あとは一部の悪意。
漫画バエする話かと思うんで誰か描いてください(丸投げ)








その日、南吉は出入りのおばちゃんから同情されていた。

「お嬢ちゃん、いっつもおんなじ格好で可哀想でねぇ。おばちゃん、今日はいいものを持ってきたのよ」
「いいもの?」

可愛らしい見かけに可愛らしい色合いの服を着ている為か南吉は性別を間違われていた。
普通によく共にいる賢治などにはきちんと「南吉」と男らしい実名で呼ばれているが、日本人離れした髪色からか「外国の人の名前って不思議ねぇ」とスルーされている。
おばちゃん、それ普通に日本語だよ。
しかして南吉も慣れたもの。そう、慣れるほどの間違いに、今更訂正などしない。悪戯っ子の性質的にも美味しいものらしい。
そんな打算は露知らず、善意溢れるおばちゃんはそっと背後から取り出した箱を南吉に渡す。元はお菓子の箱だったらしい綺麗な絵の缶。

「わあ!綺麗な髪飾り!」
「これはねぇ。昔、娘が集めていたものなんだけれど。もう使わないから、よければ使っておくれ」

おさがりで悪いね、とおばちゃんは言った。娘の思い出の品だから捨てるに捨てられないが使わないのも勿体ない。ならば、そういうのが好きそうな可愛らしい女の子に譲ってしまおう、というのがおばちゃんの意見だ。
南吉は女の子ではないけれど。それでも、キラキラやふわふわ、可愛い飾りのついたそれに破顔した。

「ありがとう!僕、大切にするね!」



──これが悲劇の始まりであったなどと誰が思うだろうか。







「ブッファ!秋声、ぷぷ、なんだそりゃ!」

朝食を摂りに食堂に来た田山は思わず指を指して大声を上げた。
そこには、いつものぶすくれた顔を割り増しにした秋声であった。やや、顔が赤い。
秋声のぶすくれ顔など今更だが、なにがそう花袋をわら…驚かせたかと言うと──その頭の両サイドに揺れる可愛いリボンのせいだった。

そう、南吉が、貰った髪飾りを自分のみならず仲間にも与えていたのだ。

短髪の秋声は小さな小さなチョンマゲをふたつ、こしらえられていたが、青い水玉模様の大きなフリルリボンのせいで見えてはいない。ただただ頭の両サイドに大きなリボンを揺らす青年の姿がそこにはあった。

「えへへ、可愛いでしょう!」
「んん、ぷぷぷ!可愛い可愛い!」

貰い物の髪飾りのお裾分け。そう、自身も普段の帽子は脱いで、後ろを編み込みピンクのリボンで結び、前髪を猫のヘアピンで留めた南吉に説明を受けた花袋は、にこにこと楽しそうな彼に笑いを噛みながら答えた。全く殺せていない。

「あーらら」

そのふたりのやりとりを、秋声の隣で眺めていた織田が見てそう呟いた。

「おんやぁ?オダサクは遊ばれていないのか?」
「そらぁ勿論、遊ばれてますわぁ」

花袋に引きずられてやってきていた独歩は朝一番の笑撃でパッチリ目を覚ましており、あまり普段と代わり映えのない織田を見付けて質問をする。ちなみに藤村は秋声の写真を撮って嫌がられていた。
確かに織田は秋声に比べて、真正面からの違和感はなかった。が、彼が背に垂らしたみつあみを前に出すと違いが如実にわかる。

「あー。なんか、そんな童話あったな?」
「ケッケッケ、ええでしょ。南吉センセの傑作ですわ」

彼のみつあみは、その長さ全てに可愛らしい花やお菓子や動物を象った飾りが突き刺さっており、さらにはキラキラとラメのついたリボンが巻かれていたので圧巻だった。
若干重みが増したが秋声のような一見でのトンチキではないので織田はこれを楽しんでいた。
まぁ、彼の性格から例えトンチキリボンでチョンマゲを作られたとしても楽しみそうであるが。

「それにしても、お三方。ざぁんねんでしたなぁ」
「残念?」
「せや。実は、まだまだいっぱい髪飾りが残っておるんやわ」
「……成程」

ちらと見た南吉と花袋は、先程の朗らかな様子から一変していた。
青い顔の花袋はぶんぶんと顔を横に振り続けており、その肩をツインテリボン秋声が圧のある笑顔で押し止めている。
そしてその前でキラキラ笑顔でリボンを勧めている南吉の、地獄絵図。

「花袋、観念して君もおリボンを頂戴しなよ」
「ヤダヤダヤダムリムリムリ!」
「往生際が悪いね…」
「だってトウソ───藤村んんん!?」

秋声と花袋の押し問答(物理)の横で溜め息を吐く藤村を振り返り、しかしその姿を見て花袋はまた驚愕に声を上げた。

「なんでェ!?」
「えへへ!藤村さんは緑のリボンだよ!」
「ぴーすぴーす」

いつの間にか、藤村の頭の双葉の根本が深緑に金縁のリボンで括られていた。驚く花袋に真顔でダブルピースをして見せる藤村。
シンプルな状態だがその手のひらには星のついたヘアピンが見えている為、トータルコーティネートも済んでいるらしい。

