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※注意 凛彼女が似鳥に監禁されるおはなし






ガサガサと袋のこすれる音が聞こえる。
心地よい眠りから覚めるのがいやで、音から逃れるために寝返りを打とうとすると頭の上の方からじゃらという音と共に痛みが伝わってきた。

「痛っ」

痛みを感じた部分をみようと引っ張っても、腕を降ろすことは出来ず痛みが増幅する。
腕は上に挙がり、1つにまとめられているらしい。
動かしてみるががちゃがちゃと音が鳴るだけで、一向に外れる気配はない。

「あ、先輩目ぇ覚めました?」

足元の方から聞いたことのある声が聞こえる。
目線を頑張ってそちらに向けると、そこには似鳥くんがいた。
あぁ、そうだ。
今日、小さい大会を鮫柄でやるから見に来いよと凛に誘われて、鮫柄に来たんだった…それから…?

「こんにちは」

彼は眩しい笑顔を向けてくるが、この状況とその笑顔が一致せず混乱をする。
何故、彼がここにいるのか、大会中ではなかったのかと考えが浮かんでは消えを繰り返し、どうしてここに凛がいないのかと心細くなった。

「不思議そうな顔ですね、全然把握できてない感じですか?」
「出来てると思う…?」
「思いませんね」

そう言って似鳥くんが浮かべた笑みはぞくりとするものだった。
普段の彼からは想像もできないような深い笑みは一層私を心細くさせ、とにもかくにもこの枷を取っ払い凛の腕の中に納まりたくなる。
案外、頭は混乱しているが冷静で、自分のことより凛のことを考えてる。

「まぁ、お分かりのように閉じ込めさせていただきました。無理矢理逃げようとしても無駄ですよ、腕を痛めるだけです」

どうにか外れないかと再びがちゃがちゃ動かしてみるが、似鳥くんが言う通り手首がひりひりと痛んだだけだった。

「なんで…?」
「邪魔なんですよ、先輩」
「え」

似鳥くんの口からポロリと一言が漏れ、それがきっかけとなったのか彼は次々に言葉を紡いだ。

「いつもいつもいっつも!!凛先輩に付きまとって!!」

ガタンと大きな音がして、私は思わず縮こまった。
どうやら近くにあった何かを彼が蹴ったらしい。
あんなにかわいい似鳥くんの見慣れない姿に私は恐怖を覚える。

「あなたがいると凛先輩は水泳に集中出来ないんですよ!僕は泳いでいる凛先輩を尊敬してますし、憧れてます。その凛先輩の邪魔をするなら僕が許さない」

そういうと彼はにやりと笑い、こちらに近付いてきた。
似鳥くんだから乱暴なことはしないだろうと高を括っていたが、これは少しまずいかもしれない。
彼の独白は続く。

「邪魔をするなら、凛先輩の前に姿現せないぐらいめちゃくちゃにしてあげます」
「ちょ…!!」

彼に似合わない言葉の数々。
そして、上から逃げれないようにと乗られ、体重を掛けられる。
暴れようとするが、恐怖で身が竦んだのかなんなのか反撃することもできなかった。

「他の人のマークがついていたら凛先輩はどう思いますかね」
「ちょ!似鳥くん!!ホントにやめて!」

思わず悲鳴に近い声をあげるが、似鳥くんの頭が私の首もとに吸い込まれ、ぺろと舐められた。
これからが本番だというように笑う彼が気持ち悪く、ぞわっとし、寒気が襲うと同時に鳥肌がたつ。

