同じネタかよというのは既にセルフツッコミしているので大丈夫です。
元は一部文豪ピックアップして小ネタずらずらしようと思っていたんですけど全然小ネタに納まらなかった小話。





#自分のことを好きな人を10人挙げないと出られない部屋 〜織田編〜

「ええ〜そんな〜困りますぅ〜」

弾む声は困っているようには思えなかった。確実に楽しんでいるだろうことがわかる彼はくねりと身を捩る。
そこは先日、徳田が入れられた部屋と同じだった。机の上のマイクとスピーカー。扉のない空間だが書かれたお題を達成すればにょいんと扉が開くことは知れている。
アルケミストパワーはかくも不思議だ。

「ってゆか前回と同じ質問なんて芸があらへんなぁ」
「すんませぇん。いいネタなくてぇ〜。まぁ、オダサク先生はなんとなく予想がついてるからサクサク行きましょう。後がつかえてるんで」
「ウッワ、雑〜」

軽薄な司書の返事に負けず突っ込むと、前回のモニタリング時に写し出されていた映像はここらへんであったかと見当をつけながら織田は上を向くとその整った顔に華やかな笑みを乗せて両腕を伸ばしてぶんぶんと振る。

「秋声サ〜ン!見てはる〜?ワシ秋声サンに出会えてめっちゃ嬉しい〜大好きでっせ〜!」

美男子の上目遣い。照れ恥じらうあざとい身振りと言葉。
享年から大分若返った先輩文士への言葉はそれはもう愛に溢れていた。
何故そんなに、と不思議に思う人は多いだろう。しかし考えてみてほしい。司書と三人、延々と朽ちかけの洋館の手入れに明け暮れた一月の苦労を。広大すぎる館、支給されるは握り飯のみ。最悪すぎる労働環境を三人肩寄せ合いこなしてきたので誰よりも戦友の意識が強いのだ。
抜けていて穏やかな司書すらもその時期の放置具合には未だ腹を立てており、それをネタに館長からボーナスをせびったりすることもあるのだが。
はてさて、そんな織田に司書は苦笑した。

「オダサクさん、自分が好きな人じゃなくて自分を好きな人を挙げてくださいって」
「もぉ〜うるさいやっちゃなぁ。いいんですぅこの前秋声サン言ってくれはってたやん。ワシのこと好きやろ?な?秋声サン?」
「あ、言い忘れてましたけど今回他の方いませんから」

二度目のキラキラ笑顔を前に司書はさらっと言った。
そう、前回は皆が徳田を見ていたが、司書曰く今回は司書のみなのだ。

「ハァ!?あほちゃう!?なにさらしてくれてんねん!ワシの媚返せや!いてまうぞコラァ!」
「…っていうのは嘘です」
「……ハ?」
「それでは徳田先生、感想をどうぞ」
「あ、うん。ありがとうねオダサクくん。僕も好きだよ」
「─────」

司書の小粋(殺意)な冗談に固まった織田に畳み掛けられる徳田の名前+好きという言葉。
織田は胸を押さえると──倒れた。

「オダサクさん!?」
「織田くん!?」

モニターの向こうで踞る美男子に流石にざわりと皆が立ち上がる。

「……アカン」

小さく拾った織田の声にどうしたと問えば、彼は乙女のように脚を崩して座ると顔を押さえて「ワシの推しが今日も可愛い」と呟いた。
どうやら悪いのは頭のようだ。

「司書さんのアホ〜〜〜〜秋声サンの前で可愛くないとこ見せてもうたやん〜〜〜〜ヤダァ〜モォ〜〜〜〜〜〜ゲンメツされてまう〜〜〜〜〜」
「いや普通にいつも通りだったじゃないですか」

悪態をついたところを見られてしまった織田がそう嘆くが、いやしかし通常運転だろうと司書は思う。確かに彼は徳田の前では比較的良い子の顔をしている気がするが。
生前を考えても、織田と徳田の関係は、お爺ちゃん大好きっ子とお爺ちゃん、という感じだろうか。かっこいいところを見せたかったのに!と駄々を捏ねるこどもに、徳田は微笑んだ。

「オダサクくん」

笑いを含む声にそろりと織田は顔を上げる。勿論織田の方からは徳田たちは見えず、視線をうろつかせる不安げな顔は──徳田の爺心を大いに擽った。
彼もまたウッと胸を押さえ、頬を紅潮させながら言う。