「おっ島崎、可愛くなってるじゃん!」
「でしょう?」
「南吉、俺には〜?」
「独歩ぉ!?」

わちゃわちゃと輪に加わった独歩が自分から進んで仲間に入れてと言うものだから朝から花袋の声帯の負荷は重い。

「でも俺、後ろ髪はこだわってるから前髪だけで頼むな」
「うん!それじゃあね…」

自慢の外ハネは崩したくないと先んじて言えば、南吉は要望に応じて缶の中の宝物を選びにかかる。
実のところ、嫌がって勝手に選ばれるより率先して乗った方が意見が通りやすいのだ。押してダメなら引いてみろ。
嫌がって嫌がって勝手にトンチキリボンを選ばれ、泣きそうな幼顔に押し切られた秋声を見てみろ。
どこからどう見ても立派な敗北者だ。
だからこそ、彼とは色違いの大きな赤い水玉フリルリボンという犠牲者を秋声は逃がすつもりはなかった。図書館最強の名の許に物理で花袋を椅子に座らせる。

「うーん。独歩さんは髪の毛ピンク色だからぁ」
「あ、これ可愛くないか?」
「いいね!」

おおきないちごのついたヘアピンで片側の前髪を留める。と、まるで太宰の普段の髪型のようだとふたりで話して編み込みを施してドッと笑う。
和気藹々としたふたりの裏で、手の空いている藤村は織田に自分用のヘアピンを差し出した。

「織田くん、ちょっとこれつけてくれないかい…?」
「ええですよ。おでこ出します?横でみつあみしてもええですね」
「うーん、どうしよう。オススメで」
「じゃ、前髪を編み込んで斜めに流しつつおでこ出しましょか」
「わぁ、スペシャルセットだね」

そして出来上がったふたりは元の顔の良さを際立たせた出来であった。絶対にトンチキになる青年のリボン姿の筈なのに。
ちょっと悔しさを感じる秋声と花袋であった。

「でぇ?まぁだ花袋はごねてんの?」
「ごねてなんか…ッ!」
「はいはいはい。いーからいーから。独歩さんにまかせとけって!」
「ちょ、やめ、や、やめろーーー!」
「頑張れ国木田♪」
「動くな花袋♪」
「この薄情者めぇ〜〜〜〜〜!」

がっしりと体を押さえる秋声と、背後から首をキメて頭が動かないように固定する藤村。
そして迫り来る独歩と鏡をスタンバイする織田。

───花袋に救いの手は訪れなかった。




ぐったりと花袋は食堂のテーブルに顎を乗せて潰れていた。
その頭の上には、短い毛を出来る限りの集めた1本のチョンマゲがそびえ立っていた。そして、それに燦々と輝くような赤い水玉のフリルリボン。
隣に座る秋声の色違いのツインテリボンと並ぶと異様さが倍増するからすごい。
ヒィヒィと独歩は笑い転げ、藤村のカメラは先程からひっきりなしにシャッターが押されている。

「…満足か?」
「うん、ありがとう」
「……ならいーよ」

そんな会話が花袋と秋声の間で交わされた。
結ばれた直後、うるうると「取っちゃうの……?」と見上げる南吉に、この図書館に勝てる人などほとんどいないのだ。


そして南吉の暴走は続く。


プロレタリア三人組は赤いリボンだ。フードを下ろしたくない多喜二には、髪飾りではないが入っていた赤いリボンの形をしたピンを上着につけて、中野はハーフアップを赤いリボンで結ぶ。藤村のものと同じく金の縁取りがあり、クリスマスカラーでセットだったのかも知れない。直は赤いヘアゴムでサイドテールを作り、お揃いで喜ぶ三人に南吉も空気を読んだ結果である。
ツインテリボン2号となった安吾は腰巻きと同じ紫のチェックリボン。太宰はどうにかヘアピンだけの交換にしてくださいという懇願が通り、今日の耳元で桜が一輪、咲いている。
菊池はハーフアップではなくポニーテールを緑青のシュシュで留め、新感覚も是非にと色違いのシュシュを選んだ。とても満足そうな三人に、南吉は流れてもない汗を輝く笑顔で拭く。
露伴は慎んで紅葉を生け贄にし、紅葉は意気揚々と昇天盛りをされていた。止めようとした鏡花はまさかの師匠の裏切りにあって、誰の手が触れたかわからないリボンを頭に巻かれて失神した。
ちなみに白鳥は友人の醜態を目にした瞬間、踵を返して全力疾走をしたまま帰ってこなかった。もしも彼に潜書があれば捕まえられたのにと歯噛みする。
しかし見つけられたならば付けてやろうと秋声のポケットにはひよこのヘアゴムが、花袋のポケットには「卑怯鳥」と書いた段ボール片がある。セロテープもある為、とっ捕まえて背中に貼り付けるつもりだ。
どうせ、独歩も藤村も付き合ってくれるだろう。味方の時は心強い二人組だ。

そんなこんなで巻き込まれた者は1日虚ろに笑うかノリノリかのどちらかに分かれ、免れた者は己の幸運に感謝して、被害者の冥福を祈って合掌した。
一日の終わり。頭を重くしたそれを取り払って皆々は涙しながら眠りに就く────嗚呼!ようやく終わるのだ!と。

翌日に第二段が待っていることなど知らぬまま。









20200223

「これがあれば秋刀魚も怖くないね!」と猫バッチを貰ってだらだら冷や汗をかく佐藤先生のネタあったんけど永井谷崎の髪型とネタがなかったから出せなかった。他の人物もそう。白秋先生はモンペが怖かったので出せなかった。
あと南吉くんが細かい髪型作れるとは思えなかった。

これで一般カウンター対応業務があったらすごいだろうなぁ。
恥ずかしさのあまり外してしまうと南吉先生の抜き打ち検査で泣かせて社会的な意味で死んでしまう可能性が出る。

最終的にはプリプリでキュアキュアな衣装を譲って貰って童話組で着よう!とゴリ押ししようとして未明くんにガチギレ説教されて終わる。未明くん髪飾りまでは抵抗しつつも我慢したいい子。
たまに長髪組でリボン使った編み込みとかしてヘアメイキングスキルをあげていく南吉くんであった──。



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