ケーキバイキングに行きませんか?

「連ちん、何か持ってない?」

1時間目後の休み時間、隣のクラスにいるはずの幼馴染が尋ねてきた。
中学生としては規格外の巨体である敦はこの中学校の有名人だ。
というか、バスケ部スタメンのみんなは有名人な気がする。赤司くんや黄瀬くんは言わずもがな、青峰くんはバスケがとてもうまいって有名だし、緑間くんは変人っていう意味で有名人だ。

「どうしたの、敦」

まあ大体検討はつく。敦がこの時間に来るとしたら教科書貸してか、もしくは小腹が空いたから何かちょうだいのどちらか。

「なんか持ってない〜?小腹空いた」
「……言うと思った」
「だって連ちんなら持ってるでしょ?」

そりゃ幼馴染ですもの、何年も同じやり取り繰り返してるんだもの。
そしてあんたに片想い中ですもの、要求には答えたくなってしまうんだもの。

「はい、まいう棒。適当に持って行って」

机の上に広げたまいう棒10本を大きな手でごっそりと取って、さんきゅ〜と敦は笑った。
……せめて1本くらい残してほしかったけどしょうがない。
それにしてもお菓子のストックいくらでも持ってそうな敦が1限から来るとは。

「どうしたの?1限から来るなんて」
「姉ちゃんがお菓子没収した」
「怒らせたの?」
「太った?って言ったら怒った。んで、目の前でお菓子食うな!って没収された」
「そりゃ怒るよ……」

しゅん、としている敦にかける言葉は自業自得以外無いけど。
しかし今まいう棒を受け取っても午後は大丈夫なんだろうか?

「お昼は?大丈夫なの?」
「お菓子代までは没収されなかったから大丈夫」

なら、安心だ。
と思っているところに敦の大きな手が私の頭を撫でてきた。

「ありがとう、連ちん。いい子いい子」

照れくさいしせっかく整えてきた髪がぐしゃぐしゃになるからやめて、と言いたいけど嬉しいので何も言わないでおく。
しばらくして私の頭を撫でるのに飽きたのか、このお礼は覚えてたらするね〜と敦は戻って行った。
なるべく覚えていてほしいけど、敦だし期待はしない方がいいかも。

「よかったねえ連」

近くの席の友達がにやにやと笑っている。
一度、敦が好きなんだけどと漏らして以来、この子はこのやり取りをにやにやと(本人曰く微笑ましく)見守っている。

「いい加減告白くらいしたらどうなの」
「正直、敦に恋愛対象として見られてない気がするんだけど」

絶対体のいい幼馴染にしか見られてない気がする。
本当は敦が来るから、とお菓子を用意してるなんて言えない。
そのうちいつか、敦に彼女ができてその子が用意したりするのかな、なんて想像するのも嫌だけど。

「そう思うくらいならいっそのこと告白すればいいじゃない」
「お隣さんで家族ぐるみの付き合いだと告白するのすら躊躇うんだよ」
「ふーん」

だからこのままでいいんだ。
きっといつか敦に彼女ができたら泣いてしまうんだろうけど。


そしてそれから大体10日、敦は連続で私からお菓子をもらいに来た。
普通来るとしても敦の膨大なお菓子ストックが無くなってからなのに、ここまで頻繁に無くすのは珍しい。

「……敦、本当に無くなったの?」
「あれ、バレた?」

ある日、思い切って聞いてみた。
すると敦は別に罰の悪そうな顔をするわけでもなく、いつも通りの顔だった。

「うん、ホントは無くなってないんだ〜」
「じゃあなんで?ストック追加?」

う〜ん、と敦が首を傾げる。当の本人もよく分かってないらしい。
しばらくして口を開くと、爆弾発言が飛び出した。

「なんかね、最近連ちんがくれたやつが美味しいって思うようになったんだよね」
「……え?」

友達のにやにやとした視線が突き刺さる。
ちょっと待って、どういうこと?

「別に同じ既製品なのに、連ちんがくれたやつは妙に美味しいなあって思うんだよ。不思議」
「へ、へえ……」

つまりそれは、期待してしまっても、いいのかな。

「だから連ちんからお菓子もっともらいたいなーって」

いい?と巨体にも関わらず小首を傾げる仕草にノックアウトしそうになった。

「いいよ」
「お礼に今度買い物付き合うからさ〜」
「あのさ、買い物もいいけど」



ケーキバイキングに行きませんか?



マジで?と目を輝かせる敦に、もうこうなったら頑張るしかないなと思いながら大きくうなずいた。

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指定:(両)片想い、切なくない、みんなが知ってるキャラ

みんなが知ってるキャラという定義に一番悩みました。
私の好きな作品はみんな知らないことが多いってのがなんとも。
布教上手になりたい。

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