嫌いじゃないって言ってるんだけど。何度も言わせないでくれる?

誰かによって点けられたテレビが、朝からテンション高く様々な情報を視聴者に伝えていた。
私はそれを横目で見ながら、朝ごはんを食べていると、番組はどんどん進んでいき、1日に2回やる占いのコーナーに移っていく。
どこの番組でもやってて結果がバラバラなのは知っていたし、別にたいして信じてないけど、朝の暇つぶしにはもってこいだった。
占い方法はありきたりの12星座占い。
ただ他の番組との相違点はラッキーアイテムがラッキーフラワーとなってる点。
なかなかこれが面白く、ラッキーフラワーが胡蝶蘭とか出た日には朝から大笑いしてしまった。
だってどう考えたって胡蝶蘭なんて持ち歩けないし、胡蝶蘭のグッズなんて少ない。
あの占いを信じてる人は胡蝶蘭を持っていくのかと思うと面白くて仕方がなくて、登校下校中に胡蝶蘭持ち歩いてる人はいないか探したが、もちろん持ってる人なんかいなくて少し残念だった。

『さぁ、今日も元気に占いコーナーいってみよう!』

いつも通り甘ったるい声の番組のキャラクターが、占い結果を読み上げていく。
次は私の星座だという時には、ご飯も食べ終わり、顔をテレビの方に向け少しだけ画面を見た。

『全体は5位。でも運気は上昇中!何かいいことがあるかもしれない!今日のラッキーフラワーは、ピンクのガーベラ!これを部屋に置くか身につけることで恋愛運がぐぐんっとUPしちゃうよ!』
「うっそだー」

所謂こういう占いの恋愛運は当たった試しがない。
1人で寂しくテレビにツッコミを入れると、食器を持ちキッチンに持っていくとテレビの前に戻り、明るい画面を消す。
そして私はいそいそと学校に遅れないように、制服に着替え始めた。
その私の手にはピンクのガーベラのヘアゴムが握られていた。


◇◇◇


「ねぇ田中、ちょっといい?」

何が起きているのだろう。
『あ!月島があらわれた』的な某ゲームのような感じで突如月島くんが目の前に現れた。
同じクラスではあったものの、話すことはほぼなく(そもそも月島くんも授業終わるとすぐヘッドフォンをして話しかけにくかったのもある)、山口くんを介してなら少ししゃべったこともあるが、それより目線で追うだけの日々の方が圧倒的に多かった私にとってこれはとても驚くべき事態だった。

「え、いいえ、あ、はい!!」
「…どっちなの」

突然のことに声が上ずるし、どもってしまう。
私の名字知ってたんだなとかどうでもいいことを考えてしまっていて、パニックになってるのがよくわかった。
そんな私を見て、月島くんはぷっと噴き出す。
あ、笑顔貴重だなとか思いつつも顔に熱が集まっていく。

「大丈夫でございまする!」
「あっそ、あのさ、今日空いてる?」
「えっと、空いてます、けど…どうしたの?」
「ちょっと付き合ってもらいたいんだけど」

ちょっと待った。
どういう風の吹き回しなのか私にはさっぱりわからないんだけど。
ピンクのガーベラ威力か?!と思い、そっと腕に通したヘアゴムを触る。
いやいや、期待しちゃだめだ私。
どうせ山口くんがついてきて二人きりじゃないんだ。

「山口くんは?」
「山口はあてにならない」

…あれ!?違った?!
とても不機嫌そうな月島くんの顔にどうしてここに山口の話が出てくるんだよと書いてある。
いやだってあなたたちいつも一緒にいるじゃないですか。

「行くの?行かないの?」
「い、行く!」

そ、放課後校門ねと月島くんは言うとお気に入りのヘッドフォンをスチャッと装着し、自分の席へ向かった。
私はというと、今起きたことの事態が信じられず静かに腰を下ろすことしか出来なかった。
ピンクのガーベラの威力やばし。
いつも当たらないとか生意気なこといってごめんなさい!


