8.アイスを舐めるすがたに×××
『ダンテ!!あーつーいー』
「わかったから少し黙ってろ!」
先ほどから革張りのソファーの冷たい所を求め、ゴロゴロと転がっている連。
連はダンテの兄妹でなければダンテの実の子どもでもない。
ダンテが拾ってきた子どもだ。
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ダンテの事務所であるDevil May Cryがあるスラム街ではストリートチルドレンは珍しくない。親に捨てられ、行く当てもなく街をさまよっている子どもが多く、死に至る子どもも多く存在する。
ダンテも長くここに住んでいるからそれは仕方がないことだと理解しているし、特にストリートチルドレンに目を向けることもなかった。
では何故連を拾ったのか。
連を拾ったのはある冬の日だった。いつ雪が降ってもおかしくないくらいの気候で、依頼を終えたダンテは早く家へ帰ろうと心なしか早い足取りでスラム街を通り過ぎていた。ようやく事務所の、ピンクのネオンに輝いているDevil May Cryという看板が目に入り、「あー、やっと着いた…」と思っていると事務所の扉の前に誰かが座っていることに気が付いた。
それが連だった。
この寒い中薄いワンピース一枚で、靴も履いていない。おそらくここ数日何も食べていないのだろう、見るからにやせ細っていて今にも倒れそうだった。
何故声を掛けたのかはダンテ自身にもわからなかった。ただ事務所の前で死なれるのはと思ったからか、あるいは親の愛に飢えたその瞳が子どものころの自分と重なって見えたからか。
「…寒いだろ。中入るか?」
事務所の扉を開けて問いかければ、コクリと頷いて後ろからついてきた。
ダンテはとりあえず連をソファーに座らせて毛布を肩からかけてやった。それからキッチンへ行きホットミルクを作って持っていく。
「ほら。熱いから気を付けて飲めよ」
カップを差し出すと小さな手でしっかりと受け取り「ありがとう」と小声でつぶやいた。
「名前はなんて言うんだ。…親はいないのか?」
『名前…ない…ママ…いない…』
今にも泣きだしそうな弱々しい声で答えた連にダンテは優しく頭を撫でてやり、
「よし!今日からお前の名前は連だ。お前が嫌になるまでここに居ればいい」
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それから半年が経ち、季節は冬から夏へと変わっていた。初めこそほとんどしゃべらなかった連だが、今ではダンテに心を開いて毎日楽しく過ごしている。
『ダンテ!暑い!アイス食べたい!!』
「はぁー。今持って来てやるから待ってろ」
『はーい』
なんだかんだ言ってダンテは連に甘いのだ。
親のいない連のために父親のように接していこうと決めてはいたが、最近は父親というより彼氏に近づいてきている気がする。
まだまだ幼い連には“like”と“love”の違いは到底分かるまい。けれども、愛されていると実感できる今は連にとって本当に幸せな時間なのだ。
「ほら」
『ありがとう。あっ、イチゴ味だー!』
ソファーに転がったまま、棒アイスをダンテから受け取り一口口に含み『うーん!冷たい!』と言っている連の色気なんてゼロに等しい。しかし、おいしそうにアイスを舐めている名前から視線をそらすことができず、じっと口元を見つめてしまう。
(こんな子どもに欲情するなんて…俺はそこまで変態だったか…?)
ダンテが頭を抱え自問自答していることなんて気づくよしもない連は『ダンテもアイス食べるー?』と笑顔で自分が食べていたアイスをこちらに差し出してきた。
「俺は…いや、食べる」
アイスを差し出している連の手を掴んで、そのままアイスを口に含むと思いきやアイスには目もくれず、今までアイスを食べていた連の唇に軽く口づけた。
「甘い…が、悪くない」