恋愛考察



恋愛とは、いわばドミノ倒しのようなものだと思う。

2人が出会い、恋に落ちる。それから2人で何気ない日常に色をつけて、コツコツ積み重ねていく。

それは、大人の遊び。


彼とのちょっとした気持ちのすれ違いからドミノは揺らぐ。わだかまりが取れなければ違和感だらけでドミノを並べる。同じ空間に住んでいれば、次第に彼との会話は減り、居心地が悪くなる。

ただなんとなく、一緒に居る、だけの真っ白な日々が続く。彼の帰りだってあてにならない。2人で選んだはずの部屋は、ただの箱になり、大切なのは箱の中身であったはずなのに、いまはこの箱が唯一のものになった。

「ただいま」のない彼の冷たい帰宅。音だけが彼の存在を伝える。小さなリビングの隅に置かれたテレビが若手の芸人を困らせるだけのくだらない番組をうつす。彼がその正面、定位置に座った。

彼はテレビをつまらなそうに、ただ黒目を向けているだけ。昔は2人で早起きなんかして、彼が昔から好きで欠かさず観るという子供向きの戦隊ヒーローを肩を並べて観ていた、なんて思いだした。

この部屋には2人の楽しかった思い出が染み込んでいる。なんてことない椅子の足とか、机の角とか、カーテンだとか。

どれもこれもキリがない。

私は静かにポシェットから、この部屋のスペアキーを取り出す。鍵のリングにぶらさがっているのは彼が私にくれた、あのヒーローの飾り。

鍵とキーホルダーがぶつかり音をたてる。

彼はわずかにその音に反応したけど、決して私の方へは向かなかった。止めてほしいなんて期待していない。いずれ彼とは別れる運命。だったら私から別れるだけの話。

今となっては私は彼のどこに惚れたのかもわからないし、なにが原因でこうなったのかもわからなくなった。

それから改めて部屋をクルリと見回す。味気ない箱、私はなにも感じなくなっていた。未練なんてなくなった。


「鍵…ここに置いてくから……、もらったキーホルダーも、…汚くなっちゃったけど返すね……」


ソファーから立ち上がって真っ暗な玄関までいく。くたびれたスニーカーが散乱している中に、私の靴は陳列していた。私は彼の靴を踏まないように移動してドアノブを回す。少しだけ開ければ新鮮な空気が流れ込む。

最後に、と。半身だけ彼に向けてみる。彼は背中を丸めて小さなテレビ画面を観ているだけだった。


「じゃあね…」


部屋から一歩、外にでた。部屋の向こう側は、もうすぐで冬だというのに、ただ風が冷たいだけのキラキラ眩しい晴天だった。

私はドアの前でしばらく立ち尽くし、ぼんやり流れる雲を見つめていた。空はこんなに青かったっけ、なんて考える。

そうしていれば、カチャン、と音。

内側から閉められた鍵の音だ。

私にはその音がドミノが倒れる音に聞こえた。

さようなら、永遠を夢見た人。

私は胸いっぱいに空気を吸い込んで、もう後ろを振り返らずに歩きだした。後始末は時間に任せればいい。

これが大人のドミノ倒し。


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このサイトはあと数ヶ月たらずで二年目に突入いたしますが、やっと「祝!一周年企画」を消費しはじめるという、もはや詐欺まがいなサイトですね…!

匿名でリクエストをいただいたものになります。「ドミノ/鍵/戦隊ヒーロー」より、このお話を生み出しました。うまい具合にお題を生かし切れているようで、いないような、なんとも言えない感じになりましたね!別れ話ですしね!鍵をスペアキーとおいたあたり、私自身としてはすんごいヒラメキ!だったんですが、これを書いている間に、別にどうってことないヒラメキだなぁ、としょんぼりしました。

とっても楽しく書かせていただきました!リクエストしてくれた方!もう一年も前ですし、ランキングからも撤退しているので届くかどうかわかりませんが、リクエストありがとうございました!!!





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