18.暑さで食欲が湧きません

※菊地原相手のただし歌川視点



午後から防衛任務、そしてそのまま訓練とランク戦に移るのでオレと菊地原は学校を早退して昼食をボーダーの食堂で済ませることにした。

「うわあ……よくそれだけ食べれるよね」

オレの皿を見て菊地原が言った。しかも信じられないと言う目で見てくる。
頼んだのは定食だし、いたって普通の量だと思うのだがどう考えても菊地原の量が少ないんじゃないのか。
午後から体力を使うのにサンドイッチ2切れだ。

「お前が少ないんじゃないのか?」
「暑いのに食欲ある方がおかしい」

元々菊地原自身そんなに食べる方でも無かったが夏バテ気味で悪化してるらしい。
とりあえずトレーを持ちながら席を探していると菊地原があ、と声を零した。
菊地原の向いている方を見るとオレたちの先輩であり同じ隊の仲間である連さんがそこでお昼を食べていた。
オレたちに気付いた連さんは軽く手を振り、ここ座りなよと言わんばかりに自分の前を指差した。
お言葉に甘えて俺たちは相席することにした。
心なしか菊地原が嬉しそうだ。理由は分かってる、こいつは連さんに片想い中だから。

「珍しいですね、連さんが食堂にいるの」

座って開口一番、菊地原がそう言った。
確かに知ってる限り連さんが食堂にいることは珍しい。大体お弁当で済ませているのをよく見ている。

「たまにはね。授業が休講になったから早めに来てお昼食べてたの」

なるほど、納得した。ボーダーの食堂は連さん曰くなかなかの美味しさらしい。
定食を頼んでいたらしいそのお盆の上は、半分食べ終わっている。
ここで連さんは菊地原の食事量が少ないことに気付いた。

「菊地原、それで足りるの?大丈夫?」
「これが普通なんじゃないんですか?」
「お前が少食なだけだろう」
「歌川は黙ってよ」
「こら、歌川だって心配してるんだから」

そう言いつつ連さんはとても心配そうな顔で菊地原を見ている。
家が食堂を経営しているから余計心配なのかもしれない。

「元々菊地原が少食なのは知ってるけど、さすがに心配になるよ。大丈夫?午後から防衛任務だし、その後訓練だし、おまけに今日のランク戦の相手太刀川隊だよ?いつもより余計体力が必要だと思う」
「そう言われても、暑さで余計食欲が出ないんですよ」
「そっか……」
「心配なら連さん、何か作ってくれればいいのに」
「おい」

一応牽制しようとしたけど、それを聞いて連さんは何か考え込む。
連さんは基本お人よしというか、面倒見がいい。陰で『ボーダーのお姉さん』という二つ名が付いているくらい。それくらい面倒見がいいし、その分後輩からの支持は絶大だ。連さんのことを嫌いな人は、少なくとも連さんにとっての後輩たちにはいないんじゃないか?
すると、ぽんと手を叩いて連さんが笑う。答えが出たみたいだ。

「それもそうだね。じゃあ今度何か作ろうか?何がいい?」
「トマトとピーマンと牡蠣が入ってないならいいです。あと煮魚もやだ」
「分かった、じゃあ張り切って腕を振るっちゃおうかな」

楽しそうに笑う連さんにつられて菊地原も楽しそうだ。
連さんがその次に一言付け足さなければ。

「隊のみんなに料理作るのも久しぶりだ」

何作ろっかなーと楽しげに笑う連さんと対照的に菊地原が苦々しげな顔になる。
そんな菊地原を見て連さんが首を傾げた。

「……あれ、菊地原?」
「隊のみんな?」
「うん、久々にみんなに作ろうかなって。歌歩ちゃんからも食べたいって言われてたし」

……多分、菊地原は2人きりで食べたいんだと思いますよ。
なんてオレが言うと「余計なこと言わないでよ歌川のくせに。そんなわけないし目立とうとしてそんな発言するわけ?」って菊地原から毒を吐かれそうなので黙っておく。
見ている限り、連さんは恋愛方面に関しては鈍い……というか年下が恋愛対象に入っていない。年下はひたすら可愛がる対象らしい。

