「ねぇ、真ちゃん」
「なんなのだよ…」


もし俺が女の子だったら嬉しい?、なんて興味本位で聞いてみた。それはお互い産まれた時の姿になって、愛なんか呟いてみたりなんかして、男女で行う生殖行動みたいな真似事なんかした後だった。返ってくる返事はどうあれ、もしも、なんてくだらない妄想を抱かせてみたかっただけ、なのかもしれない。

真ちゃんはライトスタンドに置いた眼鏡を手に取ると伏せた目に掛けた。お互い大人になって、少し変わったけど根本は何にも変わっていない。だから、こうして今でも付き合っている。恋愛的なのかどうか、自分でもはっりきしていないけど、そこら辺はどうでもいい。繋がっているならそれでいい。


「ふんっ、くだらないのだよ」
「そーいわないでさー」


骨張った背中に頬擦りをして精一杯甘えてみる。俺はただ甘いピロートークをしたいわけじゃない。本当に真ちゃんは、男の俺で満足しているのか、とか、俺との間に子供が欲しい、とか。別に聞いて知ったところで、あっそう、で終わってしまうし、俺は100%女の子になれるわけじゃないから、そう受け止めるだけ。今の関係も変わらないと思う。俺はただ真ちゃんの気持ちが知りたいだけなんだ。


「ねぇ、真ちゃん…」
「………高尾、」

「うん、なに?」
「俺はお前にそんな事を考えさせてしまうほど不安にさせていたのか?」


間抜けな声が出た。相手に聞こえるかどうかという小さな声だった。正直、驚いた。それが真ちゃんの答えだった。本当に、この人は予想の斜め上を行く。だから、不毛な関係でいても長く続くし、息苦しさも感じないのだ。いつも、毎日が新鮮なのだ。それは俺の日常の刺激になって、いい味を出してくれるスパイスでもある。ずっと一緒じゃなくていい。それでも、一緒にいたいと思える人。


「高尾?」
「ああもう真ちゃん超好き!」

「は?」
「んふふー」


返事をしない俺を心配した真ちゃんが振り向いてくれた。まだ眠気が取れていない真ちゃんの首に抱きついて耳元で笑えば、くすぐったいのが嫌だったみたいで肩をすくめた。その流れで唇を重ねれば、なんだか、すべてがどうでもよくなった。


title:ハチミツに溺れた真夜中



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