あなたは、だぁれ?

「おはよう〜待った!?」
「いや、大丈夫」

そう言うと彼女はよかったと笑った。
今日は、花火大会。
浴衣を着た彼女はからころと下駄を鳴らし、俺の腕に自身の腕を絡ませてきよった。
気温はとても上がっていて、田中が隣に来るのじゃって、暑がりの俺としては暑いから勘弁とは言えんが、やっぱりやばいんじゃろうなと思っとったが、意外にもその暑さは感じん。
熱さだけを感じ、彼女にドキドキしながら、俺達は会場に向かって歩き始めた。

会場までの道は賑やかで、また屋台もこれでもかというぐらい並んどった。
焼きそばやたこ焼きを夕飯用にいくつか買い、会場まで歩を進めるとその近くでカラフルに彩られた水飴の屋台を見つけた。
俺はおっちゃんに声をかけ、それを1つもらうと、先で楽しそうにきょろきょろしとる田中に声を掛ける。

「あげる」
「え!いいの!?私、水飴大好きなんだぁ」

そうふんわりと笑った彼女は、俺が今まで見とった彼女の中で最高に可愛かった。
あまりの可愛さに照れた俺は、浴衣の相乗効果、反則じゃと思いつつ顔を背ける。
彼女はそんな俺を気にすることなく、キラキラと光る水飴に目を奪われとった。

*****

会場は、穴場と言われる場所だけあって人はそこそこしかおらんかった。
たまたまベンチも空いとって、そこに2人で腰掛けると早速屋台で買った品々を食べ始めると

「あれ、田中じゃん!」

向こう側から、田中を呼ぶ声がした。
そこには、俺と同じ顔のやつが1人。

「…佐藤くん?」
「なんだよ、お前彼氏いたの?知らなかったぜー!奇遇だな、俺も彼女と来てるんだ〜」

戸惑う田中を気にせず喋る佐藤は、満足したのかそれだけを言うとじゃあ、と言い自分の彼女の元へと戻っていった。
佐藤の方に向いとった顔が、ゆっくりと、そして恐る恐るこちらに向く。

「……あなた、だれ?」

田中から笑顔が消え、その目は怯え、表情も強張っていた。
俺はにんまりと笑って答える。

「田中、何言ってんの」

俺は、君の大好きな佐藤くんだよ、と。

「どうしちゃったの?一緒にデートも重ねてきたじゃない。好きなものは、オムライスと林檎。嫌いなものは、虫。LINEのアイコンは、猫。2年前に駅で小学校が一緒だった俺と再会して、そこから俺に片思いしてて、去年の夏無事成就。そうだろう?」

そんな怯えんでええじゃろ?大好きな彼がここにおるのに。
俺は凍りついたように動かない田中に近づき、抱き締めた。
そんな俺たちを尻目に、夜空に花が開いた。


あなたは、だぁれ?
(プリッ)


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