悪戯ダメなの?」
「ダメでーす!秋声サンが参ってまうやろ」

心労で。
言えば、宮沢と新美は顔を見合わせた。

「そうだね」
「ふふ、そうだね」

そう言うと、仕方がないねとふたりは笑った。





6、妖精

「…やぁ。こんばんは、川端さん」

寝苦しくて冷たい水を求めて起きた川端は、廊下の窓に肘をついたその人に目を見開いた。

「徳田、先生」
「君も眠れないのかい?暑いものね」

口数が少ないことは流石にもう慣れた徳田がそう笑い掛ける。
夜風に撫でられた前髪がふわと揺れていた。

「良ければここにおいでよ。涼しいよ。お水飲む?」

飲みかけで悪いのだけどと掲げられたグラスはからんと氷が涼やかに音を立て、うすらと汗を纏っている。

「もしやこれは夏の夜の夢…?」
「どうしたの?具合悪い?ほらお水飲みなよ」

グラスを受け取る手が震えているせいかそっと秋声の手が川端のそれに添えられた。
夏の夜の夢──それを訳すならば、



(シェイクスピアの作品から。バタさんは言葉通りに「夢を見ているのか?」と疑うと同時に優しくしてくれる秋声さんのことを「秋声さんマジ妖精」って言ってるという補足)





7、ちみっこ青年ズ

「犀星さん、そろそろ休憩しないかい?」

ミンミンと蝉が鳴く。早めに始めた農作業だが真夏となれば昼下がりというにはいささか早くとも汗は滝のように流れていく。

「お、そうだな。武者さーん!休憩行こう」
「わかりましたー!じゃあ、最後に周りに水撒いちゃいますね〜!」

秋声が声をかけた犀星も、その彼が声をかけた武者小路も、この暑いのに明るく元気で素直にすごいと思う。暑さに強くない秋声は正直今すぐにでも座り込んでしまいたいくらいだった。
武者小路が持ち上げたホースの先端を押し潰せば細かい水が放射状に空に広がる。

「あ」

秋声は言った。
掲げる指の先にあるものは、

「虹だ」





8、庶民派

「あーつーいー」

ごろごろと織田は転がった。じっとしていると床との接地面に熱が溜まって暑いのだ。 

「君ね、ならくっつかなきゃいいじゃないか」
「やだーーー!」

そう、織田は今、徳田の膝に頭を乗せているのだ。

「暑いんでしょ?正直、僕も暑い」

退いて欲しいのが本音である。

「それもやだぁー!最近、秋声サンと会派ちゃうしぃ、助手の仕事も一緒にならんやん!」
「そうは言ってもね…」

基本的にふたりが専任であった助手業務も他に回すという業務改革で、半々シフトになっていた為に織田は徳田不足に陥っていた。久々にふたり揃っての休日に、ついにと織田が充電しに来た次第である。
駄々をこねるこどもに徳田は溜め息を吐く。指は優しく茶色い髪を撫で梳いた。

「お喋りするんじゃなかったの?部屋に帰るかい?」
「やぁーだぁー!」
「駄々っ子ちゃんめ…」

疲れてなにかをやる気も起こらない為にうだうだしてしまっているのだろう。
仕方がないな、と徳田は笑った。

「このまま一緒にお昼寝しちゃおうか」
「へ?」
「君ね、今、眠いのと遊びたいのでぐらぐらしてる赤ちゃんみたい」

ぐずっている自覚はあるものの、こうしてハッキリと指摘されてしまえば気恥ずかしい。カッと織田の頬に熱がこもる。

「お昼寝したら、ご飯食べて、そしたらおしゃべり?」
「……あと、お風呂も入る」
「背中を流してあげようね」

言いながら徳田は立ち上がる。避けた織田の頭を下ろす手つきは雑で、床に落としたといって過言ではない。ごん、と音がした。
頭を押さえる織田はさておき、徳田はさっと布団を引っ張り出した。よいしょ、と言ってずるずると織田の腕を引くものだからあまりにも扱いが杜撰である。もう少しどうにかならなかったのだろうか。ならなかったからこうだけれど。されるがままの織田の首にはずぼっと枕が押し込まれた。

「いいね、たまにはこんな日も」

織田に並んで布団に寝転ぶ徳田はそう言って笑う。

「……ええんやろか、こんな贅沢で」
「ふふ、いいでしょ。折角の休日に昼寝だなんて、最高の贅沢さ」

織田に答えて、ゆるゆると徳田のまぶたが下りる。寝る気満々だ。

(そういうことやないんやけど、)

