・最終的にはセックスしないとでられない部屋
・最後までしてないのでR-15くらいかなと鍵なし
・織徳






目が覚めるとそこは知らない部屋だった。
ただただ真っ白く、窓がない。そして四方の壁に扉もない。
でん、と部屋の中央には安そうな白いパイプベッドにどん、とシーツすらないマットレスが乗っているだけだ。

僕こと徳田は、いつの間にかこの部屋に来ていた。見る限り出入り口は見当たらないのでどうやって入ったのかも分からない上に寝ていた記憶もないが、最後の記憶で一緒に書類を纏めていた織田くんが前述の雑なベッドに並んでいるので起こしてみる。聞けば、彼も今の状況が何故かなどは知らないようだ。

ふ、と僕はベッドとマットレスの隙間に白い紙が挟まっていることに気付いた。

「なんだろ、これ。………ッ!?」
「ん?どないしたんです?」
「アッ」
「なになに──“相手の自慰を見なければ出られない部屋。ただし一方のみで良い”…………はぁ!?」

固まった徳田の後ろからひょいと覗き込んだ織田が読み上げると、やはり文面に驚いて声を上げる。

「しかも10分以内に?誰の悪戯か知らんけどけったくそ悪いわ!」
「あわわわ!ダメ!」

織田が憤る勢いでその紙を破ろうとするのを徳田はとっさに止めた。気持ちは分かるが、しかし重要な手がかりであるのだ。なんか今の時代は指紋だとかそういうので犯人が特定できることもあるようだし、なるべく証拠は残しておきたい。

「まぁ、まぁ。とりあえずさ、他に手がかりがあるか探してみないかい?時間制限があるけどなにも起こらない可能性があるし、なんらかのアクションがあるかも知れないし。ね?」
「秋声サンがそう言うなら…」

宥められた織田は渋々頷いた。
部屋は簡素すぎるから探索に時間はかからないだろうが、これまでに時間は経過している。時計もないので辺りを探索しているうちに体感10分は過ぎただろう。

「…なにか、見つかった?」
「なぁんも。そっちもないみたいやな」
「うん……」

無収穫にはぁと溜め息を吐いた。ふたりはなしくずしにベッドに腰掛ける。

「さっきの指示みたいなの、またあればいいのにね」
「そんなこと言うて変なことになってまったらどないすんの」

笑い話のつもりだった。嗜める織田に苦笑を返して、また、ベッドに置いておいた先程の紙を見る。

「ブッ!」
「秋声サン!?」
「これ…!」

いきなり噴き出した徳田の背をさする織田に差し出されたのは先程の「公開自慰をしろ」という指示書だ。訝りながらも織田はそれを受け取った。

「なになに──“どちらか一方が相手を手コキでイカせなければならない”──ハァ!?」

ただし一方のみでよい。
制限時間、5分。

「待って待って待って。え?これ新しい紙?どこから?」
「いや、多分さっきと同じ紙だよ……。どうやら文面だけ変わったようだ」

織田が破ろうとした際に出来たシワに変わりはないらしい。
得体の知れなさにゾッとふたりは背を凍らせた。

「……ねぇ、これ。指示に従わなくちゃいけないのかな」
「……知らんけど。でも、………5分でイクのはちょっと難しいやろ」
「確かに」

その5分だっていつからの5分かは分からないのだ。時計がないので。

「……これ、さ。いかがわしいことをさせたいのは分かるのだけど」
「いかがわしい……。あ、ハイ。で?」
「その……手、コキ、で、出来なかったら次は何になるんだろう?」

いかがわしいという言い方や恥ずかしげに手コキなんていうこの見掛け詐欺爺にキュンと胸が鳴るがそれは咳払いで無視をする。

「せやな。えっちぃことさせたいんやろけど。最終的に“相手を殺せ”なんて指示あったら……」
「うう!怖いことを言わないでおくれよ!」

聞きたくないと言わんばかりに徳田は耳を塞いでいやいやと頭を振った。
ええー話を振ったんはそっちやーん。と内心で織田は苦笑する。

「アッ!」
「ん?」
「これ!」

言っている間に手元の紙の文字がうにゃうにゃと動き出したのに気付いて織田が声を上げる。
それは一度文字の形を失うと、また、再び文章を作り上げる。

“口淫、口内射精をしろ。一方のみで良い。15分以内”

