わりぃ、わざと

息を整え、力いっぱい地面を押す。
プールから上がるのは少し気だるく、このまま水の中にいたかったが、腕が伸び切ったところで、足を持ち上げ、プールサイドへ上がった。
きつく頭に装着された愛用のゴーグルとキャップを外す。
キャップからこぼれた赤い髪からは、ぽたぽたと滴が落ち、プールサイドにシミを作った。
プールサイドにいた似鳥からセームタオルとジャージを受け取り、体を冷やさないように素早くぱぱっと全身を拭きジャージを羽織ると、凛は鮫柄の荷物が置いてある場所に向う。

「凛〜」

向かう途中で後ろから声をかけられた凛は、立ち止まり振り向いた。
振り向いた途端に、前髪と落ちてくる雫が邪魔をしたので、彼はどけとでもいうように髪の毛を掻き上げる。
視界がよくなったところで、改めて声の持ち主を見るとそこには凛の彼女の連がいた。

「…連、お前も出場すんのか」
「そうだよー!」

今日の大会は男女混合の記録会。
こちらもアップを済ませたあとなのか、キャップからはみ出ている髪の毛からはぽたぽたと滴が垂れていた。
ちゃんと拭けよと凛は持っていた自分のセームタオルを連に投げつける。
連はうれしそうにそれを受け取るとキャップを脱ぎ、髪をタオルで挟みぽんぽんと拭き始めた。

「今日凛は何でるの?」
「バッタとメドレーとリレー」

素っ気なく答えたのにも関わらず、目の前の連はそっかと破顔した。
また凛の泳ぎが見れることを彼女は喜んだが、何をそんなに喜ぶことがあるのか凛にはわかるはずもなく、連の笑顔が眩しくて顔を背ける。
こいつの笑顔と泣き顔には敵いそうもないなと、凛は苦笑すると楽しそうに話を続けて歩く連の横に立ち、一緒に歩き始めた。


*****



「田中さんって結構えろい身体してるよな。彼氏とかいないのかなー…」
「まだ処女っぽくね、かわいいよなー」

後ろからそんな声が聞こえた。
凛はバッと振り向くと、声のした方向を睨みつける。
すると、他校の男子数名が舐めるように連を見ているのを見つけ、さらに睨みつけると彼らのにやにやとしたいやらしい顔は一変する。
今にも噛みつきそうな雰囲気をした凛を見て、おい行こうぜ、といそいそ彼らはその場を去った。
そんな彼らを向けて、凛はチッとひとつ舌打ちをした。
能天気に前を歩いてる連を見る。
彼女は当然ながら水着を着ていて、それは連の身体のラインを露わにしていて、確かに見たくなる気持ちもわからなくもない。
しかし、それを自分の彼女にやられるのは気分がよくなかったらしく、握った手に爪が食い込む。
また、無防備な彼女にも少し腹がたったようで、凛は少しだけ眉を寄せた。
はぁと溜息をつき

「おい」

前を歩いてる連を呼び止め、着ていたジャージを脱ぐ。

「なにー?」
「ちょっと来い」

ふわりと連の肩にジャージをかけ、そのまま彼女の手を取ると、早足で歩を進めた。

「ねぇ、凛どこいくの?」

何度か角を曲がったときに、連の口から不安そうな声が漏れた。
凛はその声を聞き、足を止めると連を壁におしやり、そのまま唇を塞いだ。
驚いたように目を丸くする連を見て、凛はにやりと笑う。

「んっ」

角度を変え、何度も口付を落とす。
酸素が足りなくなったのか、涙目で制止を訴える連に満足したのか、凛は唇を離す。
するとそのまま連の首に唇を近づけ、ガブリと噛みついた。
痛っと声が上がる。
離してみるとそこには、くっきりと歯型がついていた。
満足そうに凛はそれを愛しそうに撫でる。

「ん…!ちょ、凛!なんでそんなとこに、つけるの!見えるじゃん!」

歯型は水着では隠れそうもない。
顔を真っ赤にして非難する連を見て、

「あー?」

と返事をし、笑みを深めた。


わりぃ、わざと

(変な虫につかれちゃたまらないからな)


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