セルフお題「特攻隊」
※面影なし
【秋声の巣/巣作り】の設定が特に意味もなく入ってます。読まなくても飛ばせる内容ですが良ければ読んでね(ダイマ)







「秋声」

呼び掛けられて顔を上げると旧友が垂れ目を一層へにゃりとたわませて小さく手を振った。

「どうしたの、花袋」
「ん。なんかまた新しい本が見つかったらしいぞ」

成程、だから今日の助手役の一人であった花袋がこうして図書館の辺鄙な一角──秋声の巣と呼ばれる彼が半ば占有しているスペースだ──まで呼びに来たのか。納得して持っていた本へと栞を挟む。

「そう…。今回の編成は?」
「程度予測・中、会派三先攻・連戦なし。続き2戦は第二。最後に第一。で、第四は今回は出番なしかな。
オレはもうちょい進ませてくれてもいいとは思うんだけどなあ」
「そうだね。司書さん少し慎重になりすぎかな。でも、無謀よりはずっといいよ」
「そうだけどさぁ。でもさぁ。どうせ、後ろにはうちの特攻隊が控えている訳だしぃ?もーぅちょい、こうさぁ、冒険してみたって言うかさぁ」

ぶうぶうと文句を垂れる花袋は後ろ頭を掻きながら顎を上げる。唇はつんと尖っており、まさに不満を絵にかいたようだ。
ちなみに会派三はレベル帯30前後であり、会派二はレベル帯40以上。会派四はレベル帯30以下に引率を付けた形になる。つまり、レベルが上がるにつれて会派の数は小さくなるという訳だ。
そして会派一は──

「まぁ、僕たちは道を切り開くだけだから。そうしたら君たち第二の出番さ」

言わばカンスト及びそれを目前とした連中しか会派一──図書館最強部隊に入れないのだ。
秋声はそう言ってトンと花袋の肩を拳で打つ。

「頼りにしているよ」

正直、花袋とて弓の特性としてMVP泥棒であり、今やレベルも50を超えている。
では何故未だに会派二か──それは、弓の面子が少ないということが問題だった。僅差で先にレベルアップしてしまった独歩と藤村は一応、会派一の控えという扱いだが、同時に未だにレベルアップの余地があるとして会派4の引率に引き立てられることも多く、また、本来ならば会派二を担当するべき50を目前とした白鳥とて会派三で馬車馬の如く働かされているのだ。指輪の効果で弓を装備する者も増えたが、秋声たちのように最前線に立つにはまだしばらくの時間が必要だろう。
脱線したが、そうして最強の第一会派が切り開いた道を、花袋が──第二会派が引き継ぎ研究の為の周回を行うというのがこの図書館のルールである。

「…ああ、こっちこそ」

なにはともあれ、図書館最強に頼りにしてると言われてしまえば花袋だって背筋を正すしかない。ニッと笑った花袋は秋声の背中をポンと叩き返した。
秋声は花袋を伴って歩く。歩く。ホールを抜けて関係者以外立入禁止の札のかけられた白い扉は地下へと繋がる唯一の道。
最奥の重厚な扉を押せば、そこに待つは共に命を預け合う仲間たち。

「おっそいですやん。もう、みぃ〜んな集まってまっせ」
「ああ、僕たちが最後か。待たせたね」

にやにやと笑う織田──この図書館の初期文豪にして秋声と共に最強に君臨する最古参。並ぶる幸田と中原は、いつも一番の危険を駆け抜ける第一会派の戦友だ。
今回の第二会派は花袋と長とした坂口、萩原、尾崎。そして白鳥、菊池、梶井と三好の第三会派。
そして、司書と、花袋の助手を交代する志賀の総勢14人が集まれば、決して狭くはない部屋でも狭く感じるものだ。
それぞれが所定の位置につくと、志賀に背を押された司書が一歩前へと進み出る。

「政府からこの度『───』の浄化を任されました。危険度の予想は中。最奥は上とも考えられています。会派の二、三が妥当とされてはいますが、最奥は会派一に任せたいと思っています」

先程花袋と秋声が話した通りに、過剰戦力は慎重が過ぎる。場合によっては実力を下にみていることになり信頼が失われる可能性だってあるだろう。けれど長らくこの司書の下で働いていれば、司書がちょっと間が抜けていて、心配性のお人好しだということがよく分かっている。
だから、基本的に中身がジジイである彼ら(一部子供染みたところが強い者もいるが、それは曲者揃いの文豪であるので仕方がないことだ)は孫を見るような気持ちでそれを受容した。
不意の爺孫モードを露知らずに司書は口上を述べていく。その内に文豪たちの緩んだ気持ちも整っていった。