「あ、さっき5分じゃ短いっていったからかな。時間が延びてる」
「秋声サンそこやない……。ああーほんともう。どんどん、難易度上がっとりますやん」

目の前の非現実な現象にきっと徳田は思考を放棄したのだろうと推測する。ついでにそのうち性交しろと言い出すのだろうなと織田は思ったが言わなかった。

「ああもう。こら、ほんまに腹くくらんとあかんかも」
「……やるの?」
「今、まだこれで済むんやったら。な、秋声サン、どっちがいい?」
「どっちって……」
「するんとされるんと、や」
「───」

突き付けられた選択肢に徳田は息を飲む。けれど、やはりどう足掻いてもそれしか道はないだろう。
一度目を瞑って、覚悟を決めた。

「その……僕がする」
「……ほんまにええんですか?」
「ええんです。……なんか、織田くんにされるのはなんかちょっと恥ずかしいなって」
「えええ。ワシやってされたい訳やないけど……」

顔を赤らめてそう言う徳田に織田は眉を下げて笑う。笑うしかなかった。

「それに僕はしてもらうとなると、結構脱がなきゃかなって」

確かに肩マントや腰巻きを省いていつもより簡素ながら、袴姿の徳田は、もしもされるとなれば袴を下ろすか裾を上げて脚をさらけ出さねばならないだろう。それだけでいかがわしさは増すのに年若い彼の容姿で恥ずかしがる姿に(何故に男が脚をさらすのを恥ずかしがるかはわからないが)尚更イケナイことをしている気分になる。
対して織田の洋装であればチャックから取り出すだけでも十分だ。

(いや、でもされるわいもつらいんやけど)

それでもいたいけな少年を手込めにする自分を想像するよりは気が楽だ。

「ちなみにしたことは?」
「あるはずないでしょ」
「デスヨネ」

ですよね。ワシもやったことないし。
納得して織田はチャックだけでなくベルトも開いて前だけ寛げる。勿論やり易いようにパンツは少しずらして取り出すと、浅くベッドに腰掛けた。開いた脚の間にちょこんと徳田が座る。

「えっと……よろしく、ね?」
「それいります?」

股ぐらから挨拶をしてくる徳田に織田は思わず顔を覆った。居たたまれない。
徳田は苦笑すると、まだふにゃふにゃの反応のない織田のそれを手に取った。
ゆるゆると竿を扱きながら袋を揉む手のひらにいたたまれなさを感じてぎゅっと閉じていた目を、ハッと織田は開いた。

「タンマ、タンマ。今思ったんやけど勃つまで自分でやってもええよな?ルール違反やないよな?」
「え、ああ。うん。多分」
「ちょお待ってて。せめて勃たすから!」

1から面倒を見てもらう必要のないことに気付いて織田は徳田を引き剥がす。背を向けて自慰をし始めたが結局最初の指示をこなせていればこれだけですんだのになとむなしくなりながら自分のをしごいた。皮から顔を出した亀頭の先をいじり、竿をしごき上げるとそろそろと硬度を増してそれは顔を上げた。
バキバキ、とは言わなくともこれならば良いだろうか。恥ずかしい時間は少ない方が良い。そう思いながら動きを止めると──

