メンタルクラッシュ鬱ケイくん
死傷表現あり注意








ぼりぼり。気付けばその手が掻いている。腕を。首を。頬を。ぼりぼり。ぼりぼりぼりぼり。指先は赤く染まり、爪の間には黒ずんだなにかが挟まっている。ぼりぼり。嗚呼、またやってしまった。ぼりぼり。抉った肉片が詰まった指先を見ながら溜め息を吐く。ぼりぼり。痒い。原因もないのに痒い。いや、原因は。
赤い蚯蚓腫れを通り越した傷跡は思った以上に深く深くに抉れて、痛いと思う頭はある。思うだけの。本当に痛いかは分からない。見れば、痛い。痛い。だって傷だから。傷だから痛い。当たり前だ。でも、本当に痛いとは思ってもいない。確かに違和感はある。けれど。
最早この脳は、「永井圭」という人物──いや、化け物は、痛みというものを必要としていないのだと分かる。
生存本能が必要とする一定量(それにしても少ないだろう)を超えればただの違和感としてしか残らない痛み。
それの副作用というべきか、不意に痒くなる。皮膚を破り肉片を抉っても止められない衝動。ぼりぼり、ぼりぼり。今日もてのひらは真っ赤に染まる。

「あー…」

これは誤魔化せないなぁ。ズタボロになった両腕を見下ろしてケイは淡く笑った。
仕方がないよなぁ。慣れた手付きでそれを取ると目の前に翳す。銀色の鈍い輝き。手入れはしているけれどそろそろ切れ味は悪くなってきたから換え時か。
大振りのナイフ首に当てる。あの日と一緒だな、と思うと少しだけ気分が軽くなった。
ごめんね、カイ。仕方がないんだよ。
熱いのか、冷たいのか。判別の付かない感触。つぷり、刃先が。めり込む。切り込む。ぐつ、痛みは少し。押し込んで、引く。それだけ。それだけで血は大きく噴き出した。ぶしゃあ。
からんと手からこぼれたナイフ。急な失血に意識は暗くなり、悪寒がする。立ってもいられず座り込んだ。だらだらだらと血が流れる。あたたかい。あたたかかった。
自分の血溜まりの中に倒れる。
次の命は少しだけマシならいい、なんて。
そんな願いは叶わない。




もやがかった意識は一瞬でクリアになる。床に倒れていたケイは起き上がると両腕を見下ろした。よし、綺麗に直ってる。
首ももげていないし、大量の出血は再生時に大半を回収して補填されているので、幾ばくかのそれが床や服を汚すだけだった。汚れた服を着替えて、ほらいつも通り。問題ない。

「あーあ、訓練とか面倒臭い」

ドアノブに手をかけて自室代わりの部屋を出る。
出来れば死ねたらいいのだけれど。







160213

精神イッちゃって自殺大好きケイくん。
隙あらば死ぬ。