王様が来るまで

台風が近づいているからか、雨音が激しい。
こんな日は傘を持っててもきっと濡れるんだろうな、と思いつつHRが終わるまでこっそりとカードデッキをいじっている。
ジュンさんに会いに行こうと思ったけどこの天気だとまっすぐ帰った方がよさそうだ。
せっかく新しいデッキを組んだから、相手してもらおうと思ったのに。

「以上だ、今日はまっすぐ帰れよ」

先生の言葉でみんなぞろぞろと帰りだした。
私もそれに続くように、傘立てから自分の傘を取り出そうとして…無いことに気付いた。

「あれ?」

忘れたということは無い。だって今日傘さして登校したし。
でも傘自体はどこにでもありそうなビニール傘だったから、どこかの誰かが取って行ったのだろうか。
…困った。予備の傘も持ってない。友達は私と別方向だし、このまま濡れて帰るしか無いのかも…。

そう思った矢先に携帯が震える。
画面を見ると知らない番号で、恐る恐る通話ボタンを押した。

「…もしもし?」
『もしもし、田中か?』

聞こえてきた声は、間違いなくジュンさんだった。

「ジュンさん?あれ、番号…」
『三和から聞いた。お前のことだからこんな天気の日まで押しかけてきそうだからね、釘を刺しておこうと思って』
「ごめんなさい、今日はさすがに帰ろうと思いました」
『………。』

電話の向こうでジュンさんが黙る。
ジュンさんは裏ファイトのキングだけど、優しいと思う。初めて会った時だって道に迷った私を近くまで送ってくれたし、今だって心配して電話かけてくれたし。
強い人とファイトして強くなりたい、っていう私のわがままもなんだかんだで許してくれた。まだジュンさんには勝てないけど、いつか勝ちたい。

『…とにかく、まっすぐ帰れよ』
「それが帰れそうになくて。傘取られちゃったんです」
『友達…櫂とか三和はいないのか』

櫂くんも三和くんもいない。
それにもう廊下は静まり返っている。誰の気配もしない。

「…もう周り誰の気配もしないです」

ジュンさんが舌打ちするのが聞こえた。
急に申し訳なくなって、早めに会話を切り上げたくなった。

「大丈夫です、もう走って帰り『学校は後江だったよな』…え」
『後江で合ってるよな?』
「はい」
『今から行く。下駄箱辺りで待ってろ』
「え」

この天気で来てくれるのは嬉しいけど、迷惑じゃないんだろうか。

『女子は体を冷やしちゃいけないんだろう?どうせ暇だったんだ、たまには雨の中の散歩もいいだろう』

雨というか土砂降りですよ、そんな言葉を飲み込んで代わりにこっちを言う。

「ありがとうございます。…やっぱりジュンさんは優しいですね」
『前も言ったけど俺を優しいって言うお前は変わってるよ』
「それでも、優しいです」
『…とにかく、大人しく待ってろよ』

そして電話が切れる。
こんな土砂降りの中ジュンさんが来てくれるのが嬉しい。今度お礼しなきゃ。
そういえば、ジュンさんって何が好きなんだろう?
いつもはヴァンガードのことばっかりだから、たまにはそういうことを話したいな。


王様が来るまで


この時、仕事熱心な警備員さんがジュンさんを不審者扱いしてしまうことを考えればよかった。
遅いな、なんて見に行ったらジュンさんが危うく警察を呼ばれそうだったことを私はまだ知らない。


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あとがき

ふとジュンさんで書こうかと思い、書いた作品。
…この後久々のジュンさんの出番があるなんて誰が思っただろうか。
そしてあっさりЯしてしまうなんて誰が思っただろうか。
もしかしてメガコロニー強化使ってくれるのЯジュンさん?と期待していたらあっさりЯが解けるなんて(ry
そんな公式で扱いの悪いジュンさんに幸あれ…。

11月課題(天気・電話・学校or職場)

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