無知な彼女との日常の一コマ


時々、無知な彼女をめちゃくちゃに穢したいと思う。

彼女と付き合って一年が経とうとしている。純粋な彼女は良くも悪くも無知だ。
何も知らない彼女を守りたい一方で、自分色に染めたいとも思う。
僕が誰かにこんなに執着する日が来るなんてね…

「連ちゃん、怖いならもうやめる?」
『こ、こわいですけど…途中でやめたら続きが気になって余計に怖いです!』

そう言って僕の腕にぎゅーっと抱き付いてくる彼女をどうしたらいいのだろう。
夏休みの部活がオフな今日、連ちゃんと二人、僕の家でゆっくり二人の時間を楽しんでいた。本当は外にデートに行こうかとも考えたけれど、連ちゃんが先輩は毎日部活で疲れているだろうから、と言ってくれたので家で過ごすことになった。
家で何をしようかと考えていたら連ちゃんがDVDを持ってきてくれた。なんでも友達に僕と観るようにオススメされたらしい。
DVDのパッケージからしてなんとなく嫌な予感はしていたけど…

『ひっ…』

さっきから短い悲鳴をあげては僕の腕に抱き付いてくる連ちゃんを横目に、僕は再びテレビの画面に目を向けた。
そこには今しがた銃で撃たれたばかりの男が立ち上がりこちらに向かってくるシーンが映し出されていた。いわゆるホラー映画だ。

『先輩は怖くないんですか…?』
「そうだね。むしろ僕は好きな方かな」
『す、すごいですね…』

怖いなら止めたらと何度も彼女に言ってみたが彼女いわく途中で止めると続きが気になって余計に怖いらしい。
それにしても…
さっきから怖い怖いと言いながら僕の腕にぎゅーと抱き付いてくる彼女は本当にかわいいけど…彼女は無自覚にやっているんだろう。うん…本当にどうしようか。
今日の彼女の格好は白いワンピース一枚。抱き付かれている腕の方にちらりと視線をやれば、彼女との身長差から必然的に彼女を見下ろす形になってしまう。白いワンピースの胸元からちらりとかわいらしい下着が見えている。ハァーと心の中でため息を吐いた。正直、映画どころではない。

「連ちゃん…」
『何ですか?』

突然声を掛けた僕を不思議そうに見上げてくる。かわいい。

「連ちゃん、言いにくいんだけど…さっきから下着が見えてるよ」
『えっ!?』

と驚いた声を出した連ちゃんは自分の胸元へと目線を下げて

『ご、ごめんなさい!!は、はずかしい…』

顔を真っ赤にしてワンピースの胸元を引っ張りながらそう言う連ちゃんがかわいすぎてどうにかなりそうだ。真っ赤な顔のまま、おそるおそる僕の顔を覗き込んでくる。

『不二先輩?』
「連ちゃんはいつもちょっと無防備すぎるよね」

そう笑顔で囁けば連ちゃんは目をパチパチさせて僕の言ったことがどういう意味かわかっていない様子。

「ああ、だから言ったのに」

そう言って僕は連ちゃんをベッドに押し倒した。

「男の家に無防備に来たんだからこれくらいは許されるよね?」

ベッドに転がった(正確には転がした)連ちゃんを見下ろしてそう耳元で囁いた。

『えっとー…先輩?眠たいんですか…?』
「……」
『不二先…輩…?』
「いや、うん。そうだよね。君が良くも悪くも無知だってことを忘れてたよ…」

はぁー、と盛大にため息を吐いて連ちゃんの上から退きベッドの縁に腰掛けた。

『先輩?寝ないんですか?』
「連ちゃんは寝たいの?」
『うーん…はい!先輩と一緒に寝たいです』

さっきまでホラー映画を観て怖い怖いと言って腕にしがみついて泣きそうな顔をしていたのはどこの誰だっただろうか…
一緒に寝ましょうとキラキラした瞳で見てくる彼女をどうして断ることができるか。

「そうだね…一緒にお昼寝しようか」
『はい!』

僕は連ちゃんと一緒にベッドに横になり一枚しかないタオルケットを連ちゃんよりに二人の体にかけた。

『おやすみなさい、先輩』
「おやすみ、連ちゃん」

幸せそうな顔をして眠りに落ちていく彼女に自分はどこまで我慢できるだろうか。
すべての原因となった映画はエンドロールを終えて最初の選択画面に戻っていた。ベッドの上にあるテレビのリモコンに手を伸ばして電源をオフにした。
無知で純粋な彼女はかわいいけど、それはときどき僕を苦しめる。

(起きたらキスの一つでもしようかな。それくらいは許してもらわないとね)

そう心に決めて僕も眠りについた。
しっかりと彼女を抱きしめて。



無知な彼女との日常の一コマ
(彼女を僕色に染められる日はいつになったらくることか)


戻る