ケーキ
ブルーベリージャムをビンごとひっくり返したような深い空。コートの袖を手一杯伸ばし、両手を擦り合わせて隙間に息を吹き掛ければ、吐息の白だけが残る。
「いやぁ、さむいねー」
「実際この寒さ異常だから」
隣では両手をポケットに差し込んで、マフラーで鼻まで隠し、身を縮こませながら今にも泣きだしそうな顔をしている友人がいる。
「それにまだ五時だよー?」
「んもーっ、ありえないから!」
「いま、ありえてるからー」
「いやいやいや、これはないわ」
厳しい寒さにヒィヒィ悲鳴を上げる友人がアホっぽくて可愛いな、と思った。私はこんな可愛い仕草が出来ないから、余計愛おしいと思える。
「そうだ、彼氏さんと最近どー?」
「どうって、えー、普通だよ?」
「ふふっ、じゃあ幸せなんだー」
「何それ、私が実感してないだけみたいな?」
私が空を見上げれば釣られて彼女も上を向いた。ここに生じる気持ちの僅かなすれ違い、だけど終わりはこないと思っている。今日も満天の夜空。
「甘ったるいなーかわいー」
「なに急に、意味わかんない」
「リア充してて可愛いなーって」
「なぁに、好きな人でもいるの?」
足元に気を付けながら並んで歩く。やっぱり雪道だから思った以上に全然進んでいなくって、力なく笑った。
「あっ!その反応はいるな」
「ふふっ、ないしょー」
甘酸っぱい言葉を飲み込んで笑えば彼女も笑う。それが仕合わせ。他愛ないもない恵まれた幸せ。彼女が倖せなら私もシアワセ。
冷たい風が頬を撫でた。