青峰とは黄瀬繋がりの関係だ。それは強いものでも脆いものでもなく、ただ繋がっている、それだけの事実。深い関係ではない。数度肉体が繋がった事があるだけで深い関係とは言い難い。愛はない。事実だけがある。

俺は高校三年。人生の岐路に立たされている。だけども実際はそうではない。もう決められていたようなもの。いやらしい話、大学でも社会人でもバスケで俺を欲しがっている。まだ行き先を決めてはいない。言わば品定め段階。きっとこの先もバスケとは永く付き合って行くのだろう。腐れ縁のように切っても切れない、そんな関係。だからこそ、自分のプレイスタイルにあった所へいきたい。辛くない練習なら練習とは言わない。自分の身の丈より大きい将来の道がまだ、見当たらない。


「……笠松さん、今日来るんだろ?」


震えた着信。通話ボタンを押せば鼓膜に響いた重低音。名前を確認する必要性なんてない。いつも、こうして強引に誘われるのだが、今日は少しだけ機嫌が悪いみたいだ。


「…お前が、来い」
「なんで」

「…………」
「…いいから、来いよ」


ぷつり、と糸が切れたように終わった会話。今日は本当に機嫌が悪いみたいだ。

無音になった携帯を閉じてベッドに横になる。何もない天井。目を閉じれば半裸の青峰が残像として浮かぶ。汗ばんだ肌に熱っぽい吐息。しかしそれも記憶が曖昧である。

また、あの部屋に行くのか。

青峰の部屋には何度も訪れている。彼が寮で暮らしている、というのもあってか、使い勝手がいいものなのだが、それが嫌だった。

青峰の暴君さは、寮の規則すらをもたじろぐ。一人部屋で他人の出入りを自由にさせ、門限なんて無いに等しい。だからついつい、入り浸ってしまう。いけないと、分かっていながらも、いけないことをする。いつから俺はこんなのになってしまったのか分からない。歯車の噛み合わせが丸くなってしまった。


「おい、青峰」


一応、人目を気にして部屋まできた。靴を脱いで、汚なく散らかった部屋の様子に思わず溜め息。雑誌だったり、服だったり、食べかけのサンドウィッチもあればゴミもある。不甲斐ないことに、この中には俺の私物も埋もれていたりするから、悔しい。


「おい!」
「おー…、おかえり」

「…ただいま、って…おい」
「……あ?なんだよ」


フアァ、と目尻を光らせながらアクビをする青峰に「ジロジロ見んな」と言われたが、そういうわけにはいかない。


「それ…俺の……」
「あぁ?……そうだっけ?」

「そうだよ!」
「いーじゃねーかよ、別に」


ふらふらと近寄ってきて、上から唇を押さえつけられる。ただ重ねるだけではなく、上唇を食べてしまいそうなキス。その間、俺はどうしていいのか分からず、取り敢えず背中に腕を回す。


「……俺のもん」
「返せ…伸びちまうじゃねーかよ」

「…何の話だ?」
「そのTシャツだよ!」


人差し指でグッグッとTシャツを突いてやれば、意味もなく笑われて、どうしてか、顔が熱くなってきた。


「これも、俺のだ」
「やった覚えはない」

「俺んとこにあるんだから、俺の」
「勝手に言ってろ」


部活終わりなどに訪れたら替えのTシャツを持ち合わせるのは運動部だから当たり前のことで、つまり、ここに来て、汗をかくような事をしているわけで、その事実を改めて突き付けられているように思えて恥ずかしくなったのだ。


「笠松さん、」


まだ靴しか脱いでいない玄関で、青峰は欲情仕切った熱い声で俺を呼んだ。


「せめて場所……」
「いーじゃねーかよ、ここでも」

「俺が嫌だ」
「ああもう、うるっせーなぁ」


そんな悪態をつきながら、俺を抱き上げてずんずんと部屋の中に連れて行かれる。こうされることは好きではないから、肩口に顔を埋めて呼吸を繰り返す。


「なぁ…、笠松さん……」
「あ?……なんだよ」

「言わないだけだから…」
「……あっそ、」


意味が分からない、というのも疲れるくらいしてきたこのやり取り。どういう意味があるのか、俺には分からないが、深くはきかない。それは俺と青峰の、言葉にしきれない曖昧な関係と似たようなものだと思える。

このままでいいわけないのだが、この繋がりの脆さを知りたくなくて、青峰の顔が近づいてきて、俺は何もかもから逃げるように、目を閉じた。


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リクエストで書いた『先輩』の世界観





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