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本にしたんですが「──」の処理を忘れて縦書きなのに横向きになってしまった残念な話の、webからの再録からのweb再録です。
処理は残念でしたが話は無念一杯憂鬱な感じの特殊設定なので閲覧は自己責任でお願いします。
男は暇を持て余していた。
にんぎょう、ひとりひとりに挨拶をして時に髪を梳いては体を拭き、と世話をする。基本的に几帳面だがどこか大雑把なところがあるその男の手を兄弟子辺りが見れば烈火の如くに怒っただろうが、今ここにいないのだからいいのだ。
そんな男の起伏もないが争乱もない日常。いつかの彼方まで続くだろうそれは──けれど唐突に破られた。
日課のひとつ、中庭の手入れをしていた時のことだ。おふざけで買った象を模した如雨露から水を降らせながら、男はハッと気付いて顔を上げた。
「こんニャところにいたのか」
窓からひょいと顔を出したのは灰色の毛並みを持つ猫だ。一丁前にタイなぞ結んだ白靴下の猫は、猫に関わらず人語を話す。
けれど男はそれに驚かない──何故なら、そんなことはもうずっと前から知っていたから。
「やぁ、ネコ。久し振りだね。また会うとは思わなかったよ」
「そうか。だが我輩はお前の予測ニャど関係ニャいのでな」
久々に会った筈なのにこの塩対応。男は──徳田は苦笑した。
「君がここに来たってことは、もう終わったということでいいのかな?」
「──」
「そう。そうか……」
無言の肯定に徳田は頷くと如雨露から手を話して窓近くにいるネコの許へと大股で歩み寄った。
「おかえりなさい、お疲れさま」
衝動のままネコの小さな体を徳田は抱き締める。少し乱暴だったかも知れないがそれでもネコは拒まなかった。柔らかな毛並み。小さな頭。久々の、生きたもののあたたかさがそこにあった。
「君は…もう、終わるのかい?終われるのかい?」
そろと背を撫でてもネコは爪を立てたりはしなかった。彼は答えない。ただ、その小さな頭を徳田の肩に擦り付けると尻尾をゆらと揺らした。
それを肯定だと解釈し、徳田はただ「そうか」と繰り返した。
「君と話がしたかった」
「あの子の話を、みんなの話を」
「勿論、僕の話も」
「君の話も」
切れ切れに溢れた言葉。聞き取りにくかっただろうにネコはそれすべてに相槌を打つようにぽすぽすと尻尾で腕を叩く。
「いっぱい、話をしよう。もう僕たちは待たなくていいんだ。かえれるんだ、みんなのところに…!」
涙を溜めて微笑んだ徳田に、ネコは、らしくもなく「にゃあ」と鳴いてまた徳田の首に頭を埋めた。
──終わりの始まり──