放課後のティータイムにお砂糖を

チャイムが鳴り、教師の鬱陶しい話も終わり、日直の号令がかかる。
この学校に入ってから癖になりつつある溜め息を1つつくと俺はラケットバッグを背負い、教室を後にした。
向かう場所は、やかましい声で溢れている部室だ。これからの面倒を思うと溜め息の1つも出るだろう。
……まぁ、嫌いではないんやけどな。
案の定、部室の中からは笑い声と騒がしい声が聞こえてくる。
深呼吸をするとドアノブを握った。未だにこの扉を開けるのは緊張してしまう。

「ちわ」
「おー財前やんか!」

大体ドアを開けると迎えてくれるのは謙也さんだ。
犬のように、ぴょこぴょこと寄ってくる。
それを盛大にスルーして自分のロッカーに行くのが俺の日課。
毎回後ろで「おいいいい!」と謙也さんが騒ぐがこれもいつものことで、よく毎回毎回反応できるなと関心を通り越して呆れてしまう。
ロッカーを開けると、ユニフォームを取り出し、制服のボタンを外した。

「光ちゃんの生着替え…ロックオン
「こ、小春!!浮気か!!死なすど…っ!」

後ろの外野は気にしたら負けや、と自分に言い聞かせ着替えているといつの間にか隣のロッカーに戻ってきていた謙也さんが何か呟いた。
ラブルスの喧嘩のせいで何も聞こえなかったが、聞こえていてもスルーなのでなんでもええかとシカトしてロッカーを閉める。

「お前な…スルーしすぎやで…」

謙也さんがこちらを向き、苦笑する。

「あぁ、さいですか。すんません」

口だけで謝罪をすると、謙也さんは「…うう、財前が反抗期やー」と泣き真似をする。
誰が反抗期やねん。
これ以上面倒なことに巻き込まれるのも、ラブルスの喧嘩に巻き込まれるのも面倒だったので、

「…で、なんですか?」

と反応しないといつまでも泣き真似してそうな面倒な先輩に話かけた。
その先輩は顔をあげるところっと表情を変え、真顔になる。

「最近、どうなん?」
「は?」

謙也さんはその辺にあるパイプ椅子にどっこいしょとじじ臭く腰をかけると、にやにやした顔をこちらに向けた。
一瞬、真剣な顔になったので、さぞかし真面目な話が出てくるかと思ったらどうなんって…ほんまアホちゃうか。
期待した俺がアホやった。

「謙也さん、キモいっすわ」

はぁと溜め息をつき、謙也さんからふいと目を逸らし、窓の外にそれを向けた。若干西に傾きだした日が差し込んで、少し眩しい。
眩しいが、きらきらと光るそれは綺麗だとか感じるんは、綺麗なものを綺麗だと感じる単純で感動屋のあいつの感性が移ったんやろか。

「なーなー、財前くん?」

それをじっと見つめていたようで、しつこい金髪の道路交通法違反がそれを遮ってきた。
人がせっかく感動を覚えてるんに、それを邪魔するんどうなん。

「…ほんましつこいっすわ。何なんですか」
「やって、気になるやん!なー?」

謙也さんは俺の後ろに目線を送ると同意を求めた。

「まー、気になるっちゃー気になるで」

後ろから声が返ってくる。
振り向くと、まさに着替え終わった部長が俺の隣に立つと、まぁまぁと近くにあった椅子を勧めてきた。
……恋バナ大好き女子中学生か。
俺はもう一度溜め息をつくと、勧められた椅子に腰かけた。

「待ってました!」

謙也さんは無邪気に笑い、椅子ごと俺の方に向けてくる。
急に近づいた謙也さんに動揺しながらも少し目線を逸らし、ドアの方に向けた。
いつもならこんなんスルーして練習に入るんに、俺何しとんねんな。
そう思いながらも心の隅で少し楽しんでいる自分がいることに気付き、ほんま性格悪いなと思う。

「聞いても後悔せぇへんでくださいよ」
「するわけないやろ!」

俺の横で小さくあっと部長が声を上げたが、謙也さんの声にそれは掻き消された。
走り出したスピードスターはもう止まることなんかせぇへんで、部長。

「何聞きたいんです?」
「王道なとこからやな。馴れ初めとかどうだったん。いつの間にかくっついてたやん、お前ら」
「あいつからの告白ですわ」

間髪を入れず答えたのがうれしかったのか謙也さんの顔が緩む。
そかー向こうからやったんやなと頷きながら聞いてる謙也さんが面白くて、あとで見て自分で後悔してほしかったので、写真を撮ろうと携帯を出した。
シャッターを切ろうとタップしかけたその時に

「なー、財前。二人は仲良しやけど、ちゅーしたん?」
「うっわああああ!金ちゃん驚かせんといて!!」

遅れて入ってきた金ちゃんが謙也さんの脇からにゅっと頭をだし、爆弾を落としていく。
金ちゃんの登場と発言の威力にやられた謙也さんはうっさいほどの声で反応する。
俺は事務処理でもするように、淡々と答えていった。
心の中で大爆笑やったけどな。

「おーしたで、仲ええやろ?」
「ええなぁ、わいもねえちゃんとちゅーしたいわー。なーねえちゃん」
「え」

謙也さんがおそるおそる振り向く。
金ちゃんに呼びかけられたことで、やっと硬直状態から解放されたのか連はぎょっとし、持っていた写真の束を盛大に床に落とした。

「なにしとるん、アホ」
「な、な、なにはっ!こっちの!台詞!!!」

顔を真っ赤にし、連は俺に喰ってかかった。
そんな顔で言われても全然怖くあらへんで。

「謙也さんが聞きたいって言うたから」
「は!?」

事実をそのまま伝えると謙也さんは盛大に焦り始めた。
そのままあわあわとし、それはやな、あの…と連に話しかける。

「忍足先輩が言ったからとして答えるのはどうなの!?」
「…おもろい反応見れる思って」

俺は、そう言うと口角を上げた。
上げたというか勝手に上がった。
謙也さんは気づいてへんかったが、俺のところからはばっちり連が金ちゃんと一緒に入ってくるところが見えていた。
それに気づいて、部長も声を上げたが謙也さんは何も気にせずそのまま、本人の目の前で恋バナを繰り広げることになってしまっていたのだ。

「こんの…!財前のイケメン!最強!天才!わああん、欠点がないよー!!」
「…連、そんな褒めても何も出てこんで」
「アホー!!!!」



放課後のティータイムにお砂糖を
(べったべたに甘すぎっちゅー話や!)




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