「………なぁ、秋声サン。なんで見とるの?」
「や。終わったかな?って」
「終わってもうたらあかんやん。まぁ、とりあえず準備できたで」
「うん」

肩口から覗き込んでいた徳田をじっとりと睨む。
それから、徳田を先程の場所に跪かせるとその前に座る。反り勃つそれを眼前にして、徳田はごくりと生唾を飲み込んだ。

「お、おっきいね」
「そら、ワシの自慢の息子やさかい〜〜ってそんなんええねん。時間制限もあるし、はよ、その……済ませてしまいましょうや」
「うん」

おどおどと上目遣いで可愛いことを言ってくる徳田に再び顔を押さえながらも織田は催促した。
見たくなくて閉ざした視界の中で、徳田が織田のそれを手に持った。かかる吐息が近く、ややして、ぬるとしたもの──舌だろうそれが亀頭にちょんと触れた。
確かめるように何度かちょんちょんと舌先が触れると、ピクと反応してしまうのが恥ずかしい。
柔らかなキスを落としながら唇は下へと下がっていく。横向きに竿を食まれ、ちゅ、と音がして離れる。舌がまるで溶けたアイスでも舐めるように下から上へと辿っていく。手がやわやわと玉をくすぐった。
それが数度繰り返され、流石の織田ももどかしさに震えそうになった頃、亀頭の先が口内へと招かれた。
徳田は口に浅く含んだそれを舐めしゃぶる。上手いこと皮の間に舌を滑らせるのでぞわぞわと背筋が震えた。竿はさわさわと撫でられているが亀頭への刺激含めどこか遠慮がちなそれは結局はもどかしいものであった。
顔を押さえている手を離し、ちらと徳田を見下ろす。織田のイチモツを懸命に舐めている彼を。
──見なければよかった。
素直にそう思った。見かけがまさに少年然とした徳田だ、いたいけな男子高校生にイチモツを舐めさせている悪い大人の気分だった。

「……しゅ、秋声サン。その。もぉちょい奥までくわえてくれへん?」
「ぅあ、ごえんっ」

言いながらも徳田は一度口を離した。唾液で唇が濡れており、また、あたたかな口内から抜かれた性器が寒く感じる。

「い、いくね」

宣言をする必要などないのに、けれどそれは徳田には必要なのか。言って、すうはあ、深呼吸をして徳田はそれを一気に頬張った。

「う、うぐ、おぇ、」

といっても一気に奥まではキツかったのだろう、徳田は嘔吐くと半ばまで戻る。ごぼ、と吐く素振りに背筋は冷えたがどうやら最悪は免れたようだ。
口内がきゅうっと締まって気持ちいいが、それより顔を真っ赤にして涙を浮かべる徳田が心配であった。

「ちょ、ちょ。秋声サン大丈夫?一回抜こ?」

何故かそのまま抜こうとしない徳田の頭に手を添えて上向かせる。しかし、彼は織田のそれに反抗し、くわえたまま首を振った。

「(振られんのヤッバ!やのうて、)ゆっくりでいいから。な?抜きましょ?な?」

多分嘔吐いたせいか、徳田の口端からだらだらと涎が垂れている。そしてまだ気持ち悪さが残っているのか衝動的にびくびくと背が跳ねる姿は心配と不安しか抱かせない。俯きがちの顔は見えないが時折ズッズッと鼻をすすりながらも徳田は顔を下げてぐっと織田のを喉まで押し込んだ。

「うえ、え、」

確かに「奥」に到達したという感触が織田にもわかった。嘔吐きながらもそれを徳田はじゅううと音を立てて喉までいれたそれに吸い付きながらゆっくりと頭を動かして顔を上げた。柔らかな唇が性器を締め付けて気持ちがいい。吸い付く唇に徳田は所謂フェラ顔を見せるが、苦し気に真っ赤に染まり、涙と鼻水で濡れている。

(アカン…罪悪感がひどい……)

「……ええから。秋声サン、いっぺん、休みましょ?」

宥めて撫でる徳田と数秒目を合わせると、ちゅぽ、なんて音を立てて徳田の顔が離れた。はぁはぁと息をあらげる唇はてらてらと涎を垂らし、罪悪感と被虐心を煽る艶めいた泣き顔で未だにすんすんと鼻を鳴らしている。
させたくてやらせている訳ではないが──流れるに任せる涙を織田はちょいと指で払った。

「秋声サン、大丈夫?」
「……ああ、うん。らいじょぶ、あ、」
「呂律回ってないですやん」
「へへ…」

顔に添えられた織田の手に甘えるように徳田は擦りついた。

「けっこう、こえ、むずらしい、ね。変ら味するし」

もう本当にやめてほしい。へらと笑わないで。舌足らずにそう言われてきゅんとしてしまう。こんな、こんな見掛け詐欺ショタジジイ相手に。ずっと仲の良いと思っていた相棒に対してなんという。
新しい扉が開きそうだからやめてほしい。