◇◇◇


「ごめん、騒がしい奴らに捕まった」
「う、うん!大丈夫…!」

校門で待っていたら、昇降口から月島くんが走ってきた。
待っている間、あの約束は自分の妄想だったのではと、何度も疑ってしまったがどうやら本当だったらしい。
はぁと息を整えるように月島くんは大きく息を吐いた。
そんな月島くんを見上げていると、それに気付いたように顔を逸らされる。
あ、やばい狙ってないのに上目遣いだったから気持ち悪かったかな…。
私も慌てて視線を外す。
でも気になるのでチラチラ覗き見してしまう。

「月島くん、背高いね。何センチ?」
「188、だけど…」

見ているだけでも高いなぁと思っていたが実に私と35センチの差があった。
30センチ定規ぐらい差があるよと言うと、月島くんは何か口を開いたが何も言うことなくまた口を閉じた。
なんだろうと再び月島くんを見ると、バツが悪そうにし

「……ほら、いくよ」

と店が多く立ち並ぶ街の方へ歩き始める。
結局、逸らされた後目を合わせてくれることはなく、地味に傷つきながら私は月島くんの後を追った。



「どこ行くの?」

月島くんの部活の話や授業の話、苦手な先生な話とか他愛無い話をしていたら、街に着いた。
時々入る月島くんの毒舌は言い得て妙なことが多くて、ついつい笑ってしまう。
その度に笑いすぎと注意されるこの時間が妙に居心地良かった。
やっぱり、楽しい時間ってあっという間だなぁと考えながらも、街に来た目的を知らなかったと月島くんに問いかける。

「あぁ、女子が好きそうな雑貨があるとこ。場所知らない?」
「…誰かにプレゼント?」
「…まぁ、そんなとこ」

そ、そうですよねー!!!
月島くんおモテになりますものねー!!
今まで上がっていた私のテンションが一気にガーンっと落ちる。
あーやだやだ、勘違いしちゃって。
いやわかってましたけどね…!

「…彼女さん?」

この際ついでだ、落ちるとこまで落ちようと覚悟し、勇気を振り絞り聞いてみた。
するとビックリしたような顔の月島くんがこちらを向いた。

「いや…違うけど。てかいないし」
「え、違うの?!」

私は用意していた「そうですよね」の言葉を飲み込み、大きな声で聞き返してしまった。
うるさい、と月島くんからお小言をもらい、思わず口に手を当てる。

「女の親戚が、結婚するから。兄貴がなんか買ってこいってうっさくて」

月島くんは言葉を続ける。
口元を隠したからか、急に口元が緩んだ。
口角が上がってしまう。
そっか、月島くん彼女いないんだ…!

「普通に考えて男1人でこんな雑貨屋くるの無理でしょ、田中暇そうだったから」
「暇そうって…!他にも月島くんからの誘い待ってる子いたんじゃない?」
「あいつら煩いから無理、嫌い」
「じゃあ私もうっさいから無理でしょー、声大きいし」

なんだか落ちたテンションが戻ってきて、饒舌になってしまう。
口元を隠してた手はもう意味をなしてない。
こっちにかわいいお店あるよ、と笑いかけるとスキップしそうな勢いで月島くんの腕を引っ張った。

「……嫌いだったら、連れてこない」

後ろで月島くんがぼそっとなにかを呟いたが、私の耳には届かなかった。
足を止めて、振り向くとまた目を逸らされた。
心なしか月島くんの耳が赤い気がする。

「うん?」

私は何か重要なことを聞き逃した気がしたので、もう一回という意味で聞き返す。

「…田中って鈍いんだね 」

月島くんは、はぁと溜め息をつく。
そんな月島くんも絵になってるとかいったら彼は呆れるだろうか。
メガネをかけ直し、私の方に向き直った月島くんを見つめる。

「だから…」


嫌い
(ほら、早くいくよ)
(え…え!?)


Tytle:確かに恋だった

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