分かっていない徳田の手を取り、織田もまた倣ってまぶたを閉じる。

「おやすみなさい、秋声サン」

貴方を独り占めする贅沢さをきっと貴方だけが分からないのだ。





9、庶民無頼

「お兄ちゃんと買い物かい?」

いいね〜と言われて秋声の顔は固まった。ぶは、と後ろで噴き出す声がする。

「な、な、」
「ふはは、そうなんすよ!オトートにいっぱい飯食わせてやるんで、オネーサン、おまけしてくれよ」

絶句する秋声を除け者にして兄気取り──安吾はそう言った。

「いいねぇ。それじゃ、これおまけしておくよ」
「へへ、ありがとさん!おーし、行くぞ〜」

安吾はニカッと笑って礼を言うと未だ固まる秋声の背を押して店を出る。
秋声と安吾の身長差は20センチ近くだ。安吾のサングラスは目元の印象を殺すが同じ黒髪で一見やや年が離れている為、そう解釈したのかも知れない──が、早々に納得できるものではない。
店から出て我に返った秋声が「誰が弟だ!」と今更ながらに突っ込んだ。

「ツッコミが遅いな。ちゃんとオダサクに習ってんのか?」
「なにをだっ!」
「だからツッコミだって。あいつは本場だぞ、教わらにゃ損だろ」
「なにがだっ!」

のらりくらりと笑う安吾にがるがると秋声は食って掛かる。幸か不幸か先程で買い物は終わり、あとは帰るだけである。
うるせぇな、とやや歩調を早めた安吾を見上げてなおも噛み付く秋声は、その脚の長…身長差からか一歩が小さくてけてけと足運びが忙しない。
そうと気付いてしまえば抑えることなど出来る筈もなく──ぶは、と再び安吾は噴き出した。

「君ね、何を笑っているんだい!」
「いや、なんでもねぇって」

誤魔化してたところで彼が憤るのは止められはしないが、しないよりマシだとそう言いながら、その低い位置にある頭をぐりぐりと撫でる安吾であった。





10、名前

「あー!独歩が俺のプリン勝手に食べた!」
「えー誰がこれ花袋のだって言った?名前書いとかないのがいけないんですぅー!」
「ぬーーー!秋声!独歩が〜!」

地団駄を踏んだ花袋が秋声の腕を引く。

「ねぇ、助手って別に何でも屋じゃないからね?くだらないことで呼ばないでくれる?」

なんとか取り成して「次からは名前書いておきなよ、大事なら」とそう言った秋声に、実は隣にいた織田が頷いた。

「せやな」

そしてキュポンとマジックのキャップを取る。

「え?織田くんなんかした?」
「んーん、別に?」

その背にでかでか署名付きで「ワシの。取らんといて。オダサクくんより」と書いてあることを知らない秋声。
幸か不幸かその時の服は潜書(初期)服なので補修で直るので問題はない──なかなか補修されない弓であることが問題にはなるが。
肩掛けに半分は隠されてしまっていることも要因であっただろう。
道行く仲間がくすくすと笑ったり「お熱いことで」などと口にする意味が分かるのは──その日、全ての業務も夕食も終える頃になってからであった。




11、追加分+↑続き、争奪戦

それは織田が秋声の背中に「ワシの。オダサク」と書いたことが発端であった。

「いや別に秋声が誰のだろうとまぁいいんだが」
「けど俺たちを差し置いてそれはないと思うんだよ」

な?と独歩と花袋がそう顔を見合わせて頷き合う。その隣で藤村もうんうんと頷いている。

「……誰かのものになったつもりもないし、もしそうだとしても君たちになんの関わりもないだろ」
「そう寂しいこと言うなよ秋声」

にっこりと笑って独歩がそれとなく秋声の肩にぽんと触れて言った。

「そうそう、我ら自然主義弓組だろ!」
「いやくくりとしてはそうだけど君たちが言いたいことはわかるけど、けど、その手に持つものは一体なんなんだい!?」

じりじりと周囲を囲う3人にとうとう秋声は声を荒げた。

「なにって……マジックだよ?」
「見れば分かるよ!それで何をするつもりか聞いてるんだよ!」

首を傾げた藤村に当たり前なことを言われて秋声は突っ込んだ。そう──彼らの手にはそれぞれマジックが。
そして蘇るのは──つい昨日の、夜まで気付かなかった背中に署名事件である。珍しくも織田が一緒に風呂に入ろうと誘ってきて、それから背にある名前に気付いた秋声の狼狽をいい笑顔で抱き締めてなおかつ満足げであった。

「君たち昨日はなんも言わなかっただろ!」
「だって早い者勝ちだろ?」
「じゃないからね!?」

キレのよいツッコミに藤村が楽し気に拍手した。

「まぁつまり、今日は俺たちの日だと言うことで♪」

いつのまにかガッチリと両腕を拘束した独歩のせいで動けない秋声を前にして花袋は言った。
きゅぽん、とマジックのキャップを開ける音。

──朝も早よから、秋声の断末魔が響くのであった。



(翌日尾崎一門と、弓、織田、秋声と遊びたい一派との熾烈な署名戦争が起こる。秋声からの訴えで司書からの禁止令が出るまで続く)





20200822

暑くて小説進められないのでお茶濁しです。
短文のお題系恋しいな〜〜〜〜



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