伏せ札は万全



「…もしもし、赤也?」
『おい連、雪すげぇぞ!』

幼馴染からのそんな電話で起こされた。
眠い目を擦ってカーテンを開けると確かに景色はすっかり白くなっている。
私の低めのテンションとは裏腹にあいつのテンションは高い。

『なあ今から雪合戦しようぜ』
「寒い」
『なんだよせっかくの雪だろ?ここまで積もるなんて滅多にねーって』

昨日までそっちも寒い寒いと言ってたくせに、雪が積もった途端これだ。
背は私を抜かしたくせに、そういうところはまだ子供っぽい。

「今起きたとこなんだけど」
『じゃあさっさと着替えてこいよ』

人の話を聞けこのワカメ野郎…と言いそうになって言葉を飲み込んだ。
赤也にワカメは禁句だ。機嫌悪くなった赤也がとっても面倒ってことはよく知ってる。
伊達に幼馴染はやってない。

「寒いのダメって知ってて言ってる?」
『動いてたらあったまるって!』
「布団と結婚するからやだ」
『お前相変わらずだな』

赤也の声が呆れているように聞こえる。
そりゃそっちは運動部だからいいだろう、こっちはバリバリのインドア派だ。
正直こんな日は一日寝るか、コタツでまったりするに限る。
わざわざ寒い中寒い思いはしたくない。

『じゃあ…』

ごつっと窓から音がした。
外を見ると赤也が窓に向かって雪玉を投げている。

「おいコラ馬鹿也、何してんの」
『お前が来るまでぶつけてやる』
「窓割れたらどうするつもり?」
『俺悪くねーもん、来ない連が悪い』

こっちからでも赤也の憎たらしい表情が見える。
さすがに窓は割られたくないので着替えて外に出た。

「お、来た来た」
「わぷっ!」

寒い、と思う前に出会い頭に顔面に雪玉をぶつけられた。
さっきの窓といいこっちもやられっぱなしじゃ味が無い。
丸めて投げても所詮相手は運動部、ひらりと躱されむしろ反撃でダメージが大きくなる。
その前に赤也は覚えているのだろうか?

「…あのさ、赤也」
「お?手加減ならしねーからな」
「…そう」



この調子だと忘れてるなこいつ。…明日が英語の小テストだってことを。



「なんだよ連、ぼーっとして」

確か次悪い点取ったら部長に殺されるという話じゃ無かったっけ?お前前回のテストのあとガクブルしてなかったっけ?
確か勉強するって言ってたけどこの雪でその記憶が飛んだのかもしれない。
部長の幸村さんが赤也を殺すようには見えないけど、教えてあげた方がいいのかも、

「わぷっ」
「隙アリ!」

二度目の顔面に喰らって、教えてあげる気は失せた。
今は存分に雪合戦に付き合ってやろう、明日、お前が青い顔になることを楽しみにしてな!

「なんだ、ノリノリじゃん」
「まあね」

投げた雪玉はやっぱり避けられた。


伏せ札は万全


「…俺死ぬかも」
「あっそ」

次の日、英語の小テストの話題を振ってあげると案の定忘れてたらしい赤也は期待通り顔を青くしていた。
さて、テスト後どうなるかな?

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あとがき

しかしこの赤也、不憫である。
雪の日のバイトで人が少ないのに大繁盛したり店長以上が末代まではげろと祟りたくなったりで、結果赤也に八つ当たりする形になった。ごめん。
テニプリ久しく読んでなくて、当初悪魔化のことが言及されてたんだけど『冬ならもう克服してる』と指摘されたのでこっちでは修正しました。
腐れ縁を書くのは楽しい。

12月課題その1:テニプリ

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