「やめません。凛先輩の前に来れなくなるまで」

本格的に襲われてしまうと抵抗を試みるが、びくともしない体はさすが水泳部というべきか。
再び似鳥くんの頭が近付いてくる。

「凛…!」

そう叫べば、凛が来てくれる気がして一筋の希望を託し、名前を呼んでぎゅっと目を閉じた。

触れるか触れないかそんな瀬戸際に、バンッと大きな物音がした。

「連!」

聞こえてきた声は確かに待ち人の声で。
思わずぽろりと涙がこぼれた。

「おい、似鳥!」
「はい!なんでしょうか、凛先輩」
「お前連に何してんだ!!」

凛は眉間にものすごく皺を寄せ、
今にも殴りかかりそうなぐらいの気迫があった。

「先輩がバッタに集中出来るように環境改善してます!」
「…誰がいつそんなこと頼んだ」
「僕が自主的に…」
「てめぇ…!」

ついに堪忍緒が切れたのか、凛は大きく振りかぶり、似鳥の胸ぐらを掴んだ。

「凛!ダメ!やめて試合出れなくなる!!」

私のその一言も既に遅し。
そのまま、凛は一発彼にくれてやった。
バコッといい音が鳴り、そのまま彼はベッドの下へと飛ばされる。

「おい、連大丈夫か」

その隙に私までの距離を一気につめた凛は、顔を覗きこみこぼれた涙を掬ってくれた。

「…うん、大丈夫」

大丈夫なんかじゃ全然なかったけれど、気持ち悪いことされたけど、凛が来てくれたことが嬉しくてつい嘘をつく。
大丈夫だよ、大丈夫だから私のために水泳を棒に振らないで、そう思いながら彼を見つめると、彼はチッと舌打ちをした。

「バカ」

そう凛は呟くと、いつ奪ったのか手の中にあった鍵で手錠を外してくれた。

「……悪かった」

そして、そのまま優しく抱き寄せてくれた。
凛の腕の中がとても居心地よくて、思わず彼を強く抱き締めた。

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「ってとこで目が覚めてさー!もっと凛の優しさに触れていたかったっていうか?ちょっと残念だった…」

私はそういうとファストフード店の机に突っ伏した。
結局、ドキドキさせるだけさせ、彼(夢の中の凛)は彼方へと消えてしまったので、なんだかたまらなく会いたくなってしまい今日こうして凛と会っている。

「俺はお前にそんな趣味があったことに驚いてる」
「え」

あーあ、と嘆いているとそんな声が上から降ってきて、驚いた私は顔を上げた。
凛を見上げると端正な顔がにやりと笑い、彼のギザギザな歯が見える。
あ、ちょっと噛まれたいかもしれない。

「されたいんだろ?」
「違います!!」

さらに意味深な笑みを浮かべる凛に全力の否定の声を浴びせる。
私がされたいのはそこじゃない!

「先輩方ー何の話ですかー?」

全力否定をしていると、もう一人の話題人物がファストフード店の入口が入ってくる。
似鳥くんは、私たちを見つけると犬のように目を輝かせこちらに近付いてきた。

「あ、似鳥くん。いやー夢で大会やってる鮫柄に来たら、凛の水泳の邪魔すんなって似鳥くんに閉じ込められる夢見てさー」
「ええええ!」
「そんなことしないのにねー」

驚いたように慌てる似鳥くんを見て和む。
凛もかわいい後輩持って幸せだなぁと微笑んでると机に投げ出されていた手をぎゅっと凛が握ってきた。
どうした、なんだかわいいぞ。

「しませんよ!僕は先輩方が幸せならそれで…!あ、部長から凛先輩に伝言です」
「あぁ?」

話題が移り、面倒くさそうに返事をする凛を見た。
そして、私には関係なさそうな話題だったので凛の顔から目線を移動させ、繋がれた手を見る。
それを見てるだけで、なんとも言えない気持ちになり、空いているもう片方で凛のたくましい手を弄った。
こそばゆそうに動く凛の手が愛おしい。

「明日急遽小さな大会を開くこととなった!準備しとけがはははーとのことです」
「はぁ…?!」

似鳥くんが御子柴さんの真似をし、私の耳にはなんだか既視感を覚える言葉が入ってきた。
大会…?
嫌な汗をかく。
少し怖くなった私は握っていた凛の手をさらにぎゅっと握りしめる。
なんだかこれはまずい気がする。

「田中先輩も来ますよね?」
「え」
「お待ちしてますね」

似鳥くんはそういうと見たことのあるようなぞくりとする笑顔を浮かべた。



境界線
(え、え!?似鳥くん!?)
(冗談です)


Thema:監禁、ヤンデレ、黒執事・テニプリ以外


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