Love is a smoke made with the fume of sighs.


『ねえ、ねえ、仁王』
「なんじゃ」
『デートしたい!遊園地行きたい!』

そんな提案をしたのはもう一か月も前のことだった。仁王の部活が忙しくなかなか休みが取れなかったが、日曜日の今日は一日オフということで仁王と二人、遊園地へやってきた。昨日の夕方、仁王から「明日は一日休みじゃ」と連絡がきて、意外にも仁王の方から遊園地デートへ誘ってくれた。いつも人の話を聞いているのか、いないのかわからない仁王が私を遊園地へデートに行きたいと話したことを覚えてくれていたことがうれしかった。

『仁王!早く、早く!』
「そんなに焦らんでも遊園地は逃げんぜよ」

仁王に笑われながらもチケットを購入して園内へと足を踏み入れたところでマップを開いた。

『何から乗ろうか…メリーゴーランド?』
「却下」
『えー』
「おまんさんはワシをなんだと思っとるんじゃ」

仁王が白馬に乗ったらかっこいいと思うのに…

『じゃあ普通にジェットコースター乗ろう!』

日曜日ということで園内は子ども連れの親子から、私たちのようなカップルまで様々な人であふれかえっていた。小さな子どもが乗れないにも関わらずジェットコースターの前には長い列ができていた。

『結構待ってるね』
「日曜じゃから人が多いには仕方ないぜよ」

長い列の最後に並びながら、改めて人の多さに驚かされる。いつも部活で疲れている仁王にとってはたまの休みだったのに、いつも以上に疲れさせてしまいそうでなんだか申し訳なかったな…。

『ごめんね、仁王。せっかく部活休みなのに…こんなに人が多いと疲れちゃうよね』
「いや、気にせんでええよ。それに後でゆっくり癒してもらうからいいナリ」
『癒すの?誰が誰を?』
「連が俺を」

仁王がニヤリと笑う時は何かよからぬことを企んでいる証拠だとわかっていたけど、楽しんでくれているみたいだからまあいいかと思ってしまった私はほんとにバカだったと後に気付くのだ。
ジェットコースターが終わり次にどこに行こうかとマップを開くと「お化け屋敷がいいナリ」と言って仁王は私の答えをきくより先に歩き出してしまった。人が多くてもしっかりと手をつないで、仁王に引っ張られているためはぐれることはないけれど、お化け屋敷はちょっと…。

『に、仁王?ほんとにお化け屋敷行くの?』
「何じゃ、怖いんか?」
『だ、誰だって怖いよ!』

仁王は楽しそうな、意地悪そうな笑みを浮かべながら私の手をがっちりとつかんでお化け屋敷の入口まで引っ張っていった。お化け屋敷はほとんど人がいなくて、すぐに私たちの番がきてしまった。スタッフから懐中電灯を受け取り、一歩中へ入るとすぐに扉が閉められ真っ暗になってしまったため、慌てて懐中電灯の電源をオンにした。懐中電灯を右手に、左手は仁王の腕をぎゅっとつかんだ。

「そんなに怖がらんでも、みんなただの人間じゃろ」
『それをわかってても怖いんだよ…』

私は泣きそうになりながらも仁王に腕をさらに力強く握った。仁王は笑いながら私の手を自分の腕から離し、そのあいた腕で私の腰に手をまわした。
私の腰を支えながら歩く仁王は楽しそうにお化けに懐中電灯を当てて「おー」とか「わー」とかわざとらしく言っている。そんな仁王の隣で、私はひっきりなしに悲鳴をあげてはお化け役のスタッフさんを喜ばせた。
やっとの思いで外に出られたときには私はもうくたくただった。一方の仁王は満足そうな笑みを浮かべていた。

『つ、疲れた…』
「おまんさんはほんま怖がりじゃのう」
『誰だって怖いよ…次はなに乗る?』
早くお化け屋敷の雰囲気を消し去りたくて、マップを出して次の場所を探そうとすると仁王が「次はあれナリ」と言って観覧車を指さした。

『観覧車か…いいね!お化け屋敷で疲れたからゆっくり景色でも見て落ち着きたい』

観覧車の下まで行くとまだ時間が早いからかそこまで待っている人はいなかった。すんなりと列は進み、あっという間に乗れてしまった。

「こちらの観覧車は一周、二十分となっております。いってらっしゃい」

とスタッフの方に見送られ、観覧車に乗り込んだ。
私が席に腰を下ろすと、向かい側に座ると思っていた仁王が私の隣に腰を下ろした。

『仁王?』
「なんじゃ」
『いや、向かいに座らないのかなーと思って』

すぐ隣に仁王の吐息を感じて少しドキドキしてしまう。観覧車の中、小さな空間に二人だけ、密室。こんな状況で何も思わない方が不思議だ。

「連に癒してもらおうと思って」

そう言って仁王は私の肩に首を預け、わざわざ私の耳元により「キスして」と言ってきた。
耳にふぅ、と息を吹きかけられ思わず肩が弾んだ。

『キ、キス!?』
「そう、今ここで」
『こ、こんなところで…』
「大丈夫じゃろ。誰も見とらんし」

お願い、連。なんて、優しい声で囁かれたら断れるはずもない。今日一日、遊園地にも付き合ってくれたわけだし…
そうして私は一つため息を吐いて、彼の唇に自分のそれを静かに重ねるのだった。



Love is a smoke made with the fume of sighs.
(愛とは、ため息でできた煙だ。)


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タイトルはシェイクスピアからとりました。



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