「……結構オエついてましたけど、もう大丈夫なんですか?」
「うー、うん。まぁ…。いや、こんなにつらいとは思わなかった。織田くん、大きすぎるんじゃないの?」
「いやぁ、そら、自慢の息子やけど。せやかてそんな逸脱イチモツやあらせんよ。芥川センセは巨根やて話は聞きますけど」
「ああー聞くね。よかったよ彼じゃなくて……」

けれど徳田はそんな雑談で息を整えると、またゆっくりと奥までそれを迎え入れる。
たっぷりの唾液で濡れたそこはとても気持ちが良い。徳田はくわえたまま、裏筋を舌で丹念に舐め吸い上げた。そしてまた奥まで含むとと顔を動かす。唾液で滑りのよい手が上下に動く。
時折「オアッ」とか「うえ、」とかいう声を挟みながらじゅるじゅるなんていう汚い音がなにもない部屋に響く。

(あ〜アカン。気持ちええなぁ。でも………)

男がフェラ上手だなんてのは多分デマだ。
勿論気持ちの良いところは分かっているだろう。しかし、それに伴う技術がなければ意味がないのだと織田はしみじみと思った。
徳田は確かに気持ちの良いところを責めてくるが、頑張りとは裏腹にたまに歯が当たったり(タマヒュンする)力が弱かったりで、いや本当に気持ちよくはあるが、このままでは射精することは出来ない。
時間をかければまだマシだろうが──しかしそんな時間はないのだ。新しい扉を開きたくはない。

「───秋声サン、堪忍な」
「ぅへ?」

織田はそう謝ると、徳田の両頬を掴んで顔を上げる。きょとんとした彼の口端から両の親指を突っ込んだ。おもむろに腰を上げる。そして、突っ込んだ親指を奥歯の間に入れて顎を固定する。
ひ、と息を飲む音が聞こえた気がした。織田がなにをするつもりかわかったのだろう。
少し膝を曲げた間抜けな体勢だと思う。けれど仕方がない。引いた腰をゆっくりと、しかし強く先を上顎にすり付けるように動かした。

「う、うあ、あ、」

上顎のでこぼこがうまいこと先に当たって気持ちが良い。反射で噛む奥歯は織田の親指で締まりはしない。苦しくないようにゆっくり、ゆっくり、と動かす。
それでも徳田は小さく断続的に声を漏らした。涙目で鼻水と涎が垂れている。かわいい、いや違う、かわいそう。すんません、と心中で謝ってぐりぐりと口の中を好き勝手動かした。

「う、うえ、うぶ、おえ、」

頬肉に擦り付けるのもまた気持ちがいい。内側から押されて頬がにちにちと膨らんでは引っ込んで。
涎の溜まった口内は動かす度にじゅぼじゅぼぐぼぐぼ、汚く水音を立てる。口を奪われて好き勝手にされている徳田はあまり上手く涎を飲み込めないのか息も絶え絶えだ。掠れた嗚咽。真っ赤になった顔に涙と鼻水が垂れ、それでもしっかりと口をすぼめて織田のものに食らいついて。
額に汗が浮かんでいた。蕩けた瞳は織田を見ているようで見てはいない。

「アッ、……そろそろ、イキそう、」

流石にそろそろ絶頂が近く織田の息も上がっていた。このまま手酷く喉を責めたらどれ程気持ちがよいことだろう。
けれど、徳田は織田の恋人ではない。互いに友人として同僚としての情しかない、のだ。そんな無理を強いることも受け入れることも道理はない。
なので織田は言うと、一度腰を止める。徳田の顎を固定していた指を引き抜くと、びよ、と糸を引いた。

「な、しゅーせーさん。ここ、先っちょ、舐めててな?」
「……ん、」

半分意識は飛んでいるのだろう、こく、と従順に頷く顔はどろどろだった。亀頭の部分だけくわえさせてそう言えば、徳田は律儀に唇を締めてみせた。ちゅう、と可愛い音がして、舌先が先端の割れ目をなぞる。
ぞくぞくと快感が這い寄り、織田は知らず笑んでいた。

