座敷童子と幽霊海賊団

アルフレッドさんに招待されたハロウィーンパーティーに菊さんとやってきたはいいものの、あまりの人の多さに気付いたら隣にいたはずの菊さんの姿は消えてしまった。
私が国だった頃に交流があった国の方々はこの中では少数で、その方たちすら見つけられない。

その時、誰かの長い足とぶつかった。

『ごめんなさい!』

そう言って足の主を見上げると、アニメで見たような海賊帽を被った骸骨柄の眼帯をつけている大男さんで私はその外見に慄きその場に立ち竦んだ。
威厳とアニメの登場人物より似合っている姿に怖いながらも目を奪われる。

「おう、ごめんなー! ……ってあれ、どこだっぺ?」
「下、あんこ、下。あ、手が滑った」

ゴッ、と痛々しい音がして金髪の海賊帽眼帯のお兄さんが私の顔を覗きこむ。

「おっ、お前も国か!? 普通のわらしっこかと」
『元、国です……知らないと思いますが、蝦夷共和国です。今は日本になってますが』
「Japan(ヤーパン)? そんなら菊んとこだっぺか!」

「まずは名前を聞かないと、ですよ! ターさん」と声がしたかと思えば骸骨マスクが眼帯のお兄さんの後ろから現れる。
私は悲鳴を上げて咄嗟に一番近くにいた眼帯のお兄さんに抱きついた。

「ほーれ、ティノ怖いってよお! よかったっぺなあ」
「なんか嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちです……」

すると突然地面が遠くなり、足が空を切る。

『わわわ、何ですか』
「悪ぃな! ずっと下向いてっと腰が痛ぇーんだ!」
「歳だべ、あんこ」
「俺も若くねーからなあ」

着物が乱れてしまうといけないので抵抗せずに抱き上げられたままだが、あんこさん(仮名)の顔が近くて恥ずかしい。近くで見れば見るほど私たちの国では見ることがない異人さんの顔でちょっと興味深い。ルートヴィッヒさんに顔つきは似ているかもしれない。

「そういえばまだ名前聞いてなかったな! おめーさん名前はなんて言うんだ?」
『えっと蝦夷……』
「人名の方だっぺよ!」
『ああ……、本田連と申します』

少し遅めの自己紹介をすると、彼ら五人組は「欧羅巴の北側担当、北欧5」の方々だったらしく一人ずつ国名と人名を教えてくれた。
今私を抱き上げているのは、あんこさんじゃなくてデンマークさんだったみたいだ。好きなように呼んでくれ、と言われたのでヴァイナマイネンさん(骸骨マスクのお兄さん)みたいに「ターさん」と呼ぶことにした。
――それにしても外国の方の名前は覚えにくいし難しいし噛みそうになる。

「俺たちは幽霊海賊団の仮装してるんだけどよお! 連は一体なんの衣装なんだー?」
「KIMONOですか?」

今回のハロウィーンパーティーには、菊さんは天狗の衣装で参加するということだったので私は座敷童子の格好をしてみたものの、髪を下ろして赤い小袖を着ているだけなので、仮装と言う程でもないと改めて思ったが、日本の妖怪はこういった普通の人の姿をしていることが多いのではないかとも思った。

『一応、座敷童子をイメージしたんですが……』
「なんだっぺ、そりゃあ」
『子どもの妖怪です。日本の古い家に住んでて、もし家に座敷童子がいたらその家はとても栄えるんですがいなくなっちゃうと衰退しちゃうんです』
「ほんなら、北欧に連れて帰ればいいべ」

ノルウェーさんが聞き捨てならない事を口走ったのを私は聞き逃さなかった。
そんな彼の言葉にターさんは「さっすが俺の兄弟! いいアイデアだっぺ!」と私を抱いたまま歩き始めた。

「でも座敷童子いなくなったら衰退しちゃうんでしょ、帰りたがったらどうするの」

アイスランドさんが横を向いたまま言う。

「そしたら俺ん家から出さなければいい話だっぺ!」
「ターさんが言うとシャレになりませんよー」

ヴァイナマイネンさんが不吉なことを言った。
彼は横目でオキセンスシェルナさんを見る。オキセンスシェルナさんは無表情のままだが小さく「ほだな」と呟いた。おそらく、ターさんとオキセンスシェルナさんの間に何かがあったみたいだ。
私は「シャレにならないらしいターさん」を知らないが彼らの反応から、あんまり良い感じはしない。

「ま、このまま連れ帰ったら菊に怒られそうだしなあ」
「わらしっこ、拐かすでねぇ」

菊さんと離れてしまった、と伝えてあるのでターさんたちは私を菊さんのところまで連れて行ってくれるらしいが、いつまで経ってもターさんは私を下ろしてくれなくて、時にはオキセンスシェルナさんと交互に私は担ぎ上げられる。
海賊の衣装も相まって、海賊に捕まった人質みたいだとアイスランドさんに言われた。

「今日の戦利品だっぺー! ヤマトナデシコだっぺー!」

なんてターさんが言うものだから、私も彼らの仮装の一部になっているのではないか疑惑が出てきた。

「お! あれはルートヴィッヒの坊主じゃねーか」
「菊さんもいらっしゃいますよ!」

海賊団に担がれた座敷童子に気付いたのか菊さんが、
「よかった、今ルートさんたちとどうやって見つけようかと話し合っていたところなんですよ。連れてきて頂いてありがとうございます」とターさんたちに頭を下げた。

私はやっと下ろされて、久々に足に地面の感覚が戻る。
見上げなければ彼らの顔が見えないのだと今の今まで忘れていた。

「連、今日はハロウィーンだっぺ? 言うことあるんじゃねーのけ?」
『……と、とりっくおあとりーと!』

そう言うと、北欧の方々は小さなお菓子の包みを一人ずつ手渡してくれた。
(オキセンスシェルナさんはお家のヨーグルトのジュースだという「Yoggi」という飲み物をくれた)

「連、Trick or Treat!」

ターさんは発音のいい英語でそう言った。
しかし私はお菓子を持ってなくて菊さんに助けを求める。
菊さんが懐から何かを取り出そうとするとターさんは人差し指を横に振った。

「俺たちぁ海賊だからな! 欲しいものは自分で奪うってもんだぜ!」

ターさんはそう言うと、私の目線と同じ高さになるようにその長い足を折った。
がしがしと頭を撫でられて、視界がぐわんぐわんと回る。
その後、彼は片膝を付き私の右手を取った。

「今度は奪いに行っからな! 覚悟しとけよー?」

右手の甲に口付けをされる。

最初は状況が飲み込めていなかったが、段々と顔が紅潮するのを感じた。
その後ターさんは何事もなかったかのように立ち上がり、「じゃあまたな」と北欧の方々を引き連れて人混みに消えていってしまった。

「やっぱり元ヴァイキングはやることがちがうねー!」

と、フェリシアーノさんが言った言葉も今の私には右耳から左耳へと流れるだけだった。



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2011年ハロウィーン漫画ネタ。
ちなみに夢主は外見年齢10歳前後

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