「僕はどんなオダサクくんでも好きだから。幻滅なんかしないよ」
「秋声サン……!」

感極まったように織田は震えた。
とてもほのぼのな光景であるが、しかしモニターのない織田の視線がずれていて正確に見つめあわないのが微妙に虚しい。

「君に落ち込んだ顔は似合わないさ。さぁ、いつもみたいに笑ってくれないか」



「……なぁー俺らなに見せられてんの」
「いや、うん………なんつうか、ああいうところあるよなアイツ」
「あれ、素だよね。やっぱり面白いな秋声は」

呆れている独歩に花袋は苦笑した。
一見、口説いているように見えなくもないがあれは秋声の素なのだ。
先述の通りに彼らの関係は爺と孫に近い。普通、爺は孫を口説かない。徳田に口説いているつもりはない。ただ、愛しいから愛しいと言っているだけなのだ。
そして孫の方もそれが分かっていて親愛を向け合っている。
しかし、見た目は同年代の若い男が好きだ好きだと言い合っているのは薄ら寒い。独歩たちが引くのも仕方がないだろう。

「オダサク〜俺らのことも思い出してくれぇ〜」

そして背後でグラサンを濡らしているグラサン、もとい、坂口安吾が情けなくも訴える。
彼と太宰、そして織田の三人で三羽烏と称されていると言うのに、その内の一人が──末っ子の織田が自分がいない間にどこぞの馬の骨と言う名の大御所になついて自分が疎かにされてしまっている現状に「お兄ちゃんももっと構って…」といじけている訳だ。
その背を撫でてやっている太宰にしても実は彼もとても徳田になついているのだが、それを言っては余りにも坂口が可哀想なのでそっと口を閉ざしている。
ごめんな安吾、そいつら週に一度はお泊まりしては川の字で寝てるんだ。

「秋声サ〜ン、今日お泊まりしに行ってもええ?」
「ん?いいよ、おいで。また太宰くんとかい?」

おっと折角秘めていた筈のお泊まりをバラされてしまった太宰は愕然と目も口も丸くし、その横顔をチベスナ顔の安吾が視線で突き刺している。ブルータス、お前もか。

「いやぁ、たまにはふたりっきりで、秋声サンとお話したいんですわ。たぁっぷりと、ね」
「ふふ、そうかい。楽しみだなぁ。待ってるよ」

あっさり軽く快諾する徳田に(勿論その姿は織田には見えないが)織田は両手を上げて喜んだ。
きっと目の前にいたら抱きついていただろう、分かりやすい表現が愛らしくて爺は更に相好を崩す。
この爺、とてもチョロ甘いのである。
織田は普段、例えば安吾に対してこのように媚を売ることはしない。安吾で言うならば気安さや快活さの影にあるつれないドライさやシビアな思考を表に出すことに躊躇いのない信頼があると言えるのだが、逆に甘えたりとかそういうのを向けるのが苦手なのだ。
逆にそういうシビアさで嫌われないかと悩んだり、甘えを許し許されていると互いに無意識の内に理解し合っているのが徳田や三好と言った面子である。織田自身の観察眼から引き際を悟るのが上手く、後腐れのない関係を築くのが上手いが、相手を気遣い引いてしまうところはお節介焼きの徳田や三好が引き留めて、上手に甘やかすのでいい関係だと言える。
が。そこが安吾自身にとっては少し不満なのだ。
自分にだって甘えてほしい。キツイことを言ったりするのも確かに信頼からの甘えと言えるが、しかし、でろでろに甘やかしたいと願うことを誰が責められようか。
そして、織田にもまた言い分がある。例えば思春期に友人達の前で格好つけている姿を母に見られて弄られる中学生男子の気恥ずかしさを想像して頂ければ分かるだろうか。どちらも本人の本当に違いはないが、向ける顔はそれぞれに違うのでその相手向けの顔でないと調子が狂う。
だから織田には、もう少し安吾も構ってあげてねと言う他できないのだ。
徳田にラブコールを送る織田を哀愁漂う表情で見つめる安吾に幸あれ。









180204

独「あいつ…そのうち織田にペロッと食われても、俺は別段驚かない」
花「い、言うなよ…否定できないから…言わないでくれよ………」

言い訳は冒頭にある通りです。
遅れに遅れたけどハッピーバースデー徳田。
どうして可哀想になっちゃったの安吾。

腐ってない庶民派好きですが、勿論がっつり腐った庶民派も好きです。
徳田を抱く織田のスタンスですけど、徳田を尻で抱く織田もいける。精神性が受けの徳田ならなんでもいけるので多分過激派の方には殺されるやつですね。
いや、最初に読んでしまった同人誌の影響ですありがとうございますありがとうございます。

私が一番好きなCPはかわとくなんですけどね。神聖視しすぎてかけないやつです。溺れるくらいかわとくに浸りたい。かわとくの神様たちよろしくお願いします。

いいネタとか小ネタがたまればまたモニタリングしたい。



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