15.ちりちり。じりじり。いらいら。


※時間進んで花宮たちが3年の夏です



元々花宮たちは勝ち上がることを望んでいない。
あいつらは他人の青春を潰すのが大好きなゲス集団だ。だから勝つより、他人を潰すことを優先している。……所属している時点で私も同じ穴の貉だけど。
例外で誠凛だけは完璧に潰すと意気込んでたけど、そんな簡単にいかないわけで。
結論を言うと私たちの夏は終わった。一応冬まで引退しないから高校バスケが全部終わったわけじゃない。

でも3年生ってことで、私たちは夏期講習に出ていた。
最悪なことに教室のクーラーが壊れたらしい。じゃあ他の教室でいいじゃない、と思ったけどそちらはそちらで吹奏楽部が使っているから無理なんだそうだ。
正直クーラーの無い教室で勉強するのは地獄だ。扇風機が頑張ってるけどそれでも暑い。
もう汗ダラダラで気持ち悪い。正直帰ってさっさとシャワー浴びたい。
カーテンの隙間を縫って肌を焼いてくる日光には正直うんざりする。そもそも夏はそんなに好きじゃないし。
そしてこの夏期講習が長い。うちは進学校だからしょうがないけど。
……というわけでイライラしてたんだ。夏期講習が終わって、

「田中さん、お疲れ!」

って全力で優等生の皮を被ってる花宮の笑顔に対して思わず、

「あ゛?」

って返すくらいに。
うん、花宮の猫被りにイライラが頂点に達して、そう返してしまった。
驚いたのか花宮もすぐ素に戻った。

「……相当機嫌悪いな。血祭り中か?」
「違う。暑い、汗でベタベタする、さっさと帰ってシャワー浴びたい、なんで夏って暑いの、なんでジメジメしてるの」
「日本にいる時点で諦めろ」

思わず納得するくらいに簡潔な答えだった。
今日バスケ部はオフなので帰ろうとしたら腕を掴まれる。

「何、放して」
「暇だから勉強見てやるよ」

お前の家でいいよな?と花宮は聞いてくる。
確かに花宮は性格最悪でも頭脳は最高なので勉強を教えてくれるのはありがたい。
ただし、その歪んだ笑みを見る限り何か企んでるのは確かだ。

「何するつもり?」
「何も?ただ、それ相応の報酬はもらう」

つまり何かするって言ってるようなものじゃないですか。
それは身体で払えって意味ですかこの暑い中盛るな溶け死ね。

……という私の心の中の暴言は口に出てたらしい。
花宮がみるみるうちにファーストフード店の店員さんもびっくりな笑顔になっていく。
本性を知ってる身としては、もう寒気がするくらいで。
多分この笑顔を古橋たちが見たら即謝るレベルだろう。
弁解すると花宮が素直じゃないのでああいう誘い方するのは知ってた。今日はたまたま私の虫の居所が悪かったので心の中の暴言が出ちゃったというか、ああ、これ。

「ごめん暑くて相当イライラしてました」
「大丈夫、オレ全然気にしてないよ!本当に暑いからしょうがないよね」

さ、行こっか!と私の手を引く花宮を見て、死亡フラグという言葉が頭の中をぐるぐる回り始めた。



私の家に着いた瞬間、冷蔵庫に直行して買い置きのアイスを花宮に献上した。あと麦茶も。
こいつが猫被り笑顔の時は大抵ろくなこと考えてない。
とりあえず溶け死ねはまずかったかもしれない。これで機嫌直してくれればいいけど。
……花宮がうちに行きたいと言った時点でやりたいことは大体想像つく。
こういう時花宮を怒らせると非常にまずい、主に私の身体が。

「イライラしていたとはいえ溶け死ねって言って本当にすいませんでした」
「別に?気にしてねえけど?」

アイスを食べながら至って笑顔で答えてくれたけど猫被り笑顔完備ってことは気にしてるよね?

「去年の夏もそんな感じだったし、お前が夏が嫌いなことくらい知ってるし、別に今更どうってことねえよ。……ムカつくけど」
「ムカついてんじゃん」

去年か。去年も暑くて確かにイライラしてて、そうそう、同じように花宮へ心の暴言がうっかり出てあの時は花宮の部屋に連れ込まれて、確か……。
……確か、その後。

「懲りてないようだし、また暴言吐けなくなるまで鳴かせてやろうか?」
「お断りします、暑い中盛んないでよ発情期?」
「ふはっ、発情させるお前が悪い」
「はあ?理性総動員して耐えなよ」

迫ってくる花宮を必死に押し返す。

「普通に勉強教えてよ!」
「前払いくらいいいだろ」
「どうせ疲れ切って勉強する気力すらなくなる!」

どうせ足腰立たなくなるまでするくせに!
最近ご無沙汰だったから余計ねちっこくするだろうなこの野郎。
押し返そうにももともと力の差があるからだんだん花宮に押し倒されそうになる。
いちかばちかで足を動かした。

「っ!?」

途端花宮が悶絶する。運よく股間にヒットしたらしい、よかった。
ほっと一息つくと、直後身体が揺れて目に映るのは天井。
直後に覆いかぶさるように花宮のニタニタした笑顔。

「……んなワケねぇだろバァカ」
「こんの、んんっ!」

呼吸を奪われるように口付られる。
こうなったらもう花宮に大人しく従う……前に。
軽くあいつの舌を噛むと察してくれたようで口を離した。

「なんだよ」
「せめてシャワー浴びさせて。ベタベタして気持ち悪い」
「どうせ浴びたって汗かくから変わらねえだろ?」

そう笑って耳を甘噛みしてきた。
ぞわり、と肌が粟立つ。

「どろっどろになるまで甘やかしてやるよ、なあ?」

耳元で囁かれた声にぞくぞくしつつ返す。

「……甘えたいならそう言えばいいのに」
「お前ほんと可愛くねえな」

少なくとも2年の付き合いだ、多少は花宮がどういう人間かも分かってる。
外面は優等生、中身はゲスそのもの。
甘えるのが下手で愛情表現も下手で、独占欲の強い悪童。
なーんでこんな奴にほだされちゃったんだか。

「その可愛くない女を彼女にしたのは誰だっけ?」

口の端を歪めて花宮にキスをした。



溶けてなくなれ



その後、結局勉強できるほどの体力と気力は残ってないわけで。
恨みがましく花宮を睨んだらお前も乗り気だったろ、と返された。

「……まあ、今度はきちんと見てやるよ」
「……なら最初からちゃんと見てよオ○マロ」
「今何て言った?」
「お願いします花宮先生!」

花宮に負けるとはいえ営業スマイル全開で言ったら舌打ちされた。

「……もっと徹底的にやればよかった」

って聞こえたけど多分空耳。

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花宮と付き合う際に一番必要なのは舌戦スキルだと思ってます。
あとオタ○ロって本当に花宮そっくりだよね。

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