Baciami!

久々に屋敷に戻ってきたのにそこにいたのはメイドたちだけだった。
彼女たちは屋敷の掃除をしながら口々に「おかえりなさい」と出迎えてくれた。

『ただいま。……あれ、ボスたちは?』
「まだジャッポーネに行ってらっしゃいます。今晩お戻りになられるはずですよ」
『そっか。日本に……』
「連さんもお疲れでしょう? バスタブにお湯をたっぷり溜めて入られてはいかがです?」
『ええ、そうします』

私がここに来る前からメイドとして勤めている彼女は母のような朗らかな笑みを浮かべている。
私は彼女の言葉に甘えて、小さなキャリーケースを引きながら自室へ向かった。
夕食の準備が出来たら今日は特別に部屋まで運んでくれるらしく、私は部屋に入るなり備え付けのバスタブの栓を閉め蛇口を捻った後、お湯が溜まるまでの間だけ、と決めてベッドに飛び込んだ。


◇◇◇


入浴を済ませネグリジェに身を包んだ私は、慣れ親しんだベッドに潜ると糸が切れたように意識が飛んで行くのを感じた。
しばらく仕事が忙しかったせいか疲労がどっと押し寄せてきたようだ。


夢心地にふんわりとした優しい匂いが鼻を掠めた。
きつすぎない香水の匂いが心地よい。

『ん……?』

寝返りを打とうとしたがどうも身体が動かない。
目を開いても視界は真っ暗で、何かに頭を抱きかかえられているようだ。


『……ディーノ』

状況はまだ把握していないがとりあえず彼の名前を呼んだ。
すると後頭部にあった手の感覚は消え、その手が私の頬を撫で始めた。

『ねえ、こういうのを日本語で何て言うか知ってる? 夜這いって言うのよ』
「……天使と添い寝してただけだ」
『なにそれ。イタリア人みたいな言い方』
「オレ、イタリア人だぜ?」
『そうでした』


いつの間にか私のベッドに潜りこんでいた彼は一向に私から離れようとしなかった。
私は寝たい。きっと彼も日本への長旅で疲れているはずだ。さっさと自室に戻って頂いて各々休養に充てるべきだろう。

『いつまでいるの、あなた。寝たいんだけど』
「久々に会ったアモーレにそんな言い草無いだろ? それともオレより睡眠を取るのか?」

確かに久々に会えたのは嬉しい、だけども今はとても眠い。時計を見てほしい、何時だと思っているんだ彼は……。
その意思を伝えようと、ディーノが横たわっている方とは逆方向に体の向きを変えようとすると、

「オレの優先順位、低すぎないか?」

と、両腕で身体を拘束された上で耳元で囁かれた。

「連と会えなくてすっげー寂しかったんだぜ?」
『そんなこと言って、日本で愛人の一人や二人作ってきたんじゃないの?』

そう言うと、彼は「そんなわけねーだろ!」と声を荒げて私の髪を掻き回した。
あんまりいじめすぎると彼はいじけてしまうのでここらへんで切り上げておかなければ、と思い腕を伸ばして私の頭上にある彼の手を掴み、握った。

『おかえり、ディーノ』
「ん。ただいま」

彼は満足そうに笑っていた。
その後、親愛のキスを交わしたが彼は私の頬に落とした唇をそのまま下へと滑らせた。
首筋に電流のような痛みが走り、それが断続的に起こる。

『痛っ……あ、こら。痕付けてるでしょ!?』

首筋に顔を埋めているディーノを離そうと両手で押してみてもびくともせず、反対に手首を掴まれてベッドに押さえつけられてしまった。
彼は器用に身体を動かして私に馬乗りになる。

『ディーノっ、ん……』

唇が塞がれる。
何度も何度も位置を変えながら貪るように彼は私にキスをした。
いつの間にか舌が入ってきて、口膣を犯される。

『はっ……あ、んぁ……』

ディーノは私の手首を離し、今度は私の両耳にあてた。
いやらしい音が脳に反響する。
酸素が足りなくて必死に空気を取り込もうとしても、彼の唇に塞がれる。
やがて頭がぼんやりしてきて体中の力が抜けた。

「やっぱ……かわいいな」

彼は私の目尻に溜まった涙を舌で舐めとって、頬に触れるだけのキスをした。
未だに私は肩で呼吸をしているというのに、ディーノは数秒で息を整え、私の頭を撫でている。

『いきなり、盛らないで、よ……ばか』
「わりーわりー」

そう言いながら彼は私の足首まであるネグリジェを捲り上げ、太腿を撫で始めた。
視線を移すと、床では掛け布団が絨毯と仲良くしている。
私は身体を捻って「眠い」「寝たい」「帰れ」を連呼して抵抗を見せたものの、彼の手は私の脚を這うばかりで止まらない。

そして、ついに触れた。


「連、もしかしてキスだけで濡れた?」



Baciami!

(……へなちょこディーノ、そっちのほうもへなちょこかどうか確かめてあげるわ)


***
2014/09/28

【指定】
山本・銀魂以外、恋人、ちょっとだけエロ、no暴力、
「俺の優先順位が低すぎないか」(TOYさん/お前への不満×20)


イタリアでは恋人同士は名前で呼び合わないらしい。(イタリアでは名前で呼び合うことが通常なので)
だから「ダーリン」という意味でディーノには「アモーレ」と言わせました。

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