オオカミ男


僕は小さい頃からみんなと少し違っていた。見た目は同じだった。だけどちょっとだけ背が小さくて、おしゃべりがへたくそだった。だからよく虐められていた。よく突き飛ばされた。でも僕、僕ね、けんかは強い、らしいんだ。とっつかまれたら、頭がまっしろになっちゃってね。そしたらね、気付いたら僕をとっつかまえた子の耳たぶが口の中に入っているの。いっつもそうだった。知らない間に僕は勝っていた。そんな僕はみんなから嫌われていた、こわがられていた。産まれた時にママを亡くしていた僕はパパしかいなかった。たしかに僕はみんなと少し違っていた。みんなにオオカミっていじめられて泣いた時にパパは僕のね、背中をね、ポンポンしながら言ってくれた。僕はみんなと少し違う。でもオオカミじゃないって。パパは何でも知っている。雲の上のお国。虹の橋。雪の正体。だから僕はオオカミじゃないって事も知っている。

いつしか、僕を構う奴なんていなくなった。僕は少し大きくなった。でもみんなとは違う。女の子みたいな背しかないし、おしゃべりもへたくそ。言葉がじょうずに伝えられない。馬鹿にされる。しょっちゅうだ。でも、とっつかまれないから、頭がまっしろにならない。だからお口の中に耳たぶなんか入らない。でも、オオカミって言われる。なんでか分からない。パパに聞いてみた。そうしたら、パパ、僕の頭をポンポンしながら言ってくれた。オオカミなんかじゃないって。僕は大きくなって、夜を知って、月を知った。綺麗な月。それをみていたら身体がムズムズしちゃうの。だってあんなに綺麗なものを見たことがなかったから。だから大きな声でね、きれいですって言ってあげるの。そうしたら遠くから何か聞こえるの。きっと月の返事。だからまた、きれいですっていうの。そんな僕をみんながオオカミって言う。でもパパは、あんまり月とおしゃべりしないでって言う。僕はじょうずにおしゃべり出来ていないから、きれいですって、つたわらないらしい。パパも僕が何を言っているかわからないみたい。なんかちょっとムカついた。

また僕は成長した。背はかわらないし、おしゃべりもへたくそ。もう誰にもあっていない。さみしいな。さみしいよ。パパにきつくいわれているからお外にいけない。でもね、僕、パパがお仕事いってるときにね、ないしょでね、いってるの、お外。誰にもあわないようにして、細い道に入ったらね、ワンワンいうやつがいるの。僕はそいつと遊ぶの。でもそいつの言ってることがわかんない。だってワンワンしかわかないんだもん。それにね、毛むくじゃらでね、おててもつかって歩くんだ。僕はみんなと少し違うけど、こいつはだいぶ違う。でも仲良くなれそうなんだ。だからね、そいつといる時は僕もおててで歩くの。仲良くなりたいから。

でもね、パパにばれちゃったの。なんでか知らないけど、そいつとネズミってゆー小さいホコリみたいなものを食べている時に。僕はおててをつかって歩くのがじょうずになっていたし、そいつの鼻と僕の鼻をごっつんさせたら何を伝えたいか、だいたいの事がわかるようになっていた。そう、僕はおしゃべりがじょうずになった。あとね、そいつはパパみたいな年だけど、僕より小さいんだ。だからね、僕は背がちいさくないの。お外にでたことは怒るだろうけど、でも成長した僕をパパは褒めてくれると思うの。

パパー、パパー。僕ね、きいて、おしゃべりね、ほら、おじょうずでしょ。あのね、僕ね、背もちいさくないの。パパ、すごいでしょ、ねぇパパ。

お座りして、パパをみる。頭ポンポンして、背中ポンポンしてよ。僕は褒めてって、言った。パパは変な顔をした。おしゃべりはじょうずになったから、ただ聞こえてないだけだと思った。だからまた言ってあげたの。そうしたらね、パパはね、僕のほっぺたをなぐったんだ。いたい。口の中でネズミみたいな味がした。そうしてすぐにパパは僕にとっつかまってきた。ダメだよ、パパ。パパは真っ赤な顔。ものすごく怒ってる。パパ、やめて。また僕をなぐった。ああ、パパ。僕は、頭がまっしろになっちゃったよ。



気付いた時にはパパはいなくなっていた。口の中には、なんにもなかった。だから、きっとなんもなくて、パパは先に帰ったんだってわかった。ネズミの味と臭いがした。真っ赤になった大きなネズミが目の前に落ちていた。ワンワンいうやつが鼻をごっつんさせてきた。これ、たべていいか。そうして、はっとした。だってもう、お外が真っ暗だったから。パパにおこられちゃう。怒られるのはいやだ、だいきらいだ。ワンワンいうやつは、きにすんなって言う。僕はうなずく。そいつは大きなネズミにとびついていった。そうしてそいつは直ぐに、おいしいとこだけくったなって言った。僕はよくわからなくて、月をみた。そしたらね、月がね、赤くてね、まんまるでね、すっごく、すっごく綺麗だったの。だからね、お家にいるパパにもきこえるようにね、大きな声で言ったんだ。きれいですって。きれいですって。そいつも続けて言った。きれいですって。そしたらね、誰かがこの細い道を通りかかったんだ。めがあった。真っ暗だったけど、よくみえた。女の人。そうしてその人は僕をみて言ったんだ。オオカミだって。僕ね、頭がまっしろになっちゃったよ。だって、僕はオオカミじゃないもん。ねぇパパ。



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