「エエ子やね……その調子で、舐めて、吸うててな。もちょい、で、…イクから。飲まんでエエかんなぁ…?」

そこは指定にないことなので言っておく。しかしこの意識の飛びかけた徳田は飲みそうでもあったし、自分も出した勢いでそのまま口から離してしまいそうでもあった。
口内に射精できなければ意味がないし、次はどんな指令が来るのか──。
言いながら織田はいい子いい子と徳田の頭を撫でてやる。逃がさないようにだがなにやら嬉しそうに瞳が細まったので罪悪感。
徳田の唾液で滑りのよい竿を逆の手でしごく。もう十分に張り詰めたそれは達するには近く。
徳田の頭を押さえる手と、性器をしごく手──これは達する時に奥に押し込みすぎないようにと性器を握った上で強く拳を徳田の口に押し付けた。本当は喉奥までぶちこんで出しながらガシガシ突けたらどれだけ気持ちいいか、と欲望がもたげないこともないがそんな間柄ではないとなけなしの理性が歯止めをかける。どうにか上手いこと調節が出来たように思う。びゅくびゅくと手の内で性器が跳ねて腰が知らず揺れる。びりびりと貫く快感の波に目の前がちかちかと明滅した。
どくどくと心臓が鳴り響き、無意識に詰めていた息を吐く。頭から足の先まで全身が熱くて、下腹がぞくぞくと疼いた。
意識が飛んだ状態で押し付けていた性器を引き抜くとこすこすと絞り、たらとこぼれる残り汁を目の前の顔に擦り付け──そこで、ハッと目の前のそれがなにかを思い出した。

「秋声サン……!」

やらかしたことに謝罪も言えずただ名を呼んだ。
見下ろした徳田は口許を押さえており、彼の顔にはべっとりと精液がついている。あああ〜〜〜と内心で織田は唸る。
やってもた。
やらかしてしもた。
絞ったもんぶっかけてしもた。
なんの申し開きもできん。
織田は咄嗟に膝をついた。性器は丸出しのままだ。でも、先に徳田を気にするべきだろう。
彼はやはり口を押さえている。顔色はまだ赤いままだがその表情は決して良いとは言えない。
大丈夫か、と声をかけようとした時だ。

「───おえ、」

手を離した彼の口からぼたぼたと白いもの──織田が徳田に放った精液が溢れ落ちていく。涙も鼻水も一緒に流れて、彼の柔らかな手のひらに。

「うおあ、えあ、あああああ!!!」

織田は叫んだ。そして背後のベッドからシーツをひったくると徳田の手のそれを拭き取り、また、別の面で彼の口も拭く。

「ごめんな秋声サン、ほんま、ほんま悪かった!」

正直顔を見ていられなくて正面から抱き着いた。半泣きの声はゆれて情けない。短く固い黒髪に頬をつけて、その頭と背中を優しく撫でる。
ちんちん丸出しの男に抱き付かれても嬉しくはないだろうが。それでも。謝らずにはいられなかった。

「……ん、いや。ん゙、ん゙、やるといったのは、ぼくだから、」

恐慌した様子の織田に気遣ってか徳田は頭を振った。しかし、喉にかかる苦し気な咳き込みはより織田を不安にさせた。

「あー…その。ちょっと。………変なところに入っちゃって」
「…………」

尋ねられて、織田の顔があまりにも可愛らしい小動物の顔だった為に誤魔化すことも出来ないまま徳田は答えた。結果、一層絶望にまみれた顔をさせてしまったが。
「気にしないでね」と繰り返し、どうにか落ち込んだ織田の頭を上げさせることに成功すると、ぐるり、部屋を見渡した。

「……あ、出口出来てるね」
「ホンマや」

なにもなかった筈の壁にいつの間にか扉が出来ていた。どこにでもある銀のノブが眩しい。
織田はいそいそと出しっぱなしだったすっかりと落ち着きを取り戻した息子を仕舞って立ち上がる。制限時間内に終えられてよかったが、このまま出ずに新しい指令などが出て扉が再びなくなってしまうことを恐れてのことだ。
──これ以上とんでもないことをさせられたら、きっと、今も開きかけている開いてはいけない扉を全開放することになるかもしれないからだ。

