ドラキュラ


生き延びる為になんだってする。そんなもんだろ。俺は一度、棺に入った事がある。黒死病で死んじまったわけなんだけど。生きてた頃の行いが良かったからなのか、なんかの間違いか知らないけど、こうして復活した。世でいう吸血鬼ってやつに。怪しげな城に住んでるわけじゃないし、コウモリも引きつれていない。そんなもんだ、吸血鬼って。ちなみに俺は若くして死んだからその時の身体のまま。老いるわけではなく、衰弱していく。それを食い止めるために人の血を飲むわけ。

やっぱ男だし、いただくなら俺くらいの若さで、ピチピチで胸なんか大きくて、とびっきりの美女がいいと思っていた。でも、血を吸ったら美女は死んでしまう。たとえ一夜限りのお相手だとしても寂しい。生きる上で必要な犠牲だが一度死んだ俺がそんな贅沢をしていいのか、なんて思った。そう、俺って紳士なの。

だから、せめて、今際の際にいる人だったり自殺志願者の生き血をいただくことにしている。そんな都合よくいるわけない、と思っていたが、そうでもないらしい。むしろ、お残しをするくらいに。そうゆう人たちには独特の雰囲気を持ち合わせている。俺はそれらを見分けられるから、苦労はしていない。今日だって、自殺志願者が一人捕まった。

おっさんだった。冴えない奴。首を吊ろうとしていたのだけれど、部屋が開けっ放しだったから気安く止められた。といっても、縄とにらめっこして死ぬかどうかを迷っているところに俺が出くわしただけ。ノックをしたら俺に気づいて跳ねて驚いた。死ぬ勇気もないようなお利口さんだとでも言おうか。もう、腰抜け。病的に肌が白い俺が言うのもなんだが、顔面蒼白。本当に、死顔だ。

でも、死ぬ前に出会えて良かった、そんな意味じゃない、ああ本当に。やっぱ血は新鮮じゃなきゃダメだ。どんな血でも時間が経てば飲めたもんじゃない。そう、絶世の美女のでも、だ。

取り敢えずおっさんと話をしてみる。落ち着いて話をしよう、って。おっさんは三十路過ぎで、不治の病持ちで、ちなみに童貞らしい。悩みに悩んで自殺を決めたらしい。結構、実に結構。俺には関係ない。一人でしゃべって、ついには泣き出した。可哀相な奴だな、とくに童貞っていうのが。

こんな救いようのないおっさんを、どうしようもなく、俺は助けたいと思った。いや、最終的には生き血を啜ってしまうのだけれども。でも、俺は無力だ。助けたい、何を、どうやって。自殺はおおいに結構、病気は、だってどうしようもないでしょ。残るは、童貞。美女をおっさんに紹介するくらいなら、俺はおっさんに関わらないね。そうだ、ならしょうがない。俺が女役に、ああそうだ、出血大サービスだ、その代わり、生き血と魂をいただくことに決めた。

いいか、よく聞け。俺は女が大好きだ、いや、だからと言って女になりたいってほど好きじゃない、性的に好きだ。本当は、こんなことしたくないんだけども、こっちにも大人の事情っていうものがあって、ああうんそう、ちなみに俺は成人済みだ安心してくれ、そして非童貞だから。ああもう、おっさんキスも満足に出来ないのかよ。仕方ないな、好きにやりたいだろうけど、俺に全部任せろ。おっさんは楽しくないだろうけど、俺はもっと楽しくないんだからな。忘れんなよ。俺は童貞で死ぬのが可哀相だから、こうして、あげているんだからな。感謝しろよ。



