いたずらは悪夢の中

夕凪ソウヤがギルドに出勤すると、ギルドの面々が床に倒れ伏してうなされていた。
何人かは難を逃れたのか、哀れみの目で床に倒れている彼らを見ている。

「いったい何があったんだい?」
「ソウヤさん、トリックオアトリート!」

ソウヤの質問に答えずに、レンが彼の前に躍り出て両手を差し出した。
何故かナース服を着ている彼女に彼はもう一度質問した。

「いったい何があったんだい?」
「お菓子!お菓子ください!じゃないとイタズラしますよ」

話が噛み合わない、というよりレンに噛み合わせる気がない。
そして多分、床に倒れ伏している面々はレンの『イタズラ』の被害者だ。
しょうがないな、とソウヤはパン屋の袋を差し出した。

「菓子パンはお菓子に入るかい?」
「うーん……中身は?」
「メロンパン、チョココロネ、ああ窯出しスフレがあった」
「もらいます!」

ほくほくとした顔でレンは袋を受け取る。
今なら質問に答えてくれそうだ、とソウヤは三度目の質問をした。

「で、いったい何があったんだい?」
「レンのせいです」

彼女はすでにスフレに舌鼓を打っており、答えたのはオールマイティだ。
そしてシックが引き継ぐように続ける。

「びっくりしたよ、お菓子くれないとイタズラするって言うんだもん。でも僕やオールマイティはお菓子持ってたから無事でいるけど、彼らは……」
「イタズラってことで少しの間悪夢を見てもらってます。大丈夫ですよ、みんな精神に支障は出ない程度だから」

幸せそうにレンが言った。
彼女の暗殺方法は、彼女の能力で悪夢を見せて発狂させて自殺させること。
夢魔なのだからいい夢を見せて衰弱死させればいいのでは、という意見に対して彼女は「だって発狂した時の表情って最高じゃないですか!」と笑顔で答えていた。
そんな彼女が見せる悪夢なのだ、精神に支障が出ない程度とはいえ見たくない者が大勢だ。

「で、なんでいきなりこんなことを?」
「ハロウィンですよハロウィン。コスプレしたらお菓子カツアゲしていい日」
「?」

納得がいかないソウヤを見てシックが答える。

「ソウヤさん知らないの?この日ってコスプレしてトリックオアトリートって言ってお菓子をねだるんだよ。主に子供向けの行事のはずなんだけど」
「いいじゃないですか、私夢魔としてはまだ若いんだし」

そう言ってレンはソウヤからもらったスフレやパンを平らげていた。
そしてシックにいたずらっぽい笑みで言う。

「シックさんも閉じ込めてる方々にやってみたらどうですか?100%イタズラ一択になりますけど」
「えー、最初から答えが決まってるのはつまんないよう」
「それもそうですねー。あ、最近どうです?発狂してる人とかいます?」
「発狂させないように時々希望持たせてるからね、残念ながらいないよ。だって完全に壊れたらもったいないもん」

一見すると少年少女が談笑している微笑ましい光景なのだが会話の内容はえげつない。
オールマイティは「なんで私こんなギルドに流れ着いたのかしら……」と頭を抱えて呟いていた。
そのうち、床に倒れ伏した面々も目を覚まして起き上がる。
だが顔色は悪く、全員レンの方を睨んでいた。
彼女はそんな視線を意に介さず笑う。

「ああ、おはようございます。いい夢は見れましたか?」
「レン、てめえ……」
「お菓子を用意しない方が悪いんですよー。みなさんソウヤさんやシックさんやオールマイティさんたち見習ってください」

ピリピリした空気がギルド内を流れたが、ソウヤがパンパンと手を叩く。

「こらこら、喧嘩はよくないよ」

彼がそう言うと悪夢を見せられた面々は腑に落ちない顔をしていたが仕方ないと納得したようだ。

「ところでレン、仮に今日君に仕事の依頼が来てもハロウィンを仕掛けるのはさすがにやめた方がいい」
「はーい。ちゃんと着替えますよ」

ソウヤから注意をされてレンは着替えに行こうとした、その時。
暗殺ギルドの扉が開かれる。その人物を見てレンは目を輝かせた。

「あ、ギルド長!トリックオアトリート!」

その言葉に全員が固まって事の成り行きを見守ることになった。


いたずらは悪夢の中


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……せめて月刊だったらもっと続いてたんだろうな、と考えると戦犯は編集部としか言いようがありません。
もっといろんなキャラを見たかった。コミックスはホントもうなんだろう、読んでて終わったのが辛かったです。特にキャラ解説。ジグくんとトロマさんはひたすら切ないの一言。


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