「……ん?秋声サン?」
「あ、ああ……うん、」

しかし立ち上がろうとしない徳田に織田は首を傾げた。

「やっぱりどっか体の具合悪ぅくなってもうたん?すまんなぁ、ホンマ……」
「いや、そうじゃないんだけど──」

きょろきょろと徳田の視線が忙しなくうろつく。

「た、て、なくて…」
「えっ!?体どっか痛いとか!?」
「ちがう…その……」

赤く恥じらう顔は俯いてうにゃうにゃと言いよどんでいる。
織田はもう一度を膝をつくとその顔を覗き込んだ。徳田はより一層背中を丸めて、正座を崩したその膝をぎゅう、と握る。

「たっ、………ちゃって」
「ん?」

小さくて聞き取れずに首を傾げた。「えっ?なに?」と強く問い返すと、徳田は吹っ切れたのか顔を上げる。

「勃っちゃったから!立てないの!」

涙目で睨み上げられた。
ぽかんとしてつい視線をやれば、徳田が袴を握りしめる両の手の分のシワ以外に──中から不自然に押し上げる膨らみが見えた。

「────は?」

絶句である。
その視線を受けて、やはり気恥ずかしいのか俯いた徳田はそっとそれを押し戻すと言うか隠すと言うか、手で被うと内股をもじもじと擦り付けた。

「え?ほんま……?秋声サン、え?ワシのくわえて勃っちゃったの?は?」
「ううううるさいな!しょうがないじゃないか、君が、…あんな、変な風にするから……ッ!」

混乱している徳田は「ただでさえ口の中が弱いのに」「上顎ヤバイ」とかいらない情報もわあわあと喚いてしまっている。多分、後で冷静になってより羞恥を感じるやつだ。
あのもどかしい触れ方もきっと、そうやって調整しないと大変な──今のようなことになるから仕方がなかったのかも知れないが。
「だって時間制限あったやん…」と織田が溢せば「そりゃそうだけど!」と徳田が噛み付く。

「僕だって好きでおっ勃ててる訳じゃないから!織田くんのせいだ!バカ!えっち!」
「わかった!ワシが悪かったから落ち着いてください!」
「うええ…」

半泣きの徳田を宥める。可愛いとか思てしまうからやめてほしい。

「ほんま、いつ扉が消えちゃうかわからんし。秋声サン、恥ずかしいのはわかりますケド、いったん外出ましょ?立てないんならワシが抱えてったるし、その……」
「…うう、だいじょぶ、出る……」

「なんなら抜くのを手伝う」と言い掛けたところで徳田は覚悟を決めたらしい。よかった、口にする前で。引かれてしまう。
手を貸して立ち上がらせた秋声は、少し前傾しているせいか袴の厚みのせいか、あまり股間に違和感は感じなかった。少しは落ち着いてきたのかも知れない。よかった。
立ち上がらせたままの繋いだ手を、大丈夫と言い聞かせながら引いて外へと出た。
場所は図書館の端、大体倉庫といった用途で埋まっている一画であった。人がいないことに安堵して、なんとはなしに先程出てきた扉を振り返る。

「ない……」
「ウッワ、マジか」

扉など跡形もない、普通の壁がそこにあった。ゾッと背筋が凍る。
どちらともなく歩き出すと「なんだったんだろうね」と答えのない上擦った応酬が響いたが、次第にそれも減っていく。気まずい沈黙が横たわると離すきっかけを失った手のひらの内に地味に汗が溜まっていく。
そろそろ人がいるところにやってくると、顔を合わせることなく不意に手を離した。
熱を失った手は名残惜しく、互いに逆の手に触れたり無駄に上着を正したりなんてして。
先に辿り着いた織田の部屋の前まで沈黙は続いた。