「それでは──筆頭は第一会派、徳田先生。第二会派花袋先生。第三会派菊池先生。よろしくお願いします」

深々と頭を下げる司書に、名を呼ばれた三人はちらと顔を見合わせて笑う。

「いってくる」

先陣を切る菊池がそう言って、下がったままの司書の頭をぐちゃぐちゃと撫で掻き乱した。
控えの間から潜書室へと移動する菊池の後に残る三人も続いていく。流石の白鳥は一瞥だけで終わってしまったが、梶井と三好は菊池に倣うようにぽんと司書を叩いて扉の中へと姿を消した。
顔を上げた司書はまだ不安そうである。幾度と見送りながらも、彼は未だに他者を戦場に送ることに慣れてはいないのだ。

(そこがこの子のいいところではあるのだけどね)

年若くとも成人はしている司書も、見た目は兎も角、中身はジジイ共に言わせればまだまだひよっこの子供である。仕方がないなぁ、と秋声と花袋は笑い合った。

「おっしょサン。心配なのは分かるケド、菊池センセと白鳥センセがおるんやから変なことにゃなりゃせんで?」
「んんん、でも……」
「そうそう。それより君、ちゃんと次の手配はしているのかい?今の内に洋墨だってある程度で小分けしときなさいっていつも言っているだろう」
「うえっ」
「ホンマ、初戦は気が急いて計量ガバガバになるもんなぁ。秋声サンのいう通り、今の内に計っといた方がええで?」
「うええ〜〜〜〜っ」

最古参にわちゃわちゃと司書は調合室へと追いやられていく。それに苦笑しながら助手を交代する志賀が続いた。
ふたつの背を見送って、フンと秋声は腰に手を当て息を吐く。一戦行う前に既に一仕事を終えた心持ちであった。
どうせここにいても暫くは不安にうろうろするばかりなので、なにかをやらせておいた方が司書も気が紛れるだろう。ガバガバな部分は志賀に見てもらうしかないが、彼の衣服が白いところが少々不安なところである。
他の面子もにこにこと笑いながら一連を見守ってくれており、ほぼほぼ恒例行事となったそれに気が抜けてしまう。

「嗚呼、もう。皆、気が抜けているようだけど引き締めてね。怪我なんかしたら司書さん泣いちゃうからね」
「ケッケッケッ。そうやな、こどもを泣かせちゃあきまへんで」

緩みきった仲間の顔を見渡して秋声は言った。それを引き継ぐ織田の顔はただただ愛しい物を見るような優しい顔をしている。

そう言っている内に先陣たる第三会派が戻ってきた。表層面であるから然程時間はかからないが、それにしても早い。

「戻ったぞ」
「おかえり。どうだった?」
「ん。事前情報通りだな。だが過剰戦力は否めない。ま、初戦だし、怪我をするよりかは良いがな。周回には第四も2:2で編成直せば安全を確保出来ると思うぞ。
負傷は三好が1度くらった程度だから別に俺たちが連続で出てしまっても悪くないとは思うが」
「そっか…。うん、第二会派がメインとなる以上消耗は避けたいし。僕も司書さんに一言添えよう」
「おう、そうしてくれると助かるぜ、秋声。ありがとな」

最近出番のない第一の控え組と新人で2人ずつ組ませるやり方で安全を買いつつ修行を積ませる良い方法だ。この手の浄化にはなによりも回数が力となり、そして回数こそが経験となる。
ニカッと気の良い笑みを浮かべた菊池に笑みを返して秋声は連れ立って司書室へと向かった。

「…結局さぁ」
「ん?」

菊池と秋声の背中を見ながらぽつり、花袋は呟いた。

「今は交代したけど。今日の助手は俺だし、当の第二の隊長俺だし。でも皆、まず秋声のところに行くんだよなぁ」
「ケッケッケ、妬いてはるん?」
「んーどうだろ。友達が立派で、皆から頼られてて嬉しいぜ? でも、なんかモヤモヤするかな。秋声は一人しかいないから」

花袋の言葉を拾った織田の揶揄は、想像以上に真っ直ぐな言葉で返されて、ぱちり、瞬く。
それはつまり、秋声の心配だ。人付き合いがあまり上手くない癖に頼られたら受け入れてしまう、抱え込んでしまう性質の親友が潰れないように、と。

「勿論お前もな、織田。秋声とふたりで今までずっと支えてくれていたけど──それに、ずっと甘えっぱなしじゃダメだと思う。俺たちだって十分強くなった。もう、一人一人が中心に立てるようにならなくちゃな」

話しながらパッと花袋は織田を見た。
今日は筆頭の菊池的に徳田に寄ったが、場合によれば織田が中心になることはある。それが信頼であり実績であると花袋は勿論分かっていた。
相談はどんな時であっても行われるべきことだが、そこに「秋声がいるから」「織田がいるから」と個人間だけでショートカットするのは望ましいことではないと分かる。勿論人数が増えれば意見が割れる可能性は高くなり、迅速な対応とはいかなくなるかも知れない。けれど、今回、予定変更を直接受ける当事者──第二会派筆頭の花袋を呼ばないというのは有り得ない。
花袋はそこら辺は深く気にしないし気を悪くもしない。が、同じことをされて蔑ろにされたと感じる者だっていることだろう。
最終的に最高責任者の判断が下されるので、個人間に問題を持ち込むことは少ないだろうと推測はできるが、回避できる問題はそうした方が賢い。