「機嫌悪い?」
「気のせいです」

いやどう見ても今のお前から不機嫌オーラが出ているだろ。
そう言いたいが菊地原が何も言うなと視線で訴えているのでやめよう。
連さんはそうか……とあまり納得はいってないようだけど、そのうち昼食を食べ終わってごちそうさま、と手を合わせた。
菊地原は不機嫌な顔でもさもさとサンドイッチを食べているがペースが遅い。
本当に食欲が無いのが目に見えて分かる。本当に大丈夫だろうか。
連さんはそんな菊地原を見ながら、メニューを考えようとしているのか携帯をいじり始めた、その時。
ピロリンと音が鳴って、連さんがあ、と声を上げ立ち上がる。

「どうかしたんですか?」
「歌歩ちゃんから呼ばれた。ちょっと相談あるって」

じゃあまたオペレータールームで、と連さんがトレーを持って片付けようとして、何を思ったのか一旦トレーを置いた。

「今日も一日頑張ろうね!」

そう言って笑ってオレたちの頭を撫でる。
風間隊を結成してずっと、何かある度に連さんから頭を撫でられる。
褒める時も、鼓舞する時も、躊躇いなく。
恥ずかしい気持ちもあるけど嬉しい気持ちもあるし、片想い中の菊地原にとってはなおさら嬉しいのかもしれない。
実際菊地原はまんざらでもない顔をしていた。

「じゃあ後で」

そう言って連さんはオレたちを後にした。
連さんが見えなくなったところで、菊地原は撫でられた部分にそっと触れて不機嫌そうに呟いた。

「……なんであんなに鈍いの、あの人」
「……その、なんというか……」
「いいよ、歌川に答え求めてないし」

菊地原もなかなかひどいことを言う。
もう実力行使するしかないかな、とサンドイッチを貪りつつ菊地原はため息を吐く。

「でも、料理楽しみだな」
「それはそうだけど。……今度壁ドンしたり押し倒せばいいわけ?というかなんであんなに鈍いの、ほんとムカつく」

頑張れ菊地原、少なくともオレと風間さんと三上さんはお前の恋路を応援してるから。
せめていつか告白できる舞台でも用意できればいいな、なんて思っていると、

「げ、これトマト入ってる。細かく切ってるとか……あげる」

と、食べかけのサンドイッチを押し付けられた。……菊地原の自由気ままさにはもう慣れた。

「お前……」
「だってトマト嫌い。もういいやサンドイッチ1切れだけで」
「いいのか、体力もたなくてダメでした、なんて言ったら少なくとも風間さんは怒るぞ?」
「体力切れにならなきゃいいんでしょ。それよりぼくは連さんの鈍さどうにかしたい」

真顔で言い切る菊地原に、今日もため息が出るのだった。


傲慢王子はご機嫌斜め


「……連さん、菊地原くんのアプローチ躱したの?」
「ええ、それは見事に」

あの後オレから話を聞いた三上さんが、哀れみの目で菊地原を見た。
なお当の連さんは飲み物を買いに行っている。

「やめてくださいよ、その目」
「菊地原くんも災難ねー、でも連さんが料理作ってくれるのは楽しみかも」
「三上さんが余計なこと言わなければ……」

恨みがましい声で菊地原が言ったが、多分三上さんが言って無くても連さんは隊のみんなに振る舞うと思う、と言ったら睨まれそうなのでやめた。

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アニメのワートリに関してはきくっちーの首が飛ぶか否かが最大の問題だと思います。
飛んだら飛んだであの子緑のきらきら撒き散らしながらベイルアウトってことになるけど。
首が飛ばないきくっちーなんてただの猫目毒舌生意気あざと可愛い男子だ。

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