「ぼ、僕、部屋に帰るから」
「ああ、そうスね。その……今日はホンマスンマセン」
「……君のせいじゃないから」

ようやく、先ぶりに徳田が顔を上げた。真っ赤だった。うすらと涙が浮かんでいて──まるで先程の。

「忘れよう!今日はなにもなかった!それじゃあ!」

そう大きく声を上げた徳田は織田を振り返ることなく駆け出した。
あ、なんて間抜けな声を上げながら織田はその背を見送って。

顔を押さえて大きく溜め息を吐いた。

「……忘れろとか」

行き場のない感情を込めて扉を乱暴に閉めた。落ち着く自室、勿論誰かがいる訳でもない。安心して靴を放り出してベッドにダイブする。
やわらかなそれに包まれながら、いてもたってもいられなくて前をくつろげると脳裏に焼き付いた先の情景を辿るように自身に触れる。先程出したばかりと言えど、若い体にあれだけ可愛いものを見せ付けられれば簡単に熱など上がるものだ。にちゃにちゃと音を立てるそれをしごきながらただ苦しく、織田は言う。

「無理やん、忘れられる訳ないやろ……!」

ほぼ同時刻。
自室で徳田も同じことをしながら同じことを呟いていたのであった。










さてこれは蛇足である。
翌日からあまり顔を合わせられなくなったふたりは、多少ぎくしゃくしながら数日して普通を取り繕えるようになった。島崎の執拗な質問には困ったものだが流石に互いに言えなかったので漏れてはいない。
しかして、時折、それぞれが不意にぎくしゃくすることがあった。なんで自分がそうなったか、を考えれば相手もそれが原因だろうなんて見当はすぐについたが──だからと言って気軽に尋ねることも出来ずにそれから2ヶ月。
先に痺れを切らしたのは徳田であった。

「ねぇ、君さ」
「ハイ?」
「昨日オナニーした?」
「ブッ」

昼下がり、返却された本を並んで元の場所に戻している時の会話がこれである。以前は一緒にやっていたもののここ最近では一緒にやらなくなった作業だ。雑談が好きだった。だから寂しさもあるけれど、あのわだかまりがあって平然とはしていられず、ひとりに少しは安堵していた。
それを久々に一緒にやるよとついてきた徳田に悲喜は交々といった状態だった織田が思いっきり噴き出したのは仕方がないことだろう。

「な、な、な、」

人のいない一画だった。奥が壁で、手前に徳田──逃げ道などなく、じりじりと後退ると徳田が追い掛けてくる。

「したよね?だって、今日ぎこちないもの」

とうとう壁に背がつくと、徳田の左手が壁につく。所謂壁ドンというやつだが、それにしたって10センチほど背の低い徳田がやるとちょっと可愛い。可愛いなクソ、とキュンと鳴った胸の音に、徳田の不躾な質問から逃避する。

「……ねぇ、織田くんのオカズはなに?」

しかし逃避から引き戻す声は無情で真っ直ぐだ。
互いに分かっている。見当がついている──それでも流石に言葉にするのは憚られた。寧ろ、そんなことを言うのならそっちが言ってくれればいいのにだなんて八つ当たりじみたことを思う。
──なんてことを思ったからだろうか。

「僕はさ、」

おもむろに徳田の手が伸びて織田の腕を掴んだ。引っ張られ、それが徳田の口許に運ばれる。まるい頬に触れた。薄い唇が開いた。吐息が触れる。舌は赤く、暗い口内で歯だけが白く目についた。

「……あの日のことを思い出してしまうよ」

手になつく徳田に、織田はじとりと目を細めた。

「忘れろ言うたんは秋声サンやないですか……」
「やっぱり無理だったって報告してるだけ。……っていうか、そうなった原因は君だし」

言って、徳田の頭が織田の肩に乗せられた。不意の密着にばくばくと心臓が鳴っている。

「君があんな風にするから……あんな風にされて気持ちよくなってしまう僕を知ってしまったんじゃないか」
「……ンンッ!」

余りの赤裸々な言葉にただただ噎せる。

「い……ッ」

と、その時。取られたままの手が、がじ、と噛まれた。親指。痛くはあるが耐えきれない程でもなく。
反射的にビクリと人差し指は跳ねたが、手首を取られている為に引き戻すことも叶わず、瞠目する織田の指に歯形をつけた徳田は彼の肩口に顔を埋めたまま言う。

