覚悟と始まり
何もこんな場面に出くわすことなかったと思う。
大地さんと旭さんと一緒に壁にもたれかかり、終わらない会話を、1人の男の覚悟を耳にする。
スガさんなら、そうするってわかっていたのに、やっぱりそれを直接聞くのとわかってるのは全然違った。
目の前がぼやけてくる。
「気合いれんぞ」
「おう」
頼もしい仲間がいて、可愛い後輩が入ってきて。
やっと動き出した烏野バレー部。
みんなが楽しんでた中、スガさんは影山との才能の違い、自分のプライドと戦ってきてた。
そして、スガさんは自分のプライドよりチームを選んだ。
その事実を受け止めるのは辛かったが、私たちは立ち止まることは出来ない。
私もぼやけた視界をぐいっと手で拭き取り、まっすぐとスガさんを見据える。
泣いてる場合じゃない。
私に出来る最大限の仕事をする、私もそう覚悟を決め、早速いろいろ取り掛かろうと部屋へ向おうと振り向く。
「田中」
背中に大地さんの声が掛かる。
私は再度大地さんの方を向くと、大地さんはふっと息を吐いて、申し訳なさそうに笑った。
「田中、スガのこと頼んでもいいか?」
「…私でいいんでしょうか?」
「俺らだと、あいつ本心話してくれないからさ」
そう言って大地さんは寂しそうに笑うと頼んだぞ、と私の肩を叩き部屋や食堂の方に歩いていった。
「スガはさ、優しいから。俺らに余計な心配かけさせちゃいけないと思ってんだよ…多分。だからさ、選手じゃない田中にならってことだと思うよ」
大地、少し言葉が足りないよねと残っていた旭さんが笑う。
ぽんと大地さんと同じように、私の肩を叩くとよろしくねと言い旭さんも大地さんの後を追った。
***
「スガさん」
「はーい?」
にこやかにスガさんが振り向いた。
その顔はどこかスッキリしたような顔をしていて、今更になってスガさんは色々なことを抱えてたんだなと思い知らされた。
"あの試合"から、些細な事でも見逃したくなかったのに。
自分の力不足に嫌気が指す。
「田中?」
目の前でひらひらと手を振られたのが合図のように、堪えていた涙が流れた。
一度流れ始めた涙は、止まることを知らず、次々溢れてくる。
そんな私を見たスガさんは一瞬ぎょっとしたかと思うと、私の手首を掴みこっち、と引っ張った。
連れて来られたのは、いつもの体育館だった。
「どうしたの?」
「っ…す、みません…烏飼さんとの話、聞いちゃいました」
「あー……そっかぁ」
ごめんね、とスガさんは少し切なそうに笑う。
「私こそごめんなさい。泣かないって決めてたのに」
「そうだよ、俺なんかのために、泣くことないんだよ」
それを聞いてぷつん、と何かが切れる音がした。
「…っ!そうやって!1人で背負わないでください!」
私はつい声を荒げてしまう。
あっと思ったときには遅く、もうどうとでもなれと私は言葉を続ける。
「大地さんも、旭さんも!頼っていいんですよ。みんな寂しがってますよ…私たちはそんなに頼りないですか…?」
「そんなこと!」
「じゃあなんで!」
私はそこで区切ると、今度はスガさんが口を開く。
「俺だって!みんなと試合したいよ!バレーしたいよ!一分一秒長く一緒にいたい…!でも、今の俺じゃ日向を活かしきれないから…!」
でも、とスガさんの言葉は続く。
「出るよ、大丈夫。俺は絶対試合に出る。意外に諦め悪いんだ」
にししと泣きそうな顔で笑ったスガさんは、私の頭をがしがしっと撫でてありがとうと呟く。
そして、ぎゅと抱きしめられた。
思わず、目から涙が溢れる。
「私はスガさんをちゃんと、ずっと、見てますから…っ!」
頼ってくださいと言おうとしたが、涙で上手く言葉が出てこない。
「……田中、それって告白?」
「!?」
パッと顔を上げるとスガさんの頬が濡れてる。
その顔が愛おしく思える。
「あ、ごめん!都合良く考えすぎた!気にしないで!」
じゃー大地とか心配してるだろうし、行きますかーと立ち上がったスガさんのジャージの裾を掴む。
真っ赤になった耳が視界に入った。
覚悟と始まり
(スガさん、あの、ですね…!)
(個人指定課題:推しキャラ交換→菅原、研磨、フラン、スクアーロ)