事も終えて、満足するまでおっさんに精射させれば、俺は白い顔を青くさせていた。そろそろ、血をいただかないと、枯れちまう。隣で気持ちよさげに寝ているおっさんの上に跨れば腰に腕が巻かれた。散々精を吐いておいて、まだやりたいってか、ふざけんなよ。首に顔を埋めて、丁寧に太い動脈を浮き上がらせる。ああ、尻を撫で回すなおっさん、変な気分になるじゃないか。伸びている爪で喉仏を突いてあげたらやめてくれた。そうしたら激しくむせだした。ああ、そうだ、おっさんは病気あるんだったな、俺とこんなことしていいのか、って、そうだ、おっさんは自殺志願者だった。

楽に逝かせてあげたいのも山々なんだけど、なにせ、俺に汚いもん突っ込んであげさしたんだから、残念だけど、好きにさせてもらうよ。ここでも俺は主導権を持つね、いやはや、気持ちのよい話だ。

ねぇおっさん、聞いてよ。俺は吸血鬼だ。まぁまぁ…、って、ここにきて命乞いするなよ。死ぬのに怖じ気ついたのか、ダサいな。安心しろよ、おっさんはいずれ死ぬよ、だって俺と同じ病気だから。辛いのはこれから、下手に生きるより自殺を勧める。そこでだ、せっかくおっさんの童貞を卒業させてあげた俺に生き血をくれ。だってこれから死ぬんだろ、言ったじゃん、おれ吸血鬼、血が原動力、わかる?ああもう、おとなしく俺へのお礼だと……って、なんで悲観的になるんだよ、つか泣きだすなよ。ああもう、泣きたいのはこっちだ。

知ってるか、首から血を吸うのは大変なんだ。なにが悲しくてチューチュー吸わないといけないんだよ。やっぱ飲むなら、グイッと、ぜいたくに、ジョッキ並々で飲みたいわけさ。おっさんにもわかるだろう?酒をあびるように飲みたい日が。あるはずさ、でも、人から、大量に血を出すっていろいろと手間がかかるわけ。歯を突き立てたところにチューブをつなげてジョッキを満たすまで待つなんて、耐えられるわけないんだよ。そんなことしてたら日が暮れる。雑巾みたいにしぼったら血だけ綺麗に出てくれたらいいのに。指先をかじればそこから全部血が出てくれたらいいのに。なぁ、そうは思わないか、おっさん。

顔をあげて見たら、目を伏せて、おっさんは覚悟しているようにさえ思えた。いい心意気だ。じゃあ、いただいちゃうね。また、首に顔を埋める。犬歯を動脈に突き立てようか、いっそ皮膚を噛み千切って一思いに逝かせてやろうか迷っていたら、声をかけられた。手を繋ぎたいって、馬鹿にしてやろうかと思ったけど、なんかこのおっさんに情がわいてしまったから、左手を貸してあげることにした。そうしたら右手で指を絡ませてきた、なんだよ、気持ち悪い。

すまない、好きにしていいぞ、って言われなくてもそうさせていただくけどな。なら、これまた出血大サービスだ、ゆっくり、じわりじわり逝かせてやるよ。だんだんと意識が遠退いていくんだ、その時にいろんな人の顔が代わる代わる浮かび上がってくるんだ。この世に未練がましくなるんじゃないよ、おっさん、しっかり向き合え、ちゃんと俺が、手、繋いであげてるんだから。

貪った。新鮮な生き血を啜る。おっさんは苦しいのか気持ちいいのか、わからないような声をあげる。もう少しで、そんな余裕もなくなる。指が食い込まれる。おっさんの丸い爪が痛い。おいおい、そんな力むなよ、俺に案じろ、そうして眠れ。いい夢を見ろ。



吸い付くしたおっさんの身体は水分がもうなかった。真っ白、血の気がない、というか血がない。おっさんの顔をうかがった。なんだよ、出会った時よりだいぶいい顔しているじゃないか。どうやら楽に逝かせられたようだった、何より何より。指を解いて、胸の前で両手を組ませて部屋を出ていった。なぁ、俺って紳士だろ。もう童貞なんかとは死んでも関わりたくないけどな。



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