「責任を取ってはくれないかい?」

するりと徳田の指が織田の指に絡まって、所謂恋人繋ぎという状態になった。見下ろした徳田は顔は伏せられていて見えないが、その耳が、首が。赤くなっていて。

「………めっちゃ照れてますやん」
「うるさいな」
「痛ッ!」

照れ隠しだろう、顔は上げないままに繋がれた徳田の手の、彼の爪がぎちぎちと織田の甲に突き立てられる。地味に痛い。
くふ、と笑いが込み上げた。どうにか噛み殺そうとしたが耐えきれずにケッケッケッといつもの笑いが口から飛び出した。

「君ねえ!」
「ケッケッ、すんません、すんまフハッ!」
「もう!」

謝りつつももう完全にツボに入った織田に徳田はぐるると歯噛みする。パッと手を離すと織田は腹と顔を覆ってしゃがみ込んだ。
ヒィヒィと喘ぐ織田が憎らしく、どうこうして口説こうとしていた気持ちも飛んで、徳田は織田の足を脛を思いきり蹴り上げた。徳田は日頃、足癖が悪い。

「痛!イッタ!」
「織田くんのバカ!もう知らない。一生ひとりでオナニーしてろ!」
「ちょ、ひど、ふくく、待ってや秋声サン!」

痛みに呻くか笑いに悶えるか、と忙しないが織田は憤慨する徳田に追い縋ってその足首を掴む。
ほぼほぼ床に這いつくばっており、格好悪い。冷たく見下ろす徳田の瞳が寒かった。

「離して」
「イヤや」
「織田くん」
「秋声サン」
「……はぁ」

うるうると瞳を揺らしてみれば、徳田は溜め息を吐く。年下、もしくは顔の良い人に弱いということは十分に知っている。そんな徳田が織田の顔面というダブルコンボに勝てる筈がないのだ。
不機嫌に立ち止まった徳田はちらと縋る織田を見下ろした。

「……僕は、冗談じゃないからね」
「ええ、わかっとります」

すっと手を差し出せば、渋々というように手を貸してくれる。引かれるままに立ち上がると、そのまま織田は徳田に抱き着いた。
10センチは背の小さい徳田の、丸くて、少し固めの髪の毛が頬を擽る。

「今晩、お伺いしてもええですか?」

勿論のことながら、互いにオカズにしているとわかりきっていることだ。今更だから言わないけれど、その意味は男だからわかるだろう。
するりと腰に腕が回って抱き返された。腕の中でその丸い頭がクスクスと笑う。

「僕の部屋はやだな。僕が君のとこにいくから、待っててくれる?」
「そりゃ勿論、いくらでも」

だって数ヶ月既に待ったのだから。
顔を上げた徳田のはにかみに、柔らかく膨らんだ頬が噛み付きたくなるほど可愛らしい。笑みを返す。
満足した徳田はべりっと織田を引き離した。仕事が残っているので意識を切り変えたらしい。返却本の乗ったカートを持つ徳田の背中を見ながらトホホ、と織田は肩を落とした。言わばカップル成立だというのになんて味気ない。

「どうしたの、織田くん?早く行こう」
「ハァイ…」
「ん」
「ん?」
「え?」

振り返った徳田は首を傾げた。そんな彼が差し出す手を見て織田は瞠目し──破顔するとぎゅうっとそれに手を重ねる。落ち込みかけた気持ちは既にテンションぶち抜いている。並んで歩き出しながら、織田の足取りは驚くほどに軽やかであった。







「あのさ、織田くん。あのね………喉の奥までいれるとね、きもちいんだって」
「めっちゃ新しい扉開いてもうてますやん………吐かないでくださいね?」
「善処する」
「確約して」
「……してくれないの?」
「善処します」
「確約してよ」








20200428

TRPGぽいなって思いながら書いてた部屋。
自慰→手淫→口淫→尻イキ→セックス→潮噴き、みたいな指示で指摘がない限り時間が短い為、セックスしないと出られない部屋。
正直途中で恥ずかしかったから止めた。

秋声さんに新しい性癖の扉を開かせたかった。多分織田くんも新しい扉を秋声さんで開いた。
織田くんの部屋がいいって言ったのはベッドだからです。フェラしやすいね!
蛇足が長かったけど頑張って誘惑してたんですよ。多分尻もちょっと開発してたと思う。

アニメはよもっと徳田見せてくれよ我らがチュートリアル徳田をくれよなぁくれよもっと置いてけ徳田ァ!



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