「ま、今度司書に言ってみるさ。潜書も助手業務も、皆、平等に練習しなきゃな!」

後ろ頭で手を組んだ花袋はそう言ってはにかんでみせた。少し真面目な話をしていたことに照れたのだ。
その顔を見て、その真っ直ぐな言葉を聞いて。

「アアアアア!」

織田は顔面を両手で押さえて身悶えする。

「お、おい、織田?どうした?」
「どうしたもこうしたもあるかーい!」
「おわっ」

そんな、真っ直ぐに心配されたりとか。そんな、あまり直接の交流のない自分までしっかり観察していたり評価していてくれていたり。
嬉しくて、恥ずかしくて、こそばゆくて──照れない筈がないだろう!

「もう。もう。ほんま、あンのお人の親友だけありまっせ、もう…」
「?」

訳がわからないといった様子で花袋が首を傾げる。
そうやって、真っ直ぐで、こういう時だけ照れもしない。真顔で、笑顔で、人たらしを言ってのけるこの親友たちは本当に類が呼んだ友だろう。
人たらしといえば桃色頭の人がとんでもないと聞くが、この人やあの人が「ヤバイ」と言うくらいであるのだから、距離を置いた方がいいかも知れないと織田は頭の片隅で思った。
自然弓怖い。

「おおきに」

少し熱の引いた顔を、それでも片手で隠して織田は言う。

「逆に、ワシらがつい手を出しそうな気ィがしますねん。せやから、……一緒に頑張ってくれはります?」

結局のところ織田と徳田も、仲間が大事で大切だ。そして自分達ふたりが中心となって今まで走り抜けてきた。生前の師匠だろうがなんだろうが、今となっては全て二人の羽根の下。心配するし、多少過保護にもなるものだろう。
花袋の話は、雛たちの巣立ちを促すものだ。
それ自体は悪いことではない。が、今までずっと過保護に守ってきたそれを送り出す彼ら親鳥の覚悟だって必要になる。
少し自信無さげな織田の言葉に二度三度と目を瞬かせて、花袋は破顔した。

「おう!」






「ねぇ、花袋。なにしてるの?」

ひょっこりと秋声が司書室から顔を出す。のんきに、ではないが織田と話し込む親友を見てムッと眉を寄せた。
今日も今日とて素直である。

「おう、秋声。今な、」
「気付いたら花袋が隣にいなくてびっくりしちゃった。なんでいないの?」
「え、ええ?」

近付いたと思えばがしりと花袋の手を取った秋声がそう文句をつけた。一体なんのことだ。
ぶちりぶちりと溢される愚痴を分析すれば、なんと、秋声は菊池が帰ってからずっと隣に花袋がいる前提で喋っており、司書室で「ね?花袋」と呼び掛けたらいなくてびっくりした、ということらしい。
ちなみに影も形もなかった花袋への急な呼び掛けに司書も菊池も志賀も驚かされていた。
(ついでに言えば菊池も花袋がいないことは気にしていたがとんとん拍子に進む話に口を出せなかったそうだ。まさかエア花袋が秋声の脳内に発生していたとはまさか思うまい。後日「仲が良いのはいいことだが、実態を伴ってくれ」と言われたのは苦い思い出である)

「ほら、早く来てよ。花袋がいないと始まらないんだよ」
「ああ、はいはい。もう。仕方がねぇな秋声は!」

ぐいぐいと引っ張られるままに連れられていく花袋の顔は喜色満面の大輪の笑顔だ。
それを見送って織田は小さく溜め息を吐く。

「しょうもな」

全く、一体今なにを見せ付けられていたのだろう。
ごちそうさまでした。








20200208

弊館の会派設定は1、2はほぼ不動で3、4はイベント特攻に入れ替わる。
本当は「いってくる」の台詞を秋声さんに言わせて「あいつらがいればもう大丈夫」「これがうちの特攻隊さ」って話になる予定だったんですけどね。どうしてこうなった。多分会派の話が無駄だった。

あとはついでの「弊館、古参に頼りすぎでは?」問題とうちの花袋くんかっこいいでしょと自然弓みんなたらしだよね問題です。

真顔で人たらし(照れない):秋声藤村
真剣に言った後照れやがるからこっちまでつられちまうやろこの人たらし:花袋
真顔で言った後に珍しくもふっと優しく笑ったりするから始末に終えない人たらし:白鳥
一挙手一投足言動の全てがレジェンド人たらし:独歩

まんじゅう(自然弓)もこわいがそろそろ濃い茶(庶民派)を一杯欲しい。



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