不埒な健全男子

ボーダーA級隊員とはいえ、おれだって健全な男子高校生なわけで。やらしいこともしたいわけで。
そういうわけなんだけど、かれこれ10分くらい攻防を繰り広げている。
というか、連さんが折れてくれない。押し倒そうとするおれを押し返そうと必死だ。

「なんでダメなんですか」
「そんなつもりじゃなかったのに!」
「いやだって、おれ健全な男子高校生ですし?」
「まず勉強しなさい高校生」

連さんの言う通りだ。
もともと勉強見てもらうために家に呼んだわけだし。(下心が全くなかったわけじゃないけど)最初は勉強する気はちゃんとあった。
そう、最初の1時間は集中して勉強していた。休憩中に連さんが壁にかけている学ランを見て、去年は自分も制服着てたんだよねーと懐かしそうに呟くまではおれも真面目に勉強する気はまだあったんだ。
じゃあ着てみます?と学ランを渡すと連さんは学ランとセーラー服はだいぶ違う気がするんだけど……と言いつつ興味があったのか結局羽織ってくれた。

「可愛い!……あ、匂い嫌だったらすいません」
「大丈夫だよ、公平の匂い好きだし」

そう照れつつ笑うのと、連さんが着たら袖が余っているのと。
それがおれの理性をアステロイドでハチの巣にしたので、押し倒そうとしたら危機感を感じた連さんに押し返され、大体10分間攻防を続けていた。
男子高校生に対抗できる連さんの力も地味にすごいかもしれない。
伊達におれとランク戦で張り合って、未だに追い越せないでいるだけはある。
いや、戦闘中はトリオン体だから生身の今はそういうこと関係無いか。

「後でちゃんと勉強しますから!1回だけだから!」
「それフラグにしかならないから!」

……まあ、確かに。絶対に1回じゃ済まない。
ふと、前に米屋から聞いたことを思い出した。今こそあの言葉を使ってみる時なんじゃないのか?

「じゃあ2文字以内で答えをください」
「やだ!」

あっさりとおれの思惑は否定された。
確か当の槍バカは「絶対に『はい』って言わせる必殺技らしいぜ」とか言って教えてきたはず。
今考えれば『やだ』も2文字じゃねーかあの槍バカ!さすが赤点常連だな!いやそこまで思い至らなかったおれもバカ!
と、おれが槍バカへのクレームを頭に浮かべていた時に力が抜けていたらしく、え?と言う声と共に押し倒された。
焦った顔がおれの視界に映る。

「わー、連さん大胆」
「だっていきなり力抜くから……!」

慌てて連さんが体勢を立て直そうとするので手をがっちり握る。
もしかしてこれって結果オーライ?だとしたら今度米屋に飲み物でも奢るか。

「押し倒されちゃったしこれは期待に応えるしかないなー」

そうにやにや言うと彼女ははあ、とため息を吐いた。

「先にあの問題集片付けてから」

ちらり、と連さんが見る方向には途中になっている数学の問題集。

「連さんのいけずー」
「……公平?」

繭さんの雰囲気が戦闘中と一緒になっているのでさすがに手を離した。
このままおれがごねるとおれがハチの巣にされそうだ。まだ死にたくはない。

「2文字以内で答えを聞かせて?」

ね?とにっこり笑う彼女にもうこう答えるしかなかった。

「ハイ」

見事にはいと答えてしまって、さっきのは使いどころも悪かったんだなと思い知った。
おれが連さんを実力で追い越すのは思ったより先の話かもしれない。


不埒な健全男子


「あ、でも終わったらいいんですよね?」
「終わったらね」
「よっしゃ」

分からないところあったら教えるから、と連さんが笑う。
……学ラン着たままなのに気付いていないのは黙っておこう。後でのお楽しみだ。

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出水はいやらしさとカッコよさの両立だと思うんですよ。
個人的なベストオブいやらしいずみは8巻表紙です。次点で「『落としてください』だろ」のシーンと「…なんちゃって、佐鳥みっけ」。
というかあの目から溢れるいやらしさがいいよね出水。ワートリはみんな好きですが最近出水の株が上がりまくってます。
出水といい奈良坂さんといいお